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第15話「明かされるループの真実」
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アシュレイの嫉妬の嵐が過ぎ去った後、俺は三日間ベッドから動けなかった。
彼は本当に手加減というものを知らなかった。
その間アシュレイは甲斐甲斐しく俺の看病をしてくれたが、その顔には反省の色など微塵もなく、むしろ満足げな表情すら浮かべていた。
「これで君が誰のものか、学園中の誰もが理解しただろう」
『いや、理解したのは俺の体だけだ!』
そんなツッコミももはや虚しいだけだった。
ようやく体が動くようになった日、俺はずっと気になっていたことをアシュレイに尋ねることにした。
「なあ、アシュレイ」
書斎でソファに座って本を読んでいた俺は、隣で書類に目を通していた彼に声をかけた。
「君が何度も世界を繰り返していたっていう話。……もっと詳しく聞かせてくれないか」
俺の言葉にアシュレイはペンを置いた。
その顔は少しだけ翳りを帯びていた。
それは彼にとって、あまり思い出したくない記憶なのだろう。
「……今さらそんなことを聞いて、どうするんだ?」
「知りたいんだ。お前がどんな思いで、あの百回を過ごしてきたのか。俺はお前の番なんだ。お前の痛みもちゃんと知っておきたい」
俺の真剣な瞳を見て、アシュレイは観念したように深いため息をついた。
「……わかった。話そう。私の、長く、そして虚しい物語を」
彼はゆっくりと語り始めた。
彼が最初の記憶――つまり自分がBLゲーム『聖アストライア魔導学園の恋詩』の登場人物アシュレイに転生したのだと自覚したのは、物心ついた頃だったという。
最初は彼も物語の主人公として、ゲームのシナリオ通りに生きようとした。
ヒロインのリリアナと出会い恋に落ち、仲間たちと共に帝国に迫る脅威(ゲームのラスボスである魔王)を打ち倒した。
その過程で悪役令息であるルシアンは、原作通りに断罪され没落していった。
「一周目の私は、それが正しい結末なのだと思っていた。だがヒロインと結ばれ王座につき、すべてを手に入れたはずなのに、心には大きな穴が空いたままだった」
なぜだろう、と彼は思った。
そして彼は死んだ。老衰だったのか、あるいは事故だったのか、記憶は曖昧らしい。
だが次に目覚めた時、彼は再び幼いアシュレイとしてこの世界に生を受けていた。
「二周目もほぼ同じ結末を辿った。だがルシアンが断罪される姿を見た時、一周目よりも強く胸が痛んだんだ」
それからループは何度も繰り返された。
三周目、四周目……。彼は別の攻略対象とヒロインが結ばれるルートも、すべて見届けた。
だがどのルートを辿っても、必ずルシアンは破滅する運命にあった。
彼は物語の「悪役」として、そう定められていたからだ。
「十周目を過ぎたあたりから、私はヒロインを愛することができなくなった。彼女が笑うたびにルシアンが不幸になる。彼女の存在そのものが、ルシアンを破滅に導くトリガーなのだと気づいてしまったからだ」
彼はルシアンを救おうと試みた。
ルシアンにリリアナに関わらないよう忠告したり、彼らの仲を取り持とうとしたり。
だが無駄だった。「シナリオの強制力」とでも言うべき強大な力が働き、どんなに足掻いても物語は必ずルシアンの断罪という結末に収束してしまう。
「五十周目を迎える頃には、私の心は完全に壊れていた。愛も正義も友情も、すべてが虚しく思えた。ただルシアンが不幸になるという結末だけが、何度も、何度も私の目の前で繰り返される。それは地獄だった」
彼の声は淡々としていた。
だがその声に含まれた絶望の深さは計り知れない。
想像を絶する孤独。終わりのない地獄。
彼はたった一人で、それに耐えてきたのだ。
