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第11話「溶け合う魂」
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リビングの柔らかな間接照明が、僕たち二人を静かに照らしていた。
皇さんの隣に座った僕の心臓は、少しだけ速く脈打っている。でも、不思議と怖くはなかった。彼の金色の瞳から零れた涙が、僕たちの間にあった分厚い氷の壁を、溶かしてくれたような気がしたからだ。
「僕の両親は、僕が五つの時に亡くなりました」
僕は、ぽつりぽつりと、自分の過去を語り始めた。
事故の記憶は断片的で曖昧だ。でも、両親がいつも僕を愛し、「湊は私たちの宝物だ」と言ってくれていたことは、はっきりと覚えている。
親戚の家で、どうして僕が「普通じゃない」と言われ続けたのか、その理由が今なら分かる。彼らは、僕が『月魄のオメガ』であることを知っていて、僕の存在が厄介ごとを呼び込むことを恐れていたのだ。彼らなりに、僕を守ろうとしてくれていたのかもしれない。
「だから僕は、ずっと、自分が普通じゃないことが嫌でした。誰にも迷惑をかけずに、ただ静かに、息を潜めるように生きていければ、それでいいって。……雫が病気になった時も、僕のせいじゃないかって、自分を責めたこともあります」
僕のせいで、両親は死んだ。
僕のせいで、妹は苦しんでいる。
僕という存在が、呪われているのだと、ずっと思っていた。
「……君は、何も悪くない」
静かに聞いていた皇さんが、絞り出すような声で言った。
「君を呪いだなんて言う奴がいたら、俺が許さない。君は……君は、月の光そのものだ。穢れなく、美しい。……俺には、眩しすぎるほどに」
彼は、おそるおそる、といった様子で僕の手に自分の手を重ねた。
大きくて、ごつごつした、アルファの手。その手が、今はとても温かく感じられた。
「湊。俺は、君に謝らなければならないことが、山ほどある。君の気持ちを考えずに、無理やりここに連れてきた。君を疑い、深く傷つけた。……どんな言葉を使っても、償いきれない」
彼の瞳が、真摯な光を宿して僕を射抜く。
「だから、これは、俺のただの我儘だ。……それでも、聞いてほしい」
彼は一度言葉を切ると、僕の手を、両手で優しく包み込んだ。
「契約じゃない。俺の独占欲でも、アルファの本能でもない。俺自身の意志で、君が欲しい。水瀬湊、君という一人の人間を、愛している。……だから、どうか。俺の、本当の番になってくれないだろうか」
それは、僕が今まで聞いた中で、一番不器用で、一番誠実な告白だった。
ああ、この人も、僕と同じだったのかもしれない。
『黒曜のアルファ』という仮面の下で、ずっと孤独だった。人を愛することも、愛されることも知らずに、たった一人で生きてきた。
だから、僕という存在に出会って、どうしていいか分からなくなったんだ。
ただ、手に入れたい、傍に置きたい、という本能のままに、強引な手段しか取れなかった。
僕の目から、涙が静かに溢れ落ちた。
それは、悲しい涙じゃない。温かくて、優しい涙だった。
呪いだと思っていた僕の存在を、「月の光だ」と言ってくれた人。
孤独だった僕の心を、その不器用な手で、必死に温めようとしてくれた人。
「……僕も」
声が、震える。
「僕も、あなたのことが……好き、です」
その言葉を口にした瞬間、僕の心にかけられていた最後の鎖が、音を立てて砕け散った気がした。
皇さんの瞳が、驚きと、そして歓喜に大きく見開かれる。
「……湊」
彼は僕の名前を愛おしげに呼び、そっとその腕の中に僕を閉じ込めた。
もう、そこには恐怖も、戸惑いもなかった。
白檀の香りに包まれながら、僕は彼の胸に顔をうずめる。とくん、とくん、と力強く、そして少しだけ速く打つ彼の心音が、僕にまで伝わってきた。
「ありがとう……ありがとう、湊」
僕の髪に、彼の唇が何度も触れる。
その夜、僕たちは初めて、心も身体も結ばれた。
彼が僕を抱きしめる腕は、どこまでも優しく、僕を壊さないように、宝物のように、慎重だった。
甘く蕩けるような時間の中で、僕の身体の奥深くで、何かがカチリと嵌まるような感覚があった。
魂が、溶け合っていく。
これが、本当の『番い』の儀式。
僕と彼は、もう二度と離れることのできない、運命の番になったのだ。
