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第14話「甘い束縛と初めての嫉妬」
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俺とアシュレイが真の意味で恋人同士になってから、彼の溺愛ぶりは以前にも増して加速していた。
以前のそれが「監禁」と「監視」を伴う歪な束縛だったとすれば、今のそれはただひたすらに甘く、そして少しだけ過保護がすぎる恋人としての束縛だった。
「ルシアン、朝だ。起きないと私が君を食べてしまうぞ」
毎朝、優しいキスと共にそんな物騒な言葉で起こされる。
食事の時には俺が少しでも眉をひそめれば、その皿を即座に下げさせ別の料理を用意させる。
俺が少しでも咳をすれば、宮廷魔導師を呼びつけようとする。
正直、少し、いや、かなり過保護がすぎる。
「俺は子供じゃないんだぞ」
「知っている。私の、愛しい番だ」
そう言って、彼は俺の髪をうっとりと撫でる。
もう何を言っても無駄だ、と俺は早々に諦めた。
そんなある日、俺は久しぶりに学園に顔を出していた。
長期休学していた分の補習を受けるためだ。もちろんその隣には、護衛と称してぴったりと張り付くアシュレイの姿があった。
「私が教えてやるから、補習など必要ないと思うのだが」
「そういうわけにはいかないだろう。俺はちゃんと自分の力で卒業したいんだ」
俺がそう言うと、アシュレイは少し不満そうな顔をしたがしぶしぶ納得してくれた。
久しぶりに訪れた学園は何も変わっていなかった。
ただ俺を見る周囲の目が、以前とはまったく違うものになっている。
以前は恐怖と侮蔑。今は好奇心と少しの畏敬。
そしてアシュレイが俺に向ける砂糖を煮詰めたような甘い視線に、遠巻きに当てられているという感じだった。
補習を終え、図書館で調べものをしていると不意に声をかけられた。
「……ヴァイスハイト様」
振り返ると、そこに立っていたのはSクラスのクラスメイトである赤毛の快活な印象の男子生徒だった。
確か名前はカイン・フォン・エアハルト。騎士爵家の息子で剣術に秀でた、クラスの人気者だ。
以前はアシュレイのせいで、まともに話したこともなかった。
「エアハルトか。何か用か?」
「いえ、その……お体がもうよろしいのかと。夜会では大変でしたね」
彼は少し気まずそうに、しかし心配そうに俺に言った。
「ああ、もう大丈夫だ。心配してくれてありがとう」
俺が素直に礼を言うと、カインは少し驚いた顔をした。
きっと俺のことを、もっと高慢で近寄りがたい人間だと思っていたのだろう。
「いえ、そんな……。それより休んでいた間の授業のノート、よかったらお貸ししますよ。俺、字は綺麗じゃないですけど」
「本当か? それは助かる」
思わぬ申し出に、俺は素直に喜んだ。
カインははにかむように笑うと、「じゃあ、今度お持ちしますね」と言って去っていった。
ほんの少しの会話だったが、俺は嬉しかった。
学園で初めて、普通の友達ができたような気がして。
だがそのささやかな喜びは、すぐに打ち砕かれることになる。
俺たちの会話を、少し離れた席で氷のような目で見ていた人物がいたからだ。
言うまでもなく、アシュレイだ。
図書館からの帰り道、アシュレイは一言も口をきかなかった。
彼の周りには明らかに不機嫌なオーラが漂っている。これは非常にまずい兆候だ。
別邸に戻るなり、アシュレイは俺の腕を掴んで寝室へと強引に引きずり込んだ。
そして乱暴にドアを閉めると、俺を壁に追い詰めた。
「……あいつは、誰だ」
地を這うような低い声。
そのサファイアの瞳には、暗い嫉妬の炎が燃え上がっていた。
「誰って……クラスメイトのエアハルトだ」
「なぜあんなに親しげに話をしていた? なぜあいつは君に笑いかけ、君もあいつに笑いかけていた?」
矢継ぎ早に俺を詰問する。
その剣幕に俺は少し、たじろいだ。