「そして九十九回目の人生で、私はついに魔王に負けた。いや、わざと負けたんだ。もうすべてを終わらせたかった。世界が滅びれば、ルシアンが不幸になることもないだろう、と」
だが世界は滅びなかった。
彼が死んだ瞬間、世界は再び巻き戻った。
百回目の人生が始まったのだ。
「その時私は悟った。このループから私に逃げ場はないのだ、と。ならばもう足掻くのはやめよう。シナリオに抗うのではなく、シナリオそのものを私の望むように根底から書き換えてしまえばいいのだ、と」
彼のサファイアの瞳に、狂気と、そして決意の光が宿った。
「百回目の人生で、私は初めてヒロインを完全に無視した。そして最初から君だけを求めた。シナリオの強制力? そんなもの私の執着の前では無力だった。私が君を愛する力は、この世界のシステムさえも捻じ曲げたんだ」
そして彼は、この百一周目の世界で俺と出会った。
同じ、転生者である俺と。
「君が私と同じ転生者だと気づいた時は驚いた。だが同時に歓喜した。これは運命なのだ、と。神が百回の地獄を耐え抜いた私に、ようやく与えてくれたご褒美なのだ、と」
すべてを話し終えたアシュレイは、疲れたように息を吐いた。
俺は言葉もなかった。
彼の背負ってきたものの重さが、あまりにも大きすぎて。
「……辛かったな」
ようやく絞り出したのは、そんなありきたりな言葉だった。
だがアシュレイはそれを聞いて、穏やかに微笑んだ。
「もう辛くはない。君がそばにいてくれるからな」
彼は俺の体を、優しく引き寄せた。
「君が私の百年の孤独を、終わらせてくれたんだ、ルシアン」
俺は彼の胸に顔を埋めた。
涙が止まらなかった。
彼のために泣いているのか。自分のために泣いているのか。
もうわからなかった。
ただ一つだけはっきりとわかったことがある。
俺は、この人のために生きよう。
この人が百回の絶望の果てにようやく掴んだ幸せを、俺が絶対に守り抜いてみせる。
俺たちの出会いは偶然ではなかった。
それは百年の時を超えた、必然だったのだ。
俺は彼の腕の中で、強くそう信じた。
彼は本当に手加減というものを知らなかった。
その間アシュレイは甲斐甲斐しく俺の看病をしてくれたが、その顔には反省の色など微塵もなく、むしろ満足げな表情すら浮かべていた。
「これで君が誰のものか、学園中の誰もが理解しただろう」
『いや、理解したのは俺の体だけだ!』
そんなツッコミももはや虚しいだけだった。
ようやく体が動くようになった日、俺はずっと気になっていたことをアシュレイに尋ねることにした。
「なあ、アシュレイ」
書斎でソファに座って本を読んでいた俺は、隣で書類に目を通していた彼に声をかけた。
「君が何度も世界を繰り返していたっていう話。……もっと詳しく聞かせてくれないか」
俺の言葉にアシュレイはペンを置いた。
その顔は少しだけ翳りを帯びていた。
それは彼にとって、あまり思い出したくない記憶なのだろう。
「……今さらそんなことを聞いて、どうするんだ?」
「知りたいんだ。お前がどんな思いで、あの百回を過ごしてきたのか。俺はお前の番なんだ。お前の痛みもちゃんと知っておきたい」
俺の真剣な瞳を見て、アシュレイは観念したように深いため息をついた。
「……わかった。話そう。私の、長く、そして虚しい物語を」
彼はゆっくりと語り始めた。
彼が最初の記憶――つまり自分がBLゲーム『聖アストライア魔導学園の恋詩』の登場人物アシュレイに転生したのだと自覚したのは、物心ついた頃だったという。
最初は彼も物語の主人公として、ゲームのシナリオ通りに生きようとした。
ヒロインのリリアナと出会い恋に落ち、仲間たちと共に帝国に迫る脅威(ゲームのラスボスである魔王)を打ち倒した。
その過程で悪役令息であるルシアンは、原作通りに断罪され没落していった。
「一周目の私は、それが正しい結末なのだと思っていた。だがヒロインと結ばれ王座につき、すべてを手に入れたはずなのに、心には大きな穴が空いたままだった」