窓の外で、満月が、僕たち二人を静かに祝福してくれているようだった。
皇さんの隣に座った僕の心臓は、少しだけ速く脈打っている。でも、不思議と怖くはなかった。彼の金色の瞳から零れた涙が、僕たちの間にあった分厚い氷の壁を、溶かしてくれたような気がしたからだ。
「僕の両親は、僕が五つの時に亡くなりました」
僕は、ぽつりぽつりと、自分の過去を語り始めた。
事故の記憶は断片的で曖昧だ。でも、両親がいつも僕を愛し、「湊は私たちの宝物だ」と言ってくれていたことは、はっきりと覚えている。
親戚の家で、どうして僕が「普通じゃない」と言われ続けたのか、その理由が今なら分かる。彼らは、僕が『月魄のオメガ』であることを知っていて、僕の存在が厄介ごとを呼び込むことを恐れていたのだ。彼らなりに、僕を守ろうとしてくれていたのかもしれない。
「だから僕は、ずっと、自分が普通じゃないことが嫌でした。誰にも迷惑をかけずに、ただ静かに、息を潜めるように生きていければ、それでいいって。……雫が病気になった時も、僕のせいじゃないかって、自分を責めたこともあります」
僕のせいで、両親は死んだ。
僕のせいで、妹は苦しんでいる。
僕という存在が、呪われているのだと、ずっと思っていた。
「……君は、何も悪くない」
静かに聞いていた皇さんが、絞り出すような声で言った。
「君を呪いだなんて言う奴がいたら、俺が許さない。君は……君は、月の光そのものだ。穢れなく、美しい。……俺には、眩しすぎるほどに」
彼は、おそるおそる、といった様子で僕の手に自分の手を重ねた。
大きくて、ごつごつした、アルファの手。その手が、今はとても温かく感じられた。
「湊。俺は、君に謝らなければならないことが、山ほどある。君の気持ちを考えずに、無理やりここに連れてきた。君を疑い、深く傷つけた。……どんな言葉を使っても、償いきれない」
彼の瞳が、真摯な光を宿して僕を射抜く。
「だから、これは、俺のただの我儘だ。……それでも、聞いてほしい」
彼は一度言葉を切ると、僕の手を、両手で優しく包み込んだ。
「契約じゃない。俺の独占欲でも、アルファの本能でもない。俺自身の意志で、君が欲しい。水瀬湊、君という一人の人間を、愛している。……だから、どうか。俺の、本当の番になってくれないだろうか」
それは、僕が今まで聞いた中で、一番不器用で、一番誠実な告白だった。
ああ、この人も、僕と同じだったのかもしれない。
『黒曜のアルファ』という仮面の下で、ずっと孤独だった。人を愛することも、愛されることも知らずに、たった一人で生きてきた。
だから、僕という存在に出会って、どうしていいか分からなくなったんだ。
ただ、手に入れたい、傍に置きたい、という本能のままに、強引な手段しか取れなかった。
僕の目から、涙が静かに溢れ落ちた。
それは、悲しい涙じゃない。温かくて、優しい涙だった。
呪いだと思っていた僕の存在を、「月の光だ」と言ってくれた人。
孤独だった僕の心を、その不器用な手で、必死に温めようとしてくれた人。
「……僕も」
声が、震える。
「僕も、あなたのことが……好き、です」
その言葉を口にした瞬間、僕の心にかけられていた最後の鎖が、音を立てて砕け散った気がした。
皇さんの瞳が、驚きと、そして歓喜に大きく見開かれる。
「……湊」
彼は僕の名前を愛おしげに呼び、そっとその腕の中に僕を閉じ込めた。
もう、そこには恐怖も、戸惑いもなかった。
白檀の香りに包まれながら、僕は彼の胸に顔をうずめる。とくん、とくん、と力強く、そして少しだけ速く打つ彼の心音が、僕にまで伝わってきた。
「ありがとう……ありがとう、湊」
僕の髪に、彼の唇が何度も触れる。
その夜、僕たちは初めて、心も身体も結ばれた。
彼が僕を抱きしめる腕は、どこまでも優しく、僕を壊さないように、宝物のように、慎重だった。
甘く蕩けるような時間の中で、僕の身体の奥深くで、何かがカチリと嵌まるような感覚があった。
魂が、溶け合っていく。
これが、本当の『番い』の儀式。
僕と彼は、もう二度と離れることのできない、運命の番になったのだ。
窓の外で、満月が、僕たち二人を静かに祝福してくれているようだった。
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