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第21話「皇太子代理の覚悟と孤独な戦い」
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皇太子代理――それが今の俺の新しい肩書きだった。
その重圧は想像を絶するものだった。
俺はアシュレイの執務室で、彼が残した山のような書類と日々格闘することになった。
最初は反発も大きかった。
宰相をはじめとする保守的な貴族たちは、俺が政務の中心に立つことを快く思っていなかった。
「ルシアン様に何がお分かりになると言うのですか!」
「これは国の一大事。ままごとの延長でお考えになられては困ります」
会議の席で、俺は何度もそういった言葉を浴びせられた。
悔しかった。だが俺は決して感情的にはならなかった。
アシュレイならどうするだろうか。
俺は常にそれを考えた。
彼は決して感情で物事を判断しない。
常に冷静に、論理的に相手を説き伏せるはずだ。
俺は夜を徹して勉強した。
帝国の法律、財政、近隣諸国との関係。
侍従長に頭を下げ、家庭教師になってもらった。
彼は最初こそ渋っていたが、俺の本気の目を見て、やがて彼の知るすべての知識を俺に授けてくれるようになった。
少しずつ、だが確実に、俺は国政を把握していった。
そして会議の場で、俺は自分自身の言葉で大臣たちと渡り合えるようになっていった。
「その政策には三つの問題点があります。第一に財源の確保が不明確であること。第二に……」
俺が具体的なデータを挙げて反論すると、あれほど俺を馬鹿にしていた大臣たちも、ぐ、と口ごもるようになった。
俺は決して天才ではない。
だが俺にはアシュレイを守りたいという強い思いがあった。
その思いが俺を突き動かしていた。
それでも孤独だった。
広すぎる執務室で一人、書類の山に埋もれていると、ふとどうしようもない寂しさに襲われることがあった。
アシュレイに会いたい。
彼の声が聞きたい。
彼の温もりに触れたい。
そんな時はいつも、彼の寝室へ向かった。
彼はまだ眠り続けている。
だがその寝顔は以前よりも、少しだけ穏やかになっているような気がした。
「……アシュレイ。俺、頑張ってるぞ」
俺は彼の手を握りしめ、語りかけた。
「お前が安心して眠っていられるように、俺がこの国をちゃんと守っておくからな」
返事はない。
だが俺は、彼が聞いてくれているような気がした。
彼との繋がりが、俺に力を与えてくれた。
そんな俺の孤独な戦いを、見ていてくれた人たちもいた。
学園の友人だった、カイン・フォン・エアハルト。
彼は若手の騎士として王宮に仕えていた。
「……すごいですね、ルシアン様」
ある日廊下で会った時、彼は心からの尊敬を込めた目で俺に言った。
「誰もが貴方様を、ただの殿下のお飾りの妃だと思っていました。……俺もその一人でした。でも違った。貴方様は誰よりも強く、気高い人だ」
彼の言葉に、俺は少しだけ救われたような気がした。
わかってくれる人も、いるんだ、と。
「……ありがとう、エアハルト」
「カイン、と呼んでください。俺たちは友人でしょう?」
彼は悪戯っぽく笑った。
その笑顔に俺もつられて、笑みをこぼした。
少しずつ俺の周りにも味方が増えていった。
俺の国を想う真摯な姿勢を見て、頑なだった大臣たちも徐々に俺に協力的になっていった。
俺はもう一人ではなかった。
そんなある夜。
俺がいつものようにアシュレイの寝室で彼の寝顔を見つめていると、ぴくり、と彼の手が動いた。
「……!」
俺は息をのんだ。
まさか。
俺は彼の手になお力を込める。
「アシュレイ……? わかるか、アシュレイ!」
俺の呼びかけに応えるように、彼の重い瞼がゆっくりと持ち上がった。
そしてその隙間から、見慣れたサファイアの色が覗いた。
「……ル、シ、アン……?」
掠れた、か細い声。
だがそれは間違いなく彼の声だった。
「アシュレイ……!」
涙が溢れて止まらなかった。
ああ、よかった。
本当に、よかった。
俺は彼の胸に顔を埋め、声を上げて泣いた。
「……泣くな。……相変わらず泣き虫だな、君は……」
彼は力なく笑いながら、俺の頭を優しく撫でた。
その温かい感触。
俺がずっと求めていたもの。
「……おかえり、アシュレイ」
「……ああ。ただいま、ルシアン」
