新年に余り物でおせちを作ったら、冷酷と噂の騎士団長様に「運命の番」だと求婚されました

水凪しおん

文字の大きさ
12 / 16

第11話「仕組まれた罠と氷の怒り」

しおりを挟む
 晩餐会の成功は、カイの名を一夜にして王都中に轟かせた。

『アークライト卿の番は王国の至宝』

 そんな言葉で称賛する者まで現れる始末。
 カイの日常は、以前とは比べ物にならないほど華やかなものになった。
 貴族の夫人たちから茶会に招かれたり、王宮の料理長から新しいレシピについて意見を求められたり。
 カイは戸惑いながらも一つ一つの仕事に誠実に取り組んだ。
 全ては自分を信じてくれたリアムの期待に応えるためだった。

 そんなある日の午後。
 カイが屋敷の庭で薬草を育てていると、王宮からの使いを名乗る男がやってきた。

「カイ様でいらっしゃいますね。王宮料理長のアンブローズ様より、伝言を預かってまいりました」

 男は恭しく頭を下げた。

「新しいソースのことで至急ご相談したいことがある、と。本日、日が暮れる頃に王宮の東門裏手にある倉庫までお越しいただきたい、とのことです」

「東門の倉庫、ですか?」

 カイは少しだけ違和感を覚えた。
 なぜ厨房ではなく、そんな場所なのだろう。
 しかしアンブローズ料理長とは最近頻繁にやり取りをしていた。
 彼が新しいレシピの開発に夢中になっていることも知っている。

「分かりました。そのようにお伝えください」

 カイは疑うことなくそう答えてしまった。
 その使いの男が去り際に一瞬だけ見せた下品な笑みに、カイは気づかなかった。

 日が落ち、カイはリアムに「少し王宮へ行ってきます」とだけ告げ、屋敷を出た。
 リアムは騎士団の書類仕事に追われており、「あまり遅くなるなよ。必ず迎えに行くから」とだけ言ってカイを送り出した。

 王宮の東門裏手は人通りが少なく、薄暗い場所だった。
 指定された倉庫の前に着いたが、中から人の気配はしない。

『おかしいな……』

 カイが不安に思い始めた、その時だった。
 背後の暗闇からぬっと複数の人影が現れ、カイの行く手を塞いだ。
 屈強な体つきの、見るからに柄の悪い男たちだった。

「ひっ……!」

「よう、お貴族様のお気に入り。ちょっと付き合ってもらおうか」

 下卑た笑みを浮かべ、男たちがじりじりと距離を詰めてくる。
 これが罠だと、カイはようやく理解した。

「誰の差し金です……!」

「さあな。お前さんみたいに急にちやほやされる奴が気に食わないお方は、たくさんいるってことだよ」

 男の一人がカイの腕を乱暴に掴んだ。

「やめっ……!」

 抵抗しようにも、鍛えられた男の力にカイの細腕では歯が立たない。
 絶望がカイの心を支配する。
 このままどこかへ連れて行かれて、酷い目に遭わされるんだ。

『リアム……!』

 心の中で愛しい人の名を叫んだ。
 その瞬間だった。

「――その汚い手を、離せ」

 地獄の底から響くような、冷たい声。
 男たちがぎょっとして振り返る。

 闇の中からゆっくりと姿を現したのは、黒い騎士服に身を包んだリアムだった。
 その手には抜き身の長剣が握られ、月明かりを浴びて青白く輝いている。
 そしてその瞳は……燃えるような怒りの炎を宿していた。

