破滅フラグ回避のため皇太子を避けていた悪役令息の俺。だが彼は百回絶望した転生者で、俺を手に入れるためなら手段を選ばないヤンデレだった

水凪しおん

文字の大きさ
27 / 30

番外編1「百回目の絶望と一筋の光」

しおりを挟む
(アシュレイ視点)

 また、この朝だ。
 見慣れた自室の天蓋。小鳥のさえずり。窓から差し込む柔らかな朝日。
 そして鏡に映る、幼い自分の姿。
 ああ、また始まった。
 終わりのない地獄が。

 俺、アシュレイ・エル・クレスメントは、この世界をもう九十九回繰り返している。
 最初は驚き戸惑い、そして喜んだ。
 前世でただの平凡な男だった俺が、大好きなBLゲームのメイン攻略対象に転生したのだ。
 物語の主人公として生きられるのだ、と。

 一周目はシナリオ通りに生きた。
 ヒロインのリリアナと恋に落ち、仲間たちと魔王を倒した。
 その過程で悪役令息のルシアン・フォン・ヴァイスハイトを断罪した。
 完璧なハッピーエンド。
 のはずだった。
 だが俺の心にはなぜか虚しさだけが残った。
 ルシアンがすべてを失い、絶望の表情で俺を睨みつけていたあの瞳が忘れられなかった。

 そして俺は死んだ。
 次に目覚めた時、俺はまた幼いアシュレイになっていた。
 二周目、三周目……。
 俺はあらゆる選択肢を試した。
 別の攻略対象とヒロインを結ばせたりもした。
 だがどんなルートを辿っても、結末はいつも同じだった。
 ルシアンは必ず破滅する。
 それがこの世界の「ルール」だったからだ。

 やがて俺はヒロインを愛せなくなった。
 彼女の存在そのものが、ルシアンを不幸にする呪いのように思えた。
 俺はルシアンを救おうとした。
 だが「シナリオの強制力」はあまりにも強大だった。
 俺のささやかな抵抗はことごとく打ち砕かれた。
 目の前で何度も何度も彼が破滅するのを見せつけられた。
 そのたびに俺の心は少しずつ壊れていった。

 五十周目を超えたあたりから、俺はもう何も感じなくなった。
 喜びも悲しみも愛も。
 ただ機械的に日々を繰り返すだけ。
 生きる屍。
 それが俺だった。

 そして九十九周目。
 俺はすべてを終わらせることにした。
 魔王との最終決戦。
 俺はわざと剣を取り落とした。
 これで終わる。
 世界が滅びれば、もうルシアンが不幸になることもない。
 俺もこの永遠の地獄から解放される。
 魔王の刃が俺の胸を貫く。
 薄れゆく意識の中で、俺はなぜかルシアンの顔を思い出していた。
 初めて会った時の、あの傲慢で、しかし誰よりも気高い紫の瞳を。

 だが神は俺に、安らかな死さえも許してはくれなかった。
 次に目覚めた時、俺はやはり幼いアシュレイだった。
 百回目の朝。

 絶望。
 その一言しかなかった。
 もう嫌だ。
 もう誰も愛したくない。
 もう誰の不幸も見たくない。

 俺は心を完全に閉ざした。
 誰とも関わらず、ただ時が過ぎるのを待つ。
 そんな日々を送っていた。

 そして運命の日がやってきた。
 聖アストライア魔導学園の入学式。
 俺はもううんざりしていた。
 またここでヒロインと出会い、退屈な物語が始まるのだ。

 だがその日、俺の運命は変わった。
 講堂の最前列。
 俺の隣の席に座っていた、銀色の髪の少年。
 ルシアン・フォン・ヴァイスハイト。
 彼はいつも通り、美しい顔を不機嫌そうに歪めていた。

 だが何かが違った。
 俺が彼に視線を向けた、その瞬間。
 彼の紫の瞳が、俺を捉えた。
 その瞳に宿っていたのは、いつもの傲慢さや敵意ではなかった。
 それは明らかな「困惑」と「焦り」。
 そしてほんの少しの「恐怖」。
 まるで未来を知っているかのような、そんな色をしていた。

 その瞬間、俺の止まっていた心臓が再び大きく脈打った。
 まさか。
 そんなはずはない。
 だが、もし。
 もし彼も、俺と同じだったら?