「ただノートを貸してくれるという話をしてただけだ。それ以上でもそれ以下でもない」
「嘘だ。あいつは君をいやらしい目で見ていた。君に気があるのは明らかだった」
『そんなこと、あるわけないだろ!』
被害妄想もここまでくると病気だ。
だが嫉妬に狂ったアルファに、理屈は通用しない。
「君は私がいながら、他の男に気があるのか?」
「違う! そんなわけないだろう!」
俺が必死に否定すると、アシュレイは苦しげに顔を歪めた。
「なら、証明してくれ」
「……証明?」
「君が私だけのものだということを。君の体にも心にも、私以外の男が入り込む隙など一ミリもないということを」
彼はそう言うと、俺の唇を激しく塞いだ。
それはいつもの甘いキスではなかった。
俺を罰するかのような、荒々しくて少しだけ暴力的なキス。
俺のすべてを自分の色で染め上げようとする、独占欲の塊。
「ん……っ、アシュレ……!」
息ができない。
だが彼は俺を解放しようとはしなかった。
それどころか俺の服の中に、冷たい指を滑り込ませてくる。
「君が悪いんだ、ルシアン。私以外の男に、あんな顔を見せるから」
耳元で掠れた声が囁く。
「罰だ。二度と他の男にうつつを抜かせないよう、君の体に私が誰のものなのか、徹底的に教え込んでやる」
これはただの嫉妬だ。
わかっている。だがその独占欲の強さに、俺は恐怖よりも先に愛されているという実感を感じてしまった。
彼をこんなにも狂わせてしまうほど、俺は彼に愛されているのだと。
その事実に、ゾクゾクとした悦びが背筋を駆け上った。
「……好きにしろよ」
俺は観念したように呟いた。
「どうせ俺の全部、お前のものなんだから」
俺の言葉は彼の理性を焼き切る、最後の引き金になったようだった。
アシュレイの瞳が、さらに深い欲望の色に染まる。
「……後悔しても、知らないぞ」
その日、俺はアシュレイの嫉妬がいかに恐ろしいものか、そしてそれがいかに甘美なものかを、骨の髄まで思い知らされることになった。
翌日、俺が腰の痛みでベッドから起き上がれなくなり、カインとの約束を果たせなくなったのは言うまでもない。
以前のそれが「監禁」と「監視」を伴う歪な束縛だったとすれば、今のそれはただひたすらに甘く、そして少しだけ過保護がすぎる恋人としての束縛だった。
「ルシアン、朝だ。起きないと私が君を食べてしまうぞ」
毎朝、優しいキスと共にそんな物騒な言葉で起こされる。
食事の時には俺が少しでも眉をひそめれば、その皿を即座に下げさせ別の料理を用意させる。
俺が少しでも咳をすれば、宮廷魔導師を呼びつけようとする。
正直、少し、いや、かなり過保護がすぎる。
「俺は子供じゃないんだぞ」
「知っている。私の、愛しい番だ」
そう言って、彼は俺の髪をうっとりと撫でる。
もう何を言っても無駄だ、と俺は早々に諦めた。
そんなある日、俺は久しぶりに学園に顔を出していた。
長期休学していた分の補習を受けるためだ。もちろんその隣には、護衛と称してぴったりと張り付くアシュレイの姿があった。
「私が教えてやるから、補習など必要ないと思うのだが」
「そういうわけにはいかないだろう。俺はちゃんと自分の力で卒業したいんだ」
俺がそう言うと、アシュレイは少し不満そうな顔をしたがしぶしぶ納得してくれた。
久しぶりに訪れた学園は何も変わっていなかった。
ただ俺を見る周囲の目が、以前とはまったく違うものになっている。
以前は恐怖と侮蔑。今は好奇心と少しの畏敬。
そしてアシュレイが俺に向ける砂糖を煮詰めたような甘い視線に、遠巻きに当てられているという感じだった。
補習を終え、図書館で調べものをしていると不意に声をかけられた。
「……ヴァイスハイト様」
振り返ると、そこに立っていたのはSクラスのクラスメイトである赤毛の快活な印象の男子生徒だった。
確か名前はカイン・フォン・エアハルト。騎士爵家の息子で剣術に秀でた、クラスの人気者だ。
以前はアシュレイのせいで、まともに話したこともなかった。