「リ、リアム様……!」

 カイの声は安堵に震えた。

「な、なぜここに……!?」

 男たちが狼狽する。

「俺の番に、王宮の料理長が裏手の倉庫に呼び出すなどありえん。少し考えれば分かることだ」

 リアムはカイを掴んでいる男を、殺意のこもった目で見据えた。

「もう一度だけ言う。その手を離せ」

 男は恐怖に顔を引きつらせ、慌ててカイの腕を放した。
 カイはリアムの元へと駆け寄る。
 リアムはカイを自分の背中にかばうように立ち、剣の切っ先を男たちに向けた。

「さて。誰に命じられた?」

 リアムの問いに男たちは答えない。

「言わぬか。ならば貴様らのその減らず口を、永久に聞けなくしてやってもいい」

 本気の殺気。
 男たちは完全に戦意を喪失し、武器を捨ててその場にひれ伏した。

「お、オルコット侯爵様です! 我らは、あの方に雇われただけで……!」

「そうか。やはりあの虫けらか」

 リアムは吐き捨てるようにつぶやいた。
 リアムは男たちを駆けつけた騎士団員に引き渡すと、すぐにカイの元へ戻った。
 そして震えるカイの身体を力強く抱きしめた。

「……すまない。怖い思いをさせた」

 その腕は微かに震えていた。
 この氷の騎士が本気でカイの身を案じていた証拠だった。

「俺がもっと早く気づくべきだった。お前を一人で行かせるべきではなかった」

「いいえ……俺が迂闊だったんです……」

 カイはリアムの胸に顔をうずめた。
 彼の匂いと心臓の音が、何よりの安心をくれる。
 リアムはカイを抱きしめる腕に力を込めた。
 そして静かな、だが燃えるような怒りを宿した声で、誓うようにつぶやいた。

「二度とこんな思いはさせん。お前を傷つけようとする者は、誰であろうと俺がこの手で排除する」

 その言葉は、カイの魂に深く刻み込まれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

隠れオメガの整備士は自由になりたい。なのに暴走する最強騎士を身体を張って止めたら、運命の番だとバレて過保護な専属契約を結ばされました

水凪しおん
BL
※オメガバース設定。激しい戦闘描写や、執着攻めによるマーキング描写、軽度の性的な接触の描写がありますので、15歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。 汚染された惑星を浄化する生体兵器『機装(ギア)』。 その搭乗者は優れた能力を持つ『アルファ』に限られ、彼らの精神を安定させる鎮静剤として『オメガ』が存在する世界。 整備士のエリアンは、オメガであることを隠し、ベータと偽って軍の最前線で働いていた。 オメガは道具のように扱われるこの社会で、自由を守るための必死の嘘だった。 だがある日、軍最強のエリートパイロット・クレイドの機装が暴走する事故に遭遇する。 死を覚悟して止めに入ったエリアンだったが、暴走する機体はなぜか彼にだけ反応し、沈静化した。 それは、隠していたオメガのフェロモンが、クレイドと強烈な『共鳴』を起こした瞬間だった。 「見つけた。俺の対になる存在を」 正体がバレたと戦慄するエリアンに対し、冷徹なはずのクレイドが向けたのは、処罰ではなく執着に満ちた熱い視線で……? 孤独なエリート騎士×身分を隠した健気な整備士。 星の命運と本能が交錯する、近未来SFオメガバース!

抑制剤の効かない薬師オメガは森に隠れる。最強騎士団長に見つかり、聖なるフェロモンで理性を溶かされ、国を捨てた逃避行の果てに番となる

水凪しおん
BL
「この香りを嗅いだ瞬間、俺の本能は二つに引き裂かれた」 人里離れた森で暮らす薬師のエリアルは、抑制剤が効かない特異体質のオメガ。彼から放たれるフェロモンは万病を癒やす聖なる力を持つが、同時に理性を失わせる劇薬でもあった。 ある日、流行り病の特効薬を求めて森を訪れた最強の騎士団長・ジークフリートに見つかってしまう。エリアルの香りに強烈に反応しながらも、鋼の理性で耐え抜くジークフリート。 「俺が、貴方の剣となり盾となる」 国を救うための道具として狙われるエリアルを守るため、最強の騎士は地位も名誉も投げ捨て、国を敵に回す逃避行へと旅立つ。 シリアスから始まり、最後は辺境での幸せなスローライフへ。一途な騎士と健気な薬師の、運命のBLファンタジー。