 その日から俺はルシアンを観察し始めた。
 彼の行動は俺の知る九十九回のどのルシアンとも違っていた。
 彼は俺を必死に避けようとした。
 ヒロインのリリアナにも一切関わろうとしない。
 その必死な姿が、なぜか俺の目にはひどく愛らしく映った。

 そして俺は確信した。
 彼は違う。
 彼もまたこの繰り返される物語の囚人なのだ、と。
 その瞬間、俺のモノクロだった世界に色が戻った。

 百回目の人生。
 もう絶望しかないと思っていた。
 だが違った。
 神は俺に最後のチャンスを与えてくれたのだ。
 一筋の光を。

 ルシアン。
 俺の、ルシアン。
 今度こそ俺が君を救い出してやる。
 たとえこの世界のすべてを敵に回しても。
 君だけは絶対に手に入れてみせる。

 俺の百年に渡る孤独な戦いは終わった。
 そして君を手に入れるための新しい戦いが始まる。
 俺は隣でそわそわしている愛しい悪役令息の横顔を見つめながら、静かに、そして固く誓った。
 もう決して君を離しはしない、と。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

オメガだと隠して魔王討伐隊に入ったら、最強アルファ達に溺愛されています

水凪しおん
BL
前世は、どこにでもいる普通の大学生だった。車に轢かれ、次に目覚めた時、俺はミルクティー色の髪を持つ少年『サナ』として、剣と魔法の異世界にいた。 そこで知らされたのは、衝撃の事実。この世界には男女の他に『アルファ』『ベータ』『オメガ』という第二の性が存在し、俺はその中で最も希少で、男性でありながら子を宿すことができる『オメガ』だという。 アルファに守られ、番になるのが幸せ? そんな決められた道は歩きたくない。俺は、俺自身の力で生きていく。そう決意し、平凡な『ベータ』と身分を偽った俺の前に現れたのは、太陽のように眩しい聖騎士カイル。彼は俺のささやかな機転を「稀代の戦術眼」と絶賛し、半ば強引に魔王討伐隊へと引き入れた。 しかし、そこは最強のアルファたちの巣窟だった! リーダーのカイルに加え、皮肉屋の天才魔法使いリアム、寡黙な獣人暗殺者ジン。三人の強烈なアルファフェロモンに日々当てられ、俺の身体は甘く疼き始める。 隠し通したい秘密と、抗いがたい本能。偽りのベータとして、俺はこの英雄たちの中で生き残れるのか? これは運命に抗う一人のオメガが、本当の居場所と愛を見つけるまでの物語。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

悪役令息(Ω)に転生した俺、破滅回避のためΩ隠してαを装ってたら、冷徹α第一王子に婚約者にされて溺愛されてます!?

水凪しおん
BL
前世の記憶を持つ俺、リオネルは、BL小説の悪役令息に転生していた。 断罪される運命を回避するため、本来希少なΩである性を隠し、出来損ないのαとして目立たず生きてきた。 しかし、突然、原作のヒーローである冷徹な第一王子アシュレイの婚約者にされてしまう。 これは破滅フラグに違いないと絶望する俺だが、アシュレイの態度は原作とどこか違っていて……?

悪役令息はもう待たない

月岡夜宵
BL
突然の婚約破棄を言い渡されたエル。そこから彼の扱いは変化し――? ※かつて別名で公開していた作品になります。旧題「婚約破棄から始まるラブストーリー」

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

親に虐げられてきたβが、Ωと偽ってαと婚約してしまった話

さるやま
BL
◆瑞希(受け)語り
□アキ(攻め)語り

攻め→→→→←←受け

眞鍋秋人(攻め)
優秀なα。真鍋家の次期当主。本質は狡くて狡猾だが、それを上手く隠して好青年を演じている。瑞希にはアキさんと呼ばれている。

高宮瑞希(受け)
Ωと偽っている平凡なβ。幼少期の経験からか自己肯定感が低く、自分に自信がない。自己犠牲的。

有栖蕾
花の精のように美しいと名高い美少年のΩ。アキさんの元婚約者(と言っても、正式な婚約関係になく、幼少期の口約束程度)であり、アキさんのことをまだ好いている。瑞希のことを秋人の婚約者として紹介され、許せない相手になった。

処理中です...