BLゲームの悪役令息に転生!破滅フラグを回避したいのに、同じく転生者のヤンデレ皇太子が「やっと見つけた」と異常な執着で迫って来る。

水凪しおん

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第9話「仕組まれたシナリオ」

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 離宮での監禁生活が始まって、二週間が経った。

 俺の生活は、レオンの寵愛という名の甘い毒に、すっかり侵されていた。
 彼が公務で離宮を空ける時以外は、常に一緒にいる。
 彼の腕の中で眠り、彼のキスで目覚める。
 そんな毎日が、当たり前になりつつあった。

 項に刻まれた番の刻印は、俺の身体だけでなく、心までも彼に縛り付けているようだった。
 彼のフェロモンなしでは、身体が落ち着かない。
 彼に触れられないと、言いようのない不安に襲われる。
 もう、彼なしでは生きていけない身体にされてしまったのだ。

『これで、いいのかもしれないな……』

 破滅ルートは、おそらく回避できた。
 レオンが俺にこれだけ執着しているのだから、ヒロインであるリナ・ベルと恋に落ちることはないだろう。
 だとしたら、俺が断罪される未来も訪れない。
 監禁されてはいるが、何不自由ない生活だ。
 彼からの異常な愛情を除けば、これ以上ないほど満たされた日々だった。

 そんなある日、レオンが珍しく、難しい顔をして離宮に戻ってきた。

「どうしたんだ、レオン。何かあったのか?」

「……エリアス。少し、聞きたいことがある」

 彼の真剣な様子に、俺はごくりと唾を飲み込んだ。
 レオンは俺の目をまっすぐに見つめて、言った。

「リナ・ベルという平民の娘が、お前に脅迫されたと訴え出てきた」

 その名を聞いた瞬間、俺の心臓は氷水で冷やされたかのように凍り付いた。
 リナ・ベル。
 原作ヒロイン。
 忘れていた。
 いや、考えないようにしていた。
 俺がレオンに囚われている間に、彼女が何もしてこないはずがなかったのだ。

「そんな……馬鹿な。私はずっと、あなたとこの離宮に……」

「ああ、わかっている。お前がそんなことをするはずがない。だが、彼女は証拠まで用意してきた」

 レオンが差し出したのは、一枚の羊皮紙だった。
 そこには、紛れもなく、俺の筆跡でこう書かれていた。

『皇太子殿下から離れなければ、どうなるかわかっているでしょうね。次に会う時までに、身の振り方をよく考えておくことね』

 典型的な、悪役令嬢の脅迫状だ。
 だが、俺はこんなものを書いた覚えは一切ない。

「これは、偽造されたものだ! 私は書いていない!」

「落ち着け、エリアス。俺もそう思っている。だが、筆跡鑑定でも、これはお前の字だと断定された。おそらく、高度な模倣魔法が使われている」

 リナ・ベルが、仕掛けてきたのだ。
 自分がレオンに選ばれないのは、悪役令息である俺が邪魔をしているからだと考えたのだろう。
 そして、ゲームのシナリオ通りに、俺を断罪しようとしている。
 原作のシナリオの強制力が、ここにきて働き始めたというのか。

「彼女は、明日、貴族議会の公聴会で、この件を正式に告発すると言っている。公爵家の嫡男が、平民の特待生を脅迫したとなれば、大事になるだろう」

 俺は全身から血の気が引くのを感じた。
 公聴会で告発される。
 それは、ゲームの断罪イベントと全く同じ流れだった。
 このままでは、俺は破滅ルートへと引きずり込まれてしまう。

「どうしよう……レオン……」

 不安に駆られ、俺は思わず彼の服の裾を掴んだ。
 すると、レオンは俺の頭を優しく撫で、穏やかに微笑んだ。

「心配するな、エリアス」

 その瞳には、焦りの色など微塵も浮かんでいなかった。
 それどころか、まるで、こうなることを予期していたかのような、絶対的な自信に満ちていた。

「全て、俺に任せておけ。お前を傷つける者は、誰であろうと俺が許さない」

 彼の言葉は、不思議なほどに俺の心を落ち着かせた。
 そうだ。
 今の俺は、一人じゃない。
 この、世界で最も強く、そして俺を誰よりも愛してくれている男がついている。

「……信じて、いいんだな?」

「ああ。俺の番を疑うのか?」

 レオンは悪戯っぽく笑うと、俺の唇に軽いキスを落とした。

 翌日、公聴会が開かれた。
 俺はレオンに付き添われ、被告人として議場の中央に立った。
 正面には、涙を浮かべ、か弱さを装うリナ・ベルの姿がある。
 彼女は集まった貴族たちに、いかに俺に脅され、恐ろしい思いをしたかを悲劇のヒロインのように語っていた。

 周囲の貴族たちは、同情的な目で彼女を見つめ、俺には非難の視線を向けている。
 完全に、俺が悪者だ。
 状況は最悪だった。

 俺は不安に震えそうになるのを、必死に堪えた。
 大丈夫だ。
 レオンが、なんとかしてくれる。

 全ての告発が終わった後、議長がレオンに意見を求めた。

「レオンハルト皇太子殿下。婚約者であるエリアス・アルドリング公のこの所業、どのようにお考えですかな?」

 レオンは静かに立ち上がると、議場全体に響き渡る、冷たく、そして威厳に満ちた声で言った。

「茶番はそこまでだ」

 その一言で、議場の空気が凍り付いた。

「彼女の言っていることは、全て偽りだ。エリアスが彼女を脅迫した事実など、万に一つも存在しない」

 リナが「そんな!」と悲鳴を上げる。
 だが、レオンは彼女を一瞥もせず、続けた。

「何よりの証拠は、この二週間、エリアスは一度も公の場に姿を現していない。彼は、ずっと俺の離宮で、俺と共に過ごしていたのだからな」

 その爆弾発言に、議場は水を打ったように静まり返る。
 そして、次の瞬間、割れんばかりのどよめきが巻き起こった。
 皇太子と公爵家の嫡男が、二週間も離宮で二人きり。
 それが何を意味するのか、ここにいる者たちにわからないはずがなかった。

 俺は、顔から火が出るほど恥ずかしかったが、今はそれどころではない。

 レオンは、仕組まれたシナリオの盤上で、リナ・ベルというプレイヤーに対し、静かに、そして完璧な王手をかけた。
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