冤罪で追放された悪役令息、北の辺境で幸せを掴む~恐ろしいと噂の銀狼将軍に嫁いだら、極上の溺愛とモフモフなスローライフが始まりました~

水凪しおん

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第13話「吹雪の夜の奇跡と、三人目の家族」

 季節が再び巡り、冬が訪れた頃。
 臨月を迎えた私は、大きなお腹を抱えて暖炉の前の揺り椅子に座っていた。
 外は猛吹雪だ。窓ガラスがガタガタと音を立て、風の音が唸りを上げている。

「……予定日はもう少し先のはずなんだけど」

 お腹の張りが強くなっている気がする。
 グリーグ様は、私の隣で心配そうに本を読んであげていた。胎教に良いと聞いて、毎日こうして物語を聞かせているのだ。
 その時、ズキリとした痛みが走った。

「っ……!」
「ジュリアン!? どうした!」

 グリーグ様が本を放り出し、私の顔を覗き込む。

「……陣痛かもしれません。少し早いけど……」

 痛みの間隔が、少しずつ短くなっていく。
 彼は顔色を変え、すぐに医師と産婆を呼びに走った。
 嵐の夜の出産となった。
 外の吹雪よりも激しい痛みが、波のように押し寄せてくる。

「うぅっ……痛い、痛い……!」
「頑張れ、ジュリアン! 俺がついている!」

 グリーグ様はずっと私の手を握りしめ、汗を拭いてくれた。彼の手も冷や汗で濡れている。
 医師と産婆が懸命に処置をする中、私は意識が朦朧としていた。
 痛みで気が遠くなりそうになるたび、グリーグ様の声が私を現実に引き戻してくれた。

「息を吸って! もう少しだ、頭が見えている!」
「がんばれ、あと少しだ!」

 私は渾身の力を込めていきんだ。
 ――オギャア! オギャア!
 元気な産声が、部屋の中に響き渡った。
 一瞬、時が止まったような静寂が訪れ、次に歓喜の声が上がった。

「生まれました! 元気な男の子です!」

 産婆が、きれいに産湯を使った赤ちゃんを抱いて見せてくれた。
 真っ赤な顔で、一生懸命に泣いている小さな命。
 黒い髪に、宝石のようなアメジスト色の瞳。
 グリーグ様の髪色と、私の瞳の色を受け継いだ子供だ。

「……ジュリアン、よくやった。本当に、よく頑張った」

 グリーグ様が、涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で私を抱きしめた。
 私も涙が止まらない。
 産婆から赤ちゃんを受け取ると、ずっしりとした命の重みが腕に伝わってきた。

「……こんにちは、赤ちゃん。やっと会えたね」

 赤ちゃんは泣き止み、私の顔をじっと見つめた。そして、小さな手で私の指をぎゅっと握った。
 その瞬間、世界中のどんな宝物よりも尊いものが、ここにあると感じた。

「名前は、もう決めているんだろう?」

 グリーグ様が優しく尋ねた。

「はい。……レオン。レオン・ヴォルファートです」
「レオンか。……強く、勇敢な名前だ。いい名前だ」

 彼は大きな人差し指で、レオンの頬をそっとつついた。
 その夜、吹雪は止み、空には美しいオーロラが広がった。
 まるで、新しい家族の誕生を祝福するかのように。
 私たちは三人で寄り添い、眠りについた。
 これが、私たちの新しい始まりだった。

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