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第8話「目覚めの鳥籠」
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意識が薄っすらとはっきりしていく。
身体の節々が怠く、特に腰のあたりは鉛のように重かった。
昨夜の出来事が、夢ではなかったことを物語っている。
俺がゆっくりと目を開けると、最初に飛び込んできたのは、見知らぬ部屋の豪奢な天蓋だった。
柔らかなシーツの感触、部屋に満ちる微かな彼の香り。
ここがどこなのか、すぐに察しがついた。
『皇太子の離宮……』
身体を起こそうとしたが、腰に回された力強い腕に阻まれた。
隣を見ると、安らかな寝息を立てるレオンハルトの顔がある。
眠っている時の彼は、あの狂気的な執着を感じさせず、ただの美しい青年にしか見えなかった。
だが、俺の項に残る、ヒリヒリとした痛みが現実を突きつけてくる。
俺はもう、彼の「番」にされてしまったのだ。
『これから、どうなるんだ……』
絶望的な気分で天井を見つめていると、不意にレオンが身じろぎし、ゆっくりと瞼を開けた。
目が合った瞬間、彼の青い瞳が、蕩けるように甘く細められる。
「……目が覚めたか、エリアス」
「……」
「気分はどうだ? どこか痛むか?」
彼は俺の髪を優しく撫でながら、心底心配そうに尋ねてくる。
まるで、最愛の恋人を気遣うかのように。
昨夜、俺の意に反して無理やり俺を抱いた男と、同一人物だとは到底思えなかった。
俺は彼の問いには答えず、ただ一つのことだけを尋ねた。
「……どうして、私なんですか」
俺の言葉に、レオンハルトはきょとんとした顔をした。
「私には、あなたに執着されるような覚えは一切ありません。あなたは、本来なら……リナ・ベルと結ばれるはずだったのに」
言ってしまってから、しまった、と思った。
ゲームのシナリオを知っていることを、彼に勘付かせるような発言だった。
しかし、レオンハルトは驚く様子もなく、ただ静かに俺を見つめていた。
そして、まるで当たり前のことのように、こう言ったのだ。
「ああ、あの平民の娘か。そんな女、どうでもいい」
「どうでも、って……」
「俺が欲しいのは、昔も、今も、そしてこれからも、お前だけだ。エリアス」
その瞳は、狂おしいほどに真摯だった。
嘘をついているようには、到底見えない。
「わからない……。あなたのことが、全くわからない」
「いずれわかる時が来る。それまで、ここで俺と一緒に暮らそう」
「暮らす!? 冗談でしょう!? 私は家に帰らなければ……学園も……」
「心配するな。アルドリング公爵にも、学園にも、話は通してある。『エリアスは体調不良のため、しばらく俺の離宮で療養する』とな」
用意周到すぎる。
俺が目覚める前に、すでに外堀を全て埋めていたというのか。
これは、療養などではない。
紛れもない、監禁だ。
俺が青ざめていると、レオンハルトは俺を安心させるように、その胸に抱きしめた。
「怖がらなくていい。何も心配することはないんだ」
「これが、心配するなと?」
「俺はお前を傷つけたいわけじゃない。ただ、愛したいだけだ。お前が俺から離れていかないように、少しだけ、ここにいてもらうだけだ」
彼の言っていることは、滅茶苦茶だ。
だが、その声はひどく優しく、俺を抱きしめる腕は、壊れ物を扱うかのように慎重だった。
この日から、俺の甘い監禁生活が始まった。
離宮から一歩も出ることは許されず、常に彼の監視下に置かれた。
食事も、入浴も、全て彼と一緒。
夜になれば、番としての義務を果たすかのように、毎晩のように求められた。
最初は恐怖と抵抗しかなかった。
しかし、レオンハルトは、行為の時以外は驚くほど紳士的だった。
俺が読みたいと言った本は、国中から取り寄せた。
俺が食べたいと言った菓子は、最高のパティシエに作らせた。
俺が少しでも寂しそうな顔をすれば、公務を放り出してでも、一日中そばにいてくれた。
彼の与えてくれる愛情は、あまりにも純粋で、ひたむきだった。
自分だけに向けられる、その絶対的な愛。
俺は恐怖を感じながらも、その甘い毒に、少しずつ、少しずつ、心が蝕まれていくのを感じていた。
この男は、狂っている。
だが、そんな狂った男の愛情を、心地よいと感じ始めている自分もまた、狂い始めているのかもしれない。