「エアハルトか。何か用か?」
「いえ、その……お体がもうよろしいのかと。夜会では大変でしたね」
彼は少し気まずそうに、しかし心配そうに俺に言った。
「ああ、もう大丈夫だ。心配してくれてありがとう」
俺が素直に礼を言うと、カインは少し驚いた顔をした。
きっと俺のことを、もっと高慢で近寄りがたい人間だと思っていたのだろう。
「いえ、そんな……。それより休んでいた間の授業のノート、よかったらお貸ししますよ。俺、字は綺麗じゃないですけど」
「本当か? それは助かる」
思わぬ申し出に、俺は素直に喜んだ。
カインははにかむように笑うと、「じゃあ、今度お持ちしますね」と言って去っていった。
ほんの少しの会話だったが、俺は嬉しかった。
学園で初めて、普通の友達ができたような気がして。
だがそのささやかな喜びは、すぐに打ち砕かれることになる。
俺たちの会話を、少し離れた席で氷のような目で見ていた人物がいたからだ。
言うまでもなく、アシュレイだ。
図書館からの帰り道、アシュレイは一言も口をきかなかった。
彼の周りには明らかに不機嫌なオーラが漂っている。これは非常にまずい兆候だ。
別邸に戻るなり、アシュレイは俺の腕を掴んで寝室へと強引に引きずり込んだ。
そして乱暴にドアを閉めると、俺を壁に追い詰めた。
「……あいつは、誰だ」
地を這うような低い声。
そのサファイアの瞳には、暗い嫉妬の炎が燃え上がっていた。
「誰って……クラスメイトのエアハルトだ」
「なぜあんなに親しげに話をしていた? なぜあいつは君に笑いかけ、君もあいつに笑いかけていた?」
矢継ぎ早に俺を詰問する。
その剣幕に俺は少し、たじろいだ。
「ただノートを貸してくれるという話をしてただけだ。それ以上でもそれ以下でもない」
「嘘だ。あいつは君をいやらしい目で見ていた。君に気があるのは明らかだった」
『そんなこと、あるわけないだろ!』
被害妄想もここまでくると病気だ。
だが嫉妬に狂ったアルファに、理屈は通用しない。
「君は私がいながら、他の男に気があるのか?」
「違う! そんなわけないだろう!」
俺が必死に否定すると、アシュレイは苦しげに顔を歪めた。
「なら、証明してくれ」
「……証明?」
「君が私だけのものだということを。君の体にも心にも、私以外の男が入り込む隙など一ミリもないということを」
彼はそう言うと、俺の唇を激しく塞いだ。
それはいつもの甘いキスではなかった。
俺を罰するかのような、荒々しくて少しだけ暴力的なキス。
俺のすべてを自分の色で染め上げようとする、独占欲の塊。
「ん……っ、アシュレ……!」
息ができない。
だが彼は俺を解放しようとはしなかった。
それどころか俺の服の中に、冷たい指を滑り込ませてくる。
「君が悪いんだ、ルシアン。私以外の男に、あんな顔を見せるから」
耳元で掠れた声が囁く。
「罰だ。二度と他の男にうつつを抜かせないよう、君の体に私が誰のものなのか、徹底的に教え込んでやる」
これはただの嫉妬だ。
わかっている。だがその独占欲の強さに、俺は恐怖よりも先に愛されているという実感を感じてしまった。
彼をこんなにも狂わせてしまうほど、俺は彼に愛されているのだと。
その事実に、ゾクゾクとした悦びが背筋を駆け上った。
「……好きにしろよ」
俺は観念したように呟いた。
「どうせ俺の全部、お前のものなんだから」
俺の言葉は彼の理性を焼き切る、最後の引き金になったようだった。
アシュレイの瞳が、さらに深い欲望の色に染まる。
「……後悔しても、知らないぞ」
その日、俺はアシュレイの嫉妬がいかに恐ろしいものか、そしてそれがいかに甘美なものかを、骨の髄まで思い知らされることになった。
翌日、俺が腰の痛みでベッドから起き上がれなくなり、カインとの約束を果たせなくなったのは言うまでもない。
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