悪役令息に転生したのでオメガだと隠していたのに、冷徹なはずの王子に正体がバレて「お前は俺の番だ」と溺愛されています

水凪しおん

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第1話「悪役令息の憂鬱」

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 リオネル・グレイファードには前世の記憶があった。かつて日本のしがないサラリーマンだった彼は、気がつくと、とあるBL小説に登場する『悪役令息』として転生してしまっていた。

 この世界はアルファ、ベータ、オメガという第二の性が存在する、いわゆるオメガバース。貴族社会においてその性は地位を大きく左右し、特に極めて希少なオメガは時に政治の道具にされる。

 そしてリオネルの役割は、主人公である可憐なオメガの青年をいじめ、ヒーローである第一王子アシュレイとの恋路を邪魔する、絵に描いたような典型的な悪役だった。原作の彼は、その悪行の果てに公爵家の地位を剥奪され、断罪される運命にあった。

「冗談じゃない」

 自室で一人、リオネルは誰に聞かせるともなく呟いた。彼はその破滅的な未来を回避することを、固く心に誓っていた。

 そのためには、いくつかの障壁がある。まず、本来のリオネルは希少なオメガであるということ。原作の彼はオメガの性を武器に王子へ言い寄り、その執着心から周囲の反感を買っていた。そのうえ、オメガのフェロモンはアルファの理性をたやすく破壊するほど強烈で、ひとたび暴走すれば大混乱を招く。

 幸いにも、転生した彼はオメガとしての性が発現する直前だった。強力な抑制剤を服用することで、オメガのフェロモンを完全に抑え込むことに成功していた。

「ならば、オメガであることを隠し、『出来損ないのアルファ』として生きればいい」

 計画通り、リオネルは誰とも関わらず、ひっそりと公爵家の中で「出来損ないのアルファ」として蔑まれながら生きてきた。社交界への出席も、体調不良を言い訳に極力避けてきた。誰からも興味を持たれず、悪役令息という舞台から静かに降りること。それが彼の選んだ道だった。

 しかし、そのささやかな望みは、突然の出来事によって打ち砕かれる。

「リオネル、国王主催の夜会に参加しろ。我がグレイファード家の嫡男として、最低限の挨拶は済ませろ」

 父である公爵の冷徹な声に、リオネルは背筋が凍る思いだった。彼は息子を出来損ないのアルファだと軽蔑している。それでも、家の体面のために夜会に参加しろと命じた。

 夜会といえば、原作小説でアシュレイ王子と主人公のオメガが出会う運命の場所。そこで悪役令息として登場し、王子と顔を合わせれば、破滅ルートは確定してしまう。

「いけません、父上!私は、体調が優れないのです…」

「戯言を言うな。もし私に恥をかかせるようなことがあれば、公爵家から追放する」

 父の言葉に、リオネルは肩を震わせた。追放は断罪に等しい。絶望的な気持ちで夜会への参加を承諾し、強力な抑制剤をいくつかポケットに忍ばせると、彼は悪役令息としての出番が待つ舞台へと向かった。
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