長かった俺の孤独な戦いが、終わった瞬間だった。
俺が守り抜いた彼の居場所に、ようやく本当の主が帰ってきたのだ。
その重圧は想像を絶するものだった。
俺はアシュレイの執務室で、彼が残した山のような書類と日々格闘することになった。
最初は反発も大きかった。
宰相をはじめとする保守的な貴族たちは、俺が政務の中心に立つことを快く思っていなかった。
「ルシアン様に何がお分かりになると言うのですか!」
「これは国の一大事。ままごとの延長でお考えになられては困ります」
会議の席で、俺は何度もそういった言葉を浴びせられた。
悔しかった。だが俺は決して感情的にはならなかった。
アシュレイならどうするだろうか。
俺は常にそれを考えた。
彼は決して感情で物事を判断しない。
常に冷静に、論理的に相手を説き伏せるはずだ。
俺は夜を徹して勉強した。
帝国の法律、財政、近隣諸国との関係。
侍従長に頭を下げ、家庭教師になってもらった。
彼は最初こそ渋っていたが、俺の本気の目を見て、やがて彼の知るすべての知識を俺に授けてくれるようになった。
少しずつ、だが確実に、俺は国政を把握していった。
そして会議の場で、俺は自分自身の言葉で大臣たちと渡り合えるようになっていった。
「その政策には三つの問題点があります。第一に財源の確保が不明確であること。第二に……」
俺が具体的なデータを挙げて反論すると、あれほど俺を馬鹿にしていた大臣たちも、ぐ、と口ごもるようになった。
俺は決して天才ではない。
だが俺にはアシュレイを守りたいという強い思いがあった。
その思いが俺を突き動かしていた。
それでも孤独だった。
広すぎる執務室で一人、書類の山に埋もれていると、ふとどうしようもない寂しさに襲われることがあった。
アシュレイに会いたい。
彼の声が聞きたい。
彼の温もりに触れたい。
そんな時はいつも、彼の寝室へ向かった。
彼はまだ眠り続けている。
だがその寝顔は以前よりも、少しだけ穏やかになっているような気がした。
「……アシュレイ。俺、頑張ってるぞ」
俺は彼の手を握りしめ、語りかけた。
「お前が安心して眠っていられるように、俺がこの国をちゃんと守っておくからな」
返事はない。
だが俺は、彼が聞いてくれているような気がした。
彼との繋がりが、俺に力を与えてくれた。
そんな俺の孤独な戦いを、見ていてくれた人たちもいた。
学園の友人だった、カイン・フォン・エアハルト。
彼は若手の騎士として王宮に仕えていた。
「……すごいですね、ルシアン様」
ある日廊下で会った時、彼は心からの尊敬を込めた目で俺に言った。
「誰もが貴方様を、ただの殿下のお飾りの妃だと思っていました。……俺もその一人でした。でも違った。貴方様は誰よりも強く、気高い人だ」
彼の言葉に、俺は少しだけ救われたような気がした。
わかってくれる人も、いるんだ、と。
「……ありがとう、エアハルト」
「カイン、と呼んでください。俺たちは友人でしょう?」
彼は悪戯っぽく笑った。
その笑顔に俺もつられて、笑みをこぼした。
少しずつ俺の周りにも味方が増えていった。
俺の国を想う真摯な姿勢を見て、頑なだった大臣たちも徐々に俺に協力的になっていった。
俺はもう一人ではなかった。
そんなある夜。
俺がいつものようにアシュレイの寝室で彼の寝顔を見つめていると、ぴくり、と彼の手が動いた。
「……!」
俺は息をのんだ。
まさか。
俺は彼の手になお力を込める。
「アシュレイ……? わかるか、アシュレイ!」
俺の呼びかけに応えるように、彼の重い瞼がゆっくりと持ち上がった。
そしてその隙間から、見慣れたサファイアの色が覗いた。
「……ル、シ、アン……?」
掠れた、か細い声。
だがそれは間違いなく彼の声だった。
「アシュレイ……!」
涙が溢れて止まらなかった。
ああ、よかった。
本当に、よかった。
俺は彼の胸に顔を埋め、声を上げて泣いた。
「……泣くな。……相変わらず泣き虫だな、君は……」
彼は力なく笑いながら、俺の頭を優しく撫でた。
その温かい感触。
俺がずっと求めていたもの。
「……おかえり、アシュレイ」
「……ああ。ただいま、ルシアン」
長かった俺の孤独な戦いが、終わった瞬間だった。
俺が守り抜いた彼の居場所に、ようやく本当の主が帰ってきたのだ。
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