過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます

水凪しおん

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第01話「理不尽な追放宣告」

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「リアム・アシュフィールド。本日をもって貴様を勘当し、辺境のアークライト領へ追放処分とする」

 冷え冷えとした大広間に、父であるアシュフィールド侯爵の厳かな声が響き渡った。
 磨き上げられた大理石の床に、豪華なシャンデリアの光が反射している。だが、その輝きも俺の心を温めるには至らない。

(はい、来ました。テンプレ追放イベント)

 内心でため息をつきながら、俺は無表情を貫いて父の顔を見上げた。
 玉座にふんぞり返る父の隣では、兄のエドガーが勝ち誇ったような笑みを浮かべている。金の髪に青い瞳。いかにも貴公子然としたその顔が、今は憎悪で歪んで見えた。

 俺、リアム・アシュフィールドは転生者だ。
 前世は日本の市役所で働く、ごく普通の公務員だった。連日の残業と終わらない書類の山に埋もれ、気づけば過労死。次に目覚めた時、俺はこの世界の侯爵家の三男になっていた。

 剣と魔法が存在するファンタジー世界。貴族への転生。普通ならチート能力で無双する勝ち組コースだろう。
 だが、現実はそう甘くなかった。この世界では魔力の有無が人間の価値を決める。そして悲しいことに、俺には魔力がひとかけらも無かったのだ。

 その瞬間から、俺の扱いは決まった。「アシュフィールド家の恥」「能無し」。
 家族からの罵倒と使用人たちの侮蔑を浴びながら、俺は屋敷の片隅で息を潜めるように生きてきた。元公務員のメンタルは、理不尽なパワハラへの耐性だけは妙に高かったらしい。

「アークライトは我が領地の北の果て。魔物が闊歩し、人も住まぬ不毛の地だ。能無しのお前にはお似合いの終着点だろう」

 エドガーが嘲るように言う。
 アークライト領。名前だけは聞いたことがある。あまりの過酷さに歴代の代官が次々と逃げ出し、今では「ゴミ捨て場」とまで呼ばれている土地だ。そこへ行け、と。事実上の死刑宣告と何が違う。

「……謹んで、お受けいたします」

 俺は静かに頭を下げた。ここで抵抗しても無駄だ。彼らは俺を追い出したい。それだけなのだから。前世で培った「波風を立てずにやり過ごすスキル」が、今、遺憾なく発揮されている。

「ふん、物分かりが良くて助かる。荷物をまとめる時間はくれてやる。明日の朝日が昇る頃には、この屋敷から出ていけ」

 父はそれだけ言うと、興味を失ったように背を向けた。
 エドガーは最後まで俺を蔑みの目で見つめ、満足げに鼻を鳴らして父の後に続く。

 広間に一人残された俺は、ゆっくりと息を吐いた。
 追放。それはつまり、この息苦しい家から解放されるということでもある。ポジティブに考えよう。辺境だろうが不毛の地だろうが、あの兄の顔を見なくて済むなら、その方がずっとマシだ。

 自室に戻るため、長い廊下を歩く。使用人たちは遠巻きに俺を見て、ひそひそと噂話をしている。もう慣れた光景だ。
 部屋の扉を開けると、そこには一人の青年が静かに佇んでいた。

 銀色の髪が月明かりを反射して淡く輝き、空を映したような青い瞳がまっすぐに俺を捉える。
 俺の唯一の護衛騎士、ユリウスだ。

「リアム様、お話は……伺っておりました」
「ああ」

 彼は俺が奴隷市場で気まぐれに買った元奴隷だ。理由は、その瞳があまりにも諦観に満ちていて、過去の自分と重なって見えたから。最初は感情の読めない人形のようだったが、今では俺の唯一の理解者であり、味方だった。

「お前も、もう俺の護衛でいる必要はない。どこか好きなところへ行くといい。解放証も用意する」
「……お断りいたします」

 ユリウスは即答した。その声に、迷いは一切ない。

「俺の主はリアム様、ただお一人です。あなたがどこへ行かれようと、俺は共におります。地の果てであろうとも」

 彼の空色の瞳が、揺るぎない忠誠を物語っていた。
 その真摯な眼差しに、ささくれていた俺の心が、少しだけ温かくなるのを感じた。

(そうか……俺は、一人じゃないのか)

 この理不尽な世界で、たった一つの、確かな絆。それがあれば、あるいは。

「そうか。……なら、付き合ってもらうぞ、ユリウス。俺たちの新しい領地、アークライトにな」
「はっ」

 ユリウスは静かに、だが力強くうなずいた。
 こうして、俺の波乱に満ちた辺境領主ライフは、最悪の形で幕を開けたのだった。
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