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第27話「傲慢なる進軍」
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アランの命令一下、辺境への調査団の派遣が決定した。
しかし、それは名ばかりの調査団だった。
編成されたのは、王太子の直属の騎士団を中心とした、総勢五百名にも及ぶ軍隊。率いるのは、アランに忠実な、血の気の多い青年貴族、マルス子爵だ。
「マルス子爵、よいか。辺境伯、カイル・ヴァルトシュタインは一筋縄ではいかん男だ。王家に対しても反抗的な態度を取ることで知られている」
出立前、アランはマルス子爵に念を押した。
「奴がリアムの引き渡しを素直に認めるとは思えん。もし、抵抗するようならば…」
「その時は、力ずくで、ということですね、殿下」
マルス子爵は、好戦的な笑みを浮かべた。
彼は、辺境の田舎貴族であるカイルのことを見下していた。「氷血の竜騎士」などという大げさな異名も、王都から遠く離れた地での武勇伝に過ぎない、と。
「うむ。ただし、リアムの身には傷一つつけるなよ。彼は、我が国の宝なのだからな」
アランは、ついこの間まで「出来損ない」と呼んでいた相手を、今や「国の宝」と呼んでいる。その矛盾に、彼自身は全く気づいていない。
「承知いたしました。必ずや、リアム様を王都へお連れしてみせます」
マルス子爵は、恭しく頭を下げた。
こうして、王太子軍とも呼べる大規模な部隊が、王都から辺境領へと進軍を開始した。
その知らせは、すぐにカイルの密偵からもたらされた。
「軍隊、だと…?」
カイルの執務室に、緊張が走る。
「はい。調査団とは名ばかり。実質的な軍事行動です」
「王太子め…本気で、リアムを力ずくで奪うつもりか」
カイルの声には、地を這うような怒りがこもっていた。
その場に同席していた僕も、事態の深刻さに言葉を失った。
ただ、僕の居場所を確かめに来るだけではなかったのだ。彼らは、僕を「確保」するために、軍隊を差し向けた。
まるで、物か何かのように。
僕の意思など、最初から無視されている。
その事実に、僕は深い絶望と、そして、今まで感じたことのないような静かな怒りを覚えていた。
「カイル様、これは、僕の問題です。僕が、彼らと話を…」
「馬鹿を言うな」
カイル様は、僕の言葉を冷たく遮った。
「お前を行かせれば、どうなるか分かっているのか。奴らは、お前を鎖に繋いででも王都へ連れ帰るだろう。そして、お前の力が尽きるまで、搾り取る」
「……」
「そんなこと、俺が許すと思うか?」
彼の赤い瞳が、燃えるような光を宿している。
それは、彼の「番」を奪おうとする者に対する、アルファの容赦ない敵意だった。
「副団長」
「はっ」
「領内の全騎士に、臨戦態勢を取るよう伝えろ。国境の砦で、王太子軍を迎え撃つ」
「よろしいのですか?王家の軍に、弓を引くことになりますが…」
副団長の問いに、カイルは鼻で笑った。
「挑発してきたのは、向こうだ。それに、これは国への反逆ではない。俺個人の問題だ。俺の番に手を出そうとする不埒者を、排除する。ただ、それだけのことだ」
彼の言葉に、迷いは一切なかった。
副団長は、全てを悟ったように力強くうなずいた。
「承知いたしました!ヴァルトシュタインの騎士の誇りにかけ、リアム様は、我らがお守りいたします!」
彼は、部屋にいる他の騎士たちと共に、僕に向かって一斉に膝をついた。
その光景に、僕は圧倒される。
僕のために、こんなにも多くの人々が、王家を敵に回して戦おうとしてくれている。
僕は、もう、一人ではなかった。
「カイル様…皆さん…」
涙が、溢れて止まらなかった。
カイル様は、そんな僕の隣に来ると、何も言わずに僕の手を強く握ってくれた。
その手の温かさが、僕に戦う勇気を与えてくれる。
傲慢な王太子の軍が、辺境の地に迫っている。