鳥籠の中で、俺の心はゆっくりと彼の色に染められていくようだった。
身体の節々が怠く、特に腰のあたりは鉛のように重かった。
昨夜の出来事が、夢ではなかったことを物語っている。
俺がゆっくりと目を開けると、最初に飛び込んできたのは、見知らぬ部屋の豪奢な天蓋だった。
柔らかなシーツの感触、部屋に満ちる微かな彼の香り。
ここがどこなのか、すぐに察しがついた。
『皇太子の離宮……』
身体を起こそうとしたが、腰に回された力強い腕に阻まれた。
隣を見ると、安らかな寝息を立てるレオンハルトの顔がある。
眠っている時の彼は、あの狂気的な執着を感じさせず、ただの美しい青年にしか見えなかった。
だが、俺の項に残る、ヒリヒリとした痛みが現実を突きつけてくる。
俺はもう、彼の「番」にされてしまったのだ。
『これから、どうなるんだ……』
絶望的な気分で天井を見つめていると、不意にレオンが身じろぎし、ゆっくりと瞼を開けた。
目が合った瞬間、彼の青い瞳が、蕩けるように甘く細められる。
「……目が覚めたか、エリアス」
「……」
「気分はどうだ? どこか痛むか?」
彼は俺の髪を優しく撫でながら、心底心配そうに尋ねてくる。
まるで、最愛の恋人を気遣うかのように。
昨夜、俺の意に反して無理やり俺を抱いた男と、同一人物だとは到底思えなかった。
俺は彼の問いには答えず、ただ一つのことだけを尋ねた。
「……どうして、私なんですか」
俺の言葉に、レオンハルトはきょとんとした顔をした。
「私には、あなたに執着されるような覚えは一切ありません。あなたは、本来なら……リナ・ベルと結ばれるはずだったのに」
言ってしまってから、しまった、と思った。
ゲームのシナリオを知っていることを、彼に勘付かせるような発言だった。
しかし、レオンハルトは驚く様子もなく、ただ静かに俺を見つめていた。
そして、まるで当たり前のことのように、こう言ったのだ。
「ああ、あの平民の娘か。そんな女、どうでもいい」
「どうでも、って……」
「俺が欲しいのは、昔も、今も、そしてこれからも、お前だけだ。エリアス」
その瞳は、狂おしいほどに真摯だった。
嘘をついているようには、到底見えない。
「わからない……。あなたのことが、全くわからない」
「いずれわかる時が来る。それまで、ここで俺と一緒に暮らそう」
「暮らす!? 冗談でしょう!? 私は家に帰らなければ……学園も……」
「心配するな。アルドリング公爵にも、学園にも、話は通してある。『エリアスは体調不良のため、しばらく俺の離宮で療養する』とな」
用意周到すぎる。
俺が目覚める前に、すでに外堀を全て埋めていたというのか。
これは、療養などではない。
紛れもない、監禁だ。
俺が青ざめていると、レオンハルトは俺を安心させるように、その胸に抱きしめた。
「怖がらなくていい。何も心配することはないんだ」
「これが、心配するなと?」
「俺はお前を傷つけたいわけじゃない。ただ、愛したいだけだ。お前が俺から離れていかないように、少しだけ、ここにいてもらうだけだ」
彼の言っていることは、滅茶苦茶だ。
だが、その声はひどく優しく、俺を抱きしめる腕は、壊れ物を扱うかのように慎重だった。
この日から、俺の甘い監禁生活が始まった。
離宮から一歩も出ることは許されず、常に彼の監視下に置かれた。
食事も、入浴も、全て彼と一緒。
夜になれば、番としての義務を果たすかのように、毎晩のように求められた。
最初は恐怖と抵抗しかなかった。
しかし、レオンハルトは、行為の時以外は驚くほど紳士的だった。
俺が読みたいと言った本は、国中から取り寄せた。
俺が食べたいと言った菓子は、最高のパティシエに作らせた。
俺が少しでも寂しそうな顔をすれば、公務を放り出してでも、一日中そばにいてくれた。
彼の与えてくれる愛情は、あまりにも純粋で、ひたむきだった。
自分だけに向けられる、その絶対的な愛。
俺は恐怖を感じながらも、その甘い毒に、少しずつ、少しずつ、心が蝕まれていくのを感じていた。
この男は、狂っている。
だが、そんな狂った男の愛情を、心地よいと感じ始めている自分もまた、狂い始めているのかもしれない。
鳥籠の中で、俺の心はゆっくりと彼の色に染められていくようだった。
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