過労死転生した悪役令息Ωは、冷徹な隣国皇帝陛下の運命の番でした~婚約破棄と断罪からのざまぁ、そして始まる激甘な溺愛生活~

水凪しおん
BL
過労死した平凡な会社員が目を覚ますと、そこは愛読していたBL小説の世界。よりにもよって、義理の家族に虐げられ、最後は婚約者に断罪される「悪役令息」リオンに転生してしまった! 「出来損ないのΩ」と罵られ、食事もろくに与えられない絶望的な日々。破滅フラグしかない運命に抗うため、前世の知識を頼りに生き延びる決意をするリオン。 そんな彼の前に現れたのは、隣国から訪れた「冷徹皇帝」カイゼル。誰もが恐れる圧倒的カリスマを持つ彼に、なぜかリオンは助けられてしまう。カイゼルに触れられた瞬間、走る甘い痺れ。それは、αとΩを引き合わせる「運命の番」の兆しだった。 「お前がいいんだ、リオン」――まっすぐな求婚、惜しみない溺愛。 孤独だった悪役令息が、運命の番である皇帝に見出され、破滅の運命を覆していく。巧妙な罠、仕組まれた断罪劇、そして華麗なるざまぁ。絶望の淵から始まる、極上の逆転シンデレラストーリー!

悪役令嬢の兄に転生!破滅フラグ回避でスローライフを目指すはずが、氷の騎士に溺愛されてます

水凪しおん
BL
三十代半ばの平凡な会社員だった俺は、ある日、乙女ゲーム『君と紡ぐ光の協奏曲』の世界に転生した。 しかも、最推しの悪役令嬢リリアナの兄、アシェルとして。 このままでは妹は断罪され、一家は没落、俺は処刑される運命だ。 そんな未来は絶対に回避しなくてはならない。 俺の夢は、穏やかなスローライフを送ること。ゲームの知識を駆使して妹を心優しい少女に育て上げ、次々と破滅フラグをへし折っていく。 順調に進むスローライフ計画だったが、関わると面倒な攻略対象、「氷の騎士」サイラスになぜか興味を持たれてしまった。 家庭菜園にまで現れる彼に困惑する俺。 だがそれはやがて、国を揺るがす陰謀と、甘く激しい恋の始まりを告げる序曲に過ぎなかった――。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

氷の騎士と浄化のオメガ~「出来損ない」と追放された僕ですが、最強の騎士団長様に拾われて、運命の番としてとろとろに溺愛されています~

水凪しおん
BL
「お前のような出来損ないは、我が家の恥だ!」 公爵家の不義の子として生まれ、フェロモンも弱く「出来損ないのオメガ」と虐げられてきたユキ。 18歳の誕生日に濡れ衣を着せられ、真冬の夜、着の身着のままで実家を追放されてしまう。 行き倒れかけたユキを救ったのは、隣国の英雄であり、冷徹無比と恐れられる『氷の騎士団長』レオンハルトだった。 「行く当てがないなら、俺のところへ来い。お前を保護する」 最強の騎士様に拾われたユキだったが、彼を待っていたのは冷遇……ではなく、とろとろに甘やかされる溺愛生活!? しかも、ただの「出来損ない」だと思っていたユキには、国を救い、レオンハルトの「呪い」を解く『聖なる浄化の力』が秘められていて……? 【不器用で一途な最強騎士団長(α) × 健気で料理上手な追放令息(Ω)】 どん底から始まる、運命の救済シンデレラ・オメガバース。 もふもふ聖獣も一緒です!

偽りベータの宮廷薬師は、氷の宰相に匂いを嗅がれ溺愛される

水凪しおん
BL
「お前の匂いがないと、私は息ができない」 宮廷薬師のルチアーノは、オメガであることを隠し、自作の抑制薬でベータと偽って生きてきた。 しかしある日、冷徹無比と恐れられる「氷の宰相」アレクセイにその秘密がバレてしまう。 処刑を覚悟したルチアーノだったが、アレクセイが求めたのは、ルチアーノの身体から香る「匂い」だった!? 強すぎる能力ゆえに感覚過敏に苦しむ宰相と、彼の唯一の安らぎとなった薬師。 秘密の共有から始まる、契約と執着のオメガバース・ロマンス!

処理中です...