それは、僕とカイル様の、そして、この辺境領の運命を賭けた戦いの、始まりの合図だった。
しかし、それは名ばかりの調査団だった。
編成されたのは、王太子の直属の騎士団を中心とした、総勢五百名にも及ぶ軍隊。率いるのは、アランに忠実な、血の気の多い青年貴族、マルス子爵だ。
「マルス子爵、よいか。辺境伯、カイル・ヴァルトシュタインは一筋縄ではいかん男だ。王家に対しても反抗的な態度を取ることで知られている」
出立前、アランはマルス子爵に念を押した。
「奴がリアムの引き渡しを素直に認めるとは思えん。もし、抵抗するようならば…」
「その時は、力ずくで、ということですね、殿下」
マルス子爵は、好戦的な笑みを浮かべた。
彼は、辺境の田舎貴族であるカイルのことを見下していた。「氷血の竜騎士」などという大げさな異名も、王都から遠く離れた地での武勇伝に過ぎない、と。
「うむ。ただし、リアムの身には傷一つつけるなよ。彼は、我が国の宝なのだからな」
アランは、ついこの間まで「出来損ない」と呼んでいた相手を、今や「国の宝」と呼んでいる。その矛盾に、彼自身は全く気づいていない。
「承知いたしました。必ずや、リアム様を王都へお連れしてみせます」
マルス子爵は、恭しく頭を下げた。
こうして、王太子軍とも呼べる大規模な部隊が、王都から辺境領へと進軍を開始した。
その知らせは、すぐにカイルの密偵からもたらされた。
「軍隊、だと…?」
カイルの執務室に、緊張が走る。
「はい。調査団とは名ばかり。実質的な軍事行動です」
「王太子め…本気で、リアムを力ずくで奪うつもりか」
カイルの声には、地を這うような怒りがこもっていた。
その場に同席していた僕も、事態の深刻さに言葉を失った。
ただ、僕の居場所を確かめに来るだけではなかったのだ。彼らは、僕を「確保」するために、軍隊を差し向けた。
まるで、物か何かのように。
僕の意思など、最初から無視されている。
その事実に、僕は深い絶望と、そして、今まで感じたことのないような静かな怒りを覚えていた。
「カイル様、これは、僕の問題です。僕が、彼らと話を…」
「馬鹿を言うな」
カイル様は、僕の言葉を冷たく遮った。
「お前を行かせれば、どうなるか分かっているのか。奴らは、お前を鎖に繋いででも王都へ連れ帰るだろう。そして、お前の力が尽きるまで、搾り取る」
「……」
「そんなこと、俺が許すと思うか?」
彼の赤い瞳が、燃えるような光を宿している。
それは、彼の「番」を奪おうとする者に対する、アルファの容赦ない敵意だった。
「副団長」
「はっ」
「領内の全騎士に、臨戦態勢を取るよう伝えろ。国境の砦で、王太子軍を迎え撃つ」
「よろしいのですか?王家の軍に、弓を引くことになりますが…」
副団長の問いに、カイルは鼻で笑った。
「挑発してきたのは、向こうだ。それに、これは国への反逆ではない。俺個人の問題だ。俺の番に手を出そうとする不埒者を、排除する。ただ、それだけのことだ」
彼の言葉に、迷いは一切なかった。
副団長は、全てを悟ったように力強くうなずいた。
「承知いたしました!ヴァルトシュタインの騎士の誇りにかけ、リアム様は、我らがお守りいたします!」
彼は、部屋にいる他の騎士たちと共に、僕に向かって一斉に膝をついた。
その光景に、僕は圧倒される。
僕のために、こんなにも多くの人々が、王家を敵に回して戦おうとしてくれている。
僕は、もう、一人ではなかった。
「カイル様…皆さん…」
涙が、溢れて止まらなかった。
カイル様は、そんな僕の隣に来ると、何も言わずに僕の手を強く握ってくれた。
その手の温かさが、僕に戦う勇気を与えてくれる。
傲慢な王太子の軍が、辺境の地に迫っている。
それは、僕とカイル様の、そして、この辺境領の運命を賭けた戦いの、始まりの合図だった。
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