なぜだろう、と彼は思った。
そして彼は死んだ。老衰だったのか、あるいは事故だったのか、記憶は曖昧らしい。
だが次に目覚めた時、彼は再び幼いアシュレイとしてこの世界に生を受けていた。
「二周目もほぼ同じ結末を辿った。だがルシアンが断罪される姿を見た時、一周目よりも強く胸が痛んだんだ」
それからループは何度も繰り返された。
三周目、四周目……。彼は別の攻略対象とヒロインが結ばれるルートも、すべて見届けた。
だがどのルートを辿っても、必ずルシアンは破滅する運命にあった。
彼は物語の「悪役」として、そう定められていたからだ。
「十周目を過ぎたあたりから、私はヒロインを愛することができなくなった。彼女が笑うたびにルシアンが不幸になる。彼女の存在そのものが、ルシアンを破滅に導くトリガーなのだと気づいてしまったからだ」
彼はルシアンを救おうと試みた。
ルシアンにリリアナに関わらないよう忠告したり、彼らの仲を取り持とうとしたり。
だが無駄だった。「シナリオの強制力」とでも言うべき強大な力が働き、どんなに足掻いても物語は必ずルシアンの断罪という結末に収束してしまう。
「五十周目を迎える頃には、私の心は完全に壊れていた。愛も正義も友情も、すべてが虚しく思えた。ただルシアンが不幸になるという結末だけが、何度も、何度も私の目の前で繰り返される。それは地獄だった」
彼の声は淡々としていた。
だがその声に含まれた絶望の深さは計り知れない。
想像を絶する孤独。終わりのない地獄。
彼はたった一人で、それに耐えてきたのだ。
「そして九十九回目の人生で、私はついに魔王に負けた。いや、わざと負けたんだ。もうすべてを終わらせたかった。世界が滅びれば、ルシアンが不幸になることもないだろう、と」
だが世界は滅びなかった。
彼が死んだ瞬間、世界は再び巻き戻った。
百回目の人生が始まったのだ。
「その時私は悟った。このループから私に逃げ場はないのだ、と。ならばもう足掻くのはやめよう。シナリオに抗うのではなく、シナリオそのものを私の望むように根底から書き換えてしまえばいいのだ、と」
彼のサファイアの瞳に、狂気と、そして決意の光が宿った。
「百回目の人生で、私は初めてヒロインを完全に無視した。そして最初から君だけを求めた。シナリオの強制力? そんなもの私の執着の前では無力だった。私が君を愛する力は、この世界のシステムさえも捻じ曲げたんだ」
そして彼は、この百一周目の世界で俺と出会った。
同じ、転生者である俺と。
「君が私と同じ転生者だと気づいた時は驚いた。だが同時に歓喜した。これは運命なのだ、と。神が百回の地獄を耐え抜いた私に、ようやく与えてくれたご褒美なのだ、と」
すべてを話し終えたアシュレイは、疲れたように息を吐いた。
俺は言葉もなかった。
彼の背負ってきたものの重さが、あまりにも大きすぎて。
「……辛かったな」
ようやく絞り出したのは、そんなありきたりな言葉だった。
だがアシュレイはそれを聞いて、穏やかに微笑んだ。
「もう辛くはない。君がそばにいてくれるからな」
彼は俺の体を、優しく引き寄せた。
「君が私の百年の孤独を、終わらせてくれたんだ、ルシアン」
俺は彼の胸に顔を埋めた。
涙が止まらなかった。
彼のために泣いているのか。自分のために泣いているのか。
もうわからなかった。
ただ一つだけはっきりとわかったことがある。
俺は、この人のために生きよう。
この人が百回の絶望の果てにようやく掴んだ幸せを、俺が絶対に守り抜いてみせる。
俺たちの出会いは偶然ではなかった。
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俺は彼の腕の中で、強くそう信じた。
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