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第13話「森の迷宮と焦りの色」
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初戦で手痛い一撃を食らったエドガーは、怒り狂っていた。
「あの能無しめが……小賢しい真似を! 全軍、森へ入れ! 潜んでいるネズミどもを燻り出して、一匹残らず叩き潰せ!」
彼の命令一下、討伐軍はアークライトの広大な森へと足を踏み入れた。それは、まさに俺の思う壺だった。
「ようこそ、俺の庭へ」
俺は森を見下ろす丘の上で、静かにつぶやいた。
この森は、俺たちが冬の間に徹底的に調査し、知り尽くした場所だ。どこに獣道があり、どこに沼地があり、どこが奇襲に適しているか、全て頭に入っている。
討伐軍は、すぐに森の恐ろしさを思い知ることになった。
道だと思って進んだ先は、底なしの沼だった。兵士たちは泥に足を取られ、身動きが取れなくなる。そこへ、木の上から岩や丸太が降り注ぐ。
何気なく茂みに入れば、そこには巧妙に隠された落とし穴が口を開けて待っている。
吊り下げられた丸太が振り子のように兵士たちを薙ぎ払い、足元に仕掛けられた縄が彼らを宙吊りにした。
俺たちの部隊は、決して正面からは戦わない。姿を見せずに、一方的に攻撃を仕掛けては、すぐに森の奥へと消える。討伐軍は、見えない敵の影に怯え、神経をすり減らしていった。
「くそっ、どこだ! どこにいる、リアム!」
エドガーの苛立った声が、森に響き渡る。だが、それに答えるのは、不気味な鳥の声と、風が木々を揺らす音だけだ。
兵士たちの士気は、日に日に落ちていった。食料は初戦の奇襲で大半を焼かれ、不慣れな森での行軍は体力を著しく消耗させた。夜になれば、どこからともなく聞こえる魔物の遠吠えが、彼らの恐怖をさらに煽った。
「ユリウス、今夜も仕掛けるぞ。狙いは、エドガーの本陣だ」
「はっ」
月明かりもない、漆黒の闇夜。俺とユリウスは、精鋭の数名だけを率いて、敵の本陣へと忍び寄っていた。
眠りこけている見張りを音もなく始末し、俺たちはエドガーが寝ているであろう、ひときわ大きな天幕へと近づく。
俺の目的は、エドガーの暗殺ではない。彼に、極上の恐怖をプレゼントすることだ。
俺は天幕の外から、小さな袋を投げ込んだ。中に入っているのは、痒みを引き起こす植物の粉末だ。
「うぎゃあああ! か、痒い! 体が痒くて死ぬー!」
数秒後、天幕の中からエドガーの情けない悲鳴が上がった。その混乱に乗じて、ユリウスが天幕の支柱を切り裂く。巨大な天幕が、悲鳴を上げるエドガーの上に崩れ落ちた。
「敵襲! 本陣が襲われたぞ!」
敵陣が大混乱に陥るのを尻目に、俺たちは再び闇の中へと姿を消した。
翌朝、エドガーは全身を掻きむしって真っ赤になり、ボロボロになった天幕の下から這い出してきた。その威厳も何もあったものではない姿に、兵士たちの彼を見る目は、もはや侮蔑の色さえ含んでいた。
「もう……嫌だ……。こんな森、一刻も早く出たい……」
「王都に帰りたい……」
兵士たちの間から、そんな声が聞こえ始める。
エドガーの焦りは、頂点に達していた。彼は、このままでは自分の面目が丸潰れになると、苛立ちを募らせる。そして、ついに彼は、最も愚かな選択をすることになる。
「全軍、二手に分かれる! 挟み撃ちにして、奴らを一気に殲滅するぞ!」
兵力を分散させる。それは、この状況において、最悪の悪手だった。
「……食いついたな」
その報告を受けた俺の口元に、冷たい笑みが浮かんだ。反撃の時は、近い。
「あの能無しめが……小賢しい真似を! 全軍、森へ入れ! 潜んでいるネズミどもを燻り出して、一匹残らず叩き潰せ!」
彼の命令一下、討伐軍はアークライトの広大な森へと足を踏み入れた。それは、まさに俺の思う壺だった。
「ようこそ、俺の庭へ」
俺は森を見下ろす丘の上で、静かにつぶやいた。
この森は、俺たちが冬の間に徹底的に調査し、知り尽くした場所だ。どこに獣道があり、どこに沼地があり、どこが奇襲に適しているか、全て頭に入っている。
討伐軍は、すぐに森の恐ろしさを思い知ることになった。
道だと思って進んだ先は、底なしの沼だった。兵士たちは泥に足を取られ、身動きが取れなくなる。そこへ、木の上から岩や丸太が降り注ぐ。
何気なく茂みに入れば、そこには巧妙に隠された落とし穴が口を開けて待っている。
吊り下げられた丸太が振り子のように兵士たちを薙ぎ払い、足元に仕掛けられた縄が彼らを宙吊りにした。
俺たちの部隊は、決して正面からは戦わない。姿を見せずに、一方的に攻撃を仕掛けては、すぐに森の奥へと消える。討伐軍は、見えない敵の影に怯え、神経をすり減らしていった。
「くそっ、どこだ! どこにいる、リアム!」
エドガーの苛立った声が、森に響き渡る。だが、それに答えるのは、不気味な鳥の声と、風が木々を揺らす音だけだ。
兵士たちの士気は、日に日に落ちていった。食料は初戦の奇襲で大半を焼かれ、不慣れな森での行軍は体力を著しく消耗させた。夜になれば、どこからともなく聞こえる魔物の遠吠えが、彼らの恐怖をさらに煽った。
「ユリウス、今夜も仕掛けるぞ。狙いは、エドガーの本陣だ」
「はっ」
月明かりもない、漆黒の闇夜。俺とユリウスは、精鋭の数名だけを率いて、敵の本陣へと忍び寄っていた。
眠りこけている見張りを音もなく始末し、俺たちはエドガーが寝ているであろう、ひときわ大きな天幕へと近づく。
俺の目的は、エドガーの暗殺ではない。彼に、極上の恐怖をプレゼントすることだ。
俺は天幕の外から、小さな袋を投げ込んだ。中に入っているのは、痒みを引き起こす植物の粉末だ。
「うぎゃあああ! か、痒い! 体が痒くて死ぬー!」
数秒後、天幕の中からエドガーの情けない悲鳴が上がった。その混乱に乗じて、ユリウスが天