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第5話「月下の密約」
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戦いの後、俺は指定された場所――廃ビルの屋上に立っていた。
呼び出したのはエイスケだ。
戦闘中、彼が氷で作ったメッセージボードを一瞬だけ見せたのだ。
『2200 K-7地区』
罠かもしれない。
そう疑いながらも、俺は変身を解いた姿でここに来ていた。
夜風が熱を持った頬を冷やしていく。
錆びた鉄柵に寄りかかって待っていると、闇の中から足音が聞こえた。
「来たか」
エイスケだった。
昼間の戦闘服ではなく、ラフなジャケット姿だ。
手には、缶コーヒーを二つ持っている。
「はい、お疲れさん」
放り投げられた缶を、俺は片手で受け取った。
温かい。
「……毒入りじゃないだろうな」
「俺がそんな姑息な真似をすると思うか?」
彼は自分用の缶を開け、いかにもうまそうに一口飲んだ。
俺もためらいながらプルトップを開け、コーヒーを口にする。
甘いミルクコーヒーの味が、疲れた体に染み渡る。
「どういうつもりだ。今日のあれは」
単刀直入に聞いた。
「味方を妨害してまで、俺たちを助けるなんて。ネビュラでの立場が危うくなるんじゃないのか」
「あの程度で揺らぐ立場じゃない。それに、あいつらは俺の美学に反する」
エイスケは夜景を見下ろしながら淡々と言った。
「弱い者をいたぶって喜ぶような連中は、見ていて反吐が出る。俺が戦いたいのは、お前たちのように信念を持って向かってくる強者だけだ」
「だからって、助ける理由にはならないだろ」
「理由は言ったはずだ。お前は俺の番だからだ」
彼は振り返り、真っすぐに俺を見た。
月の光に照らされたその顔は、憎らしいほど美しく、そして真剣だった。
「アルファとしての本能が、お前を守れと叫んでいる。組織の命令よりも、その声の方が俺にとっては重要だ」
「……お前は、敵だ。俺はヒーローで、お前はヴィランだ。それは変わらない」
「そうだな。だが、だからこそ燃えるとも言える」
エイスケは一歩近づいてきた。
俺は逃げなかった。
逃げれば、彼に負けたことになる気がしたからだ。
「カイ。ネビュラの上層部は、次の作戦で禁断の兵器を使おうとしている」
「禁断の兵器?」
「街一つを消滅させるほどの威力を持つ、エネルギー暴走炉だ。制御不能な怪物を生み出し、無差別に破壊をまき散らす」
息をのむ。
それは、ただの侵略じゃない。
虐殺だ。
「俺はそれを止めるつもりだ。だが、組織内部から動くには限界がある」
「……まさか、俺たちに協力しろと言うのか?」
「共闘だ。お前たちの力が必要だ」
彼は手を差し出した。
その手は、かつて俺に氷の槍を向けた手であり、そしてマントをかけてくれた手でもあった。
信じていいのか。
敵の幹部を。
だが、彼の瞳に嘘の色は見えなかった。
何より、俺の本能が「この男を信じろ」と告げている。
運命の番という忌々しいつながりが、今だけは頼もしい道しるべのように思えた。
「……条件がある」
「なんだ?」
「俺の正体を、絶対にバラさないこと。そして、この作戦が終わったら、改めて正々堂々と勝負すること」
エイスケは満足げにうなずき、口元を緩めた。
「ああ、約束しよう。その時は、ベッドの上での勝負も受けて立つが?」
「ふざけるな!」
俺は顔を真っ赤にして、彼の手を強く握り返した。
彼の手は冷たかったが、その奥にある熱意は、確かに俺の手に伝わってきた。
月明かりの下、敵同士の、そして番同士の奇妙な同盟が結ばれた瞬間だった。
呼び出したのはエイスケだ。
戦闘中、彼が氷で作ったメッセージボードを一瞬だけ見せたのだ。
『2200 K-7地区』
罠かもしれない。
そう疑いながらも、俺は変身を解いた姿でここに来ていた。
夜風が熱を持った頬を冷やしていく。
錆びた鉄柵に寄りかかって待っていると、闇の中から足音が聞こえた。
「来たか」
エイスケだった。
昼間の戦闘服ではなく、ラフなジャケット姿だ。
手には、缶コーヒーを二つ持っている。
「はい、お疲れさん」
放り投げられた缶を、俺は片手で受け取った。
温かい。
「……毒入りじゃないだろうな」
「俺がそんな姑息な真似をすると思うか?」
彼は自分用の缶を開け、いかにもうまそうに一口飲んだ。
俺もためらいながらプルトップを開け、コーヒーを口にする。
甘いミルクコーヒーの味が、疲れた体に染み渡る。
「どういうつもりだ。今日のあれは」
単刀直入に聞いた。
「味方を妨害してまで、俺たちを助けるなんて。ネビュラでの立場が危うくなるんじゃないのか」
「あの程度で揺らぐ立場じゃない。それに、あいつらは俺の美学に反する」
エイスケは夜景を見下ろしながら淡々と言った。
「弱い者をいたぶって喜ぶような連中は、見ていて反吐が出る。俺が戦いたいのは、お前たちのように信念を持って向かってくる強者だけだ」
「だからって、助ける理由にはならないだろ」
「理由は言ったはずだ。お前は俺の番だからだ」
彼は振り返り、真っすぐに俺を見た。
月の光に照らされたその顔は、憎らしいほど美しく、そして真剣だった。
「アルファとしての本能が、お前を守れと叫んでいる。組織の命令よりも、その声の方が俺にとっては重要だ」
「……お前は、敵だ。俺はヒーローで、お前はヴィランだ。それは変わらない」
「そうだな。だが、だからこそ燃えるとも言える」
エイスケは一歩近づいてきた。
俺は逃げなかった。
逃げれば、彼に負けたことになる気がしたからだ。
「カイ。ネビュラの上層部は、次の作戦で禁断の兵器を使おうとしている」
「禁断の兵器?」
「街一つを消滅させるほどの威力を持つ、エネルギー暴走炉だ。制御不能な怪物を生み出し、無差別に破壊をまき散らす」
息をのむ。
それは、ただの侵略じゃない。
虐殺だ。
「俺はそれを止めるつもりだ。だが、組織内部から動くには限界がある」
「……まさか、俺たちに協力しろと言うのか?」
「共闘だ。お前たちの力が必要だ」
彼は手を差し出した。
その手は、かつて俺に氷の槍を向けた手であり、そしてマントをかけてくれた手でもあった。
信じていいのか。
敵の幹部を。
だが、彼の瞳に嘘の色は見えなかった。
何より、俺の本能が「この男を信じろ」と告げている。
運命の番という忌々しいつながりが、今だけは頼もしい道しるべのように思えた。
「……条件がある」
「なんだ?」
「俺の正体を、絶対にバラさないこと。そして、この作戦が終わったら、改めて正々堂々と勝負すること」
エイスケは満足げにうなずき、口元を緩めた。
「ああ、約束しよう。その時は、ベッドの上での勝負も受けて立つが?」
「ふざけるな!」
俺は顔を真っ赤にして、彼の手を強く握り返した。
彼の手は冷たかったが、その奥にある熱意は、確かに俺の手に伝わってきた。
月明かりの下、敵同士の、そして番同士の奇妙な同盟が結ばれた瞬間だった。
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