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第11話「恋人たちの、ぎこちない新生活」
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恋人同士になった俺とフェンリルの、甘くもどこかぎこちない新生活が始まった。
フェンリルは、まだ人型での生活に慣れていないようだった。数千年を狼として生きてきたのだから、当然かもしれない。
食事の時には、長年の癖でうっかり手づかみで料理を食べようとして、俺に「フェンリル、お箸!」と注意されて、はっとした顔で箸を持つ。
着物の着方が分からず、悪戦苦闘した挙句、最終的に俺が手伝ってあげる。
眠る時は、ベッドではなく床で身体を丸めようとするので、俺が隣で一緒に寝てあげる。
そんな失敗の数々が、神獣としての威厳とのギャップも相まって、俺には可愛らしくて仕方がなかった。
その度に二人で笑い合い、洞窟の中は以前にも増して、明るい空気に満ちていた。
狼の姿で甘えられるのとは、また違う。
人の姿で、力強い腕で抱きしめられたり、不意に口づけをされたりする度に、俺の心臓は毎日うるさいくらいに高鳴っていた。彼の体温を、鼓動を、より直接的に感じられることが、くすぐったくも、幸せでたまらなかった。
一方で、村との問題も解決する必要があった。
あの日、若者たちを追い返しただけでは、根本的な解決にはならない。
人型になったフェンリルは、俺を伴って、村長の元を訪れることにした。
神獣が、美しい銀髪の青年の姿で村に現れたという事実に、村人たちは度肝を抜かれ、広場は騒然となった。
皆、恐れをなして道を開け、俺たちはまっすぐに村長の家の前へと向かった。
村長は、神獣が人の姿で、しかも言葉を話すという信じがたい光景を前に、ただただ平伏するしかなかった。
フェンリルは、神としての威厳を保ちつつも、冷静に、そしてはっきりと宣言した。
「この者、ユキは、俺の番(つがい)だ。今後一切、彼に手を出すことも、生贄の風習を口にすることも許さない」
彼の言葉に、村人たちの間にどよめきが広がる。
俺は少し恥ずかしかったけれど、フェンリルの隣で、毅然として胸を張った。
「その代わり、森は汝らを受け入れよう。節度を守り、森への敬意を忘れない者には、その恵みを分け与えることを約束する」
それは、恐怖による支配ではなく、共存の提案だった。
神からの直接の言葉に、村長は震える声で深々と頭を下げ、ユキが神の伴侶であること、そして森の不可侵を、村の掟として固く約束した。
こうして、俺は名実ともに、神獣フェンリルの唯一無二のパートナーとして、村にも認められることになったのだ。
村からの帰り道。
もう誰にも脅かされることのない、穏やかな道を、俺たちは手を繋いで歩いていた。人型になった彼と手を繋ぐのは初めてで、指が触れ合うだけで心臓が跳ねる。
「……これで、お前を煩わせるものはなくなったな」
フェンリルが、少しだけ得意げに言った。
「はい。ありがとうございます、フェンリル」
「礼には及ばん。番を守るのは当然のことだ」
そう言って、彼は繋いだ手にぎゅっと力を込めた。
俺はもう、ただの生贄じゃない。孤独な青年でもない。
この気高くて、美しくて、そして誰よりも優しい神様の、たった一人の番なのだ。
その事実が、誇らしくて、嬉しくて、俺は空を見上げた。
青い空が、どこまでも澄み渡っている。
それは、俺たちの新しい未来を祝福してくれているかのようだった。
フェンリルは、まだ人型での生活に慣れていないようだった。数千年を狼として生きてきたのだから、当然かもしれない。
食事の時には、長年の癖でうっかり手づかみで料理を食べようとして、俺に「フェンリル、お箸!」と注意されて、はっとした顔で箸を持つ。
着物の着方が分からず、悪戦苦闘した挙句、最終的に俺が手伝ってあげる。
眠る時は、ベッドではなく床で身体を丸めようとするので、俺が隣で一緒に寝てあげる。
そんな失敗の数々が、神獣としての威厳とのギャップも相まって、俺には可愛らしくて仕方がなかった。
その度に二人で笑い合い、洞窟の中は以前にも増して、明るい空気に満ちていた。
狼の姿で甘えられるのとは、また違う。
人の姿で、力強い腕で抱きしめられたり、不意に口づけをされたりする度に、俺の心臓は毎日うるさいくらいに高鳴っていた。彼の体温を、鼓動を、より直接的に感じられることが、くすぐったくも、幸せでたまらなかった。
一方で、村との問題も解決する必要があった。
あの日、若者たちを追い返しただけでは、根本的な解決にはならない。
人型になったフェンリルは、俺を伴って、村長の元を訪れることにした。
神獣が、美しい銀髪の青年の姿で村に現れたという事実に、村人たちは度肝を抜かれ、広場は騒然となった。
皆、恐れをなして道を開け、俺たちはまっすぐに村長の家の前へと向かった。
村長は、神獣が人の姿で、しかも言葉を話すという信じがたい光景を前に、ただただ平伏するしかなかった。
フェンリルは、神としての威厳を保ちつつも、冷静に、そしてはっきりと宣言した。
「この者、ユキは、俺の番(つがい)だ。今後一切、彼に手を出すことも、生贄の風習を口にすることも許さない」
彼の言葉に、村人たちの間にどよめきが広がる。
俺は少し恥ずかしかったけれど、フェンリルの隣で、毅然として胸を張った。
「その代わり、森は汝らを受け入れよう。節度を守り、森への敬意を忘れない者には、その恵みを分け与えることを約束する」
それは、恐怖による支配ではなく、共存の提案だった。
神からの直接の言葉に、村長は震える声で深々と頭を下げ、ユキが神の伴侶であること、そして森の不可侵を、村の掟として固く約束した。
こうして、俺は名実ともに、神獣フェンリルの唯一無二のパートナーとして、村にも認められることになったのだ。
村からの帰り道。
もう誰にも脅かされることのない、穏やかな道を、俺たちは手を繋いで歩いていた。人型になった彼と手を繋ぐのは初めてで、指が触れ合うだけで心臓が跳ねる。
「……これで、お前を煩わせるものはなくなったな」
フェンリルが、少しだけ得意げに言った。
「はい。ありがとうございます、フェンリル」
「礼には及ばん。番を守るのは当然のことだ」
そう言って、彼は繋いだ手にぎゅっと力を込めた。
俺はもう、ただの生贄じゃない。孤独な青年でもない。
この気高くて、美しくて、そして誰よりも優しい神様の、たった一人の番なのだ。
その事実が、誇らしくて、嬉しくて、俺は空を見上げた。
青い空が、どこまでも澄み渡っている。
それは、俺たちの新しい未来を祝福してくれているかのようだった。
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