破滅フラグ回避のため皇太子を避けていた悪役令息の俺。だが彼は百回絶望した転生者で、俺を手に入れるためなら手段を選ばないヤンデレだった

水凪しおん

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エピローグ「百一回目のプロポーズ」

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 アルフォンスが五つになった年の春。
 俺はアシュレイと二人で、久しぶりに聖アストライア魔導学園を訪れていた。
 卒業以来だから、もう十年近く経つだろうか。
 学園は何も変わっていなかった。
 若者たちの活気に満ちた声が、あちこちから聞こえてくる。

「……懐かしいな」

「ああ、そうだな」

 俺たちは思い出の場所を巡った。
 初めて会った講堂。
 いつも二人で昼食を食べたラウンジ。
 そして……。

「……ここだ」

 アシュレイが立ち止まったのは、学園の外れにある古い温室の前だった。
 俺たちの運命が大きく変わった場所。

「……嫌な思い出か?」

 アシュレイが心配そうに俺の顔を覗き込む。
 俺は首を横に振った。

「ううん。……嫌じゃない」

 確かにここで俺は無理やり彼に抱かれた。
 だが同時に、彼の本当の想いを知った場所でもある。
 ここがなければ今の俺たちはなかったかもしれない。
 そう思うと不思議と嫌な気持ちはしなかった。

 俺たちは温室の中に入った。
 あの時と同じように、甘い花の香りと湿った土の匂いがする。
 奥へ進むと、そこにはあの月光花が静かに咲いていた。
 昼間だから光ってはいないが、その銀色の花びらは変わらず美しい。

「……ここで君にひどいことをした」

 アシュレイが懺悔するように呟いた。

「君の心を無視して、力ずくで君を奪った」

「……もういいよ。昔のことだ」

「いや、良くはない。私は何度謝っても足りないと思っている」

 彼は俺の前に向き直ると、真剣な目で俺を見つめた。

「だからルシアン。……もう一度、私とやり直してはくれないだろうか」

「……やり直す?」

 どういう意味だ、と俺は首を傾げた。

「……私は君と、もう一度恋がしたい」

 彼はそう言って、俺の前に跪いた。
 まるで初めてプロポーズされた、あの時のように。

「この温室で出会ったただの学生として。君に一からアプローチさせてほしい。手紙を書いてデートに誘って、君の好きなものをプレゼントして……。そうやってゆっくりと、君の心をもう一度射止めたいんだ」

 彼のサファイアの瞳は真剣だった。
 冗談で言っているのではないことが伝わってきた。
 俺は思わず噴き出してしまった。

「……馬鹿じゃないのか、お前」

「……馬鹿で構わん」

「俺たちはもう夫婦で、子供だっているんだぞ。今さら恋だのデートだの……」

「それでもだ。私は君と普通の恋人たちがするような、当たり前のことを何もしてやれていない。……だからこれは私の自己満足だ」

 彼は俺の手をそっと取った。

「ルシアン。……私と恋人になってください」

 それは百回目のループを超えた、百一回目のプロポーズだった。
 俺は呆れてものも言えなかった。
 本当にこいつは、どこまでロマンチストで馬鹿な男なんだろう。

 だがそんな馬鹿なところが、たまらなく愛おしい。

「……しょうがないな」

 俺はため息を一つついて言った。

「……なってやるよ。お前の恋人に」

 俺の言葉に、アシュレイは顔をぱあっと輝かせた。
 五歳のアルフォンスと同じくらい無邪気な笑顔だった。

 彼は立ち上がると俺を軽々と抱き上げた。

「やった!」

「おい、降ろせ! ここ、学園だぞ!」

 俺の抗議の声も聞かずに、彼は俺を抱えたままくるくると回る。
 月光花の甘い香りが、俺たちを包み込む。

 悪役令息として始まった俺の二度目の人生。
 それは想像もしていなかった、甘くて刺激的で、そして最高に幸せな物語になった。
 そしてこの物語は、これからもずっと続いていく。
 この世界で一番俺を愛してくれる、馬鹿な男と共に。

 俺は彼の首に腕を回し、そっと唇を寄せた。
 ありがとう。
 俺を見つけてくれて。
 俺を愛してくれて。

 俺たちの新しい恋が、今ここからまた始まる。
 何度でも、俺はお前に恋をするだろう。
 永遠に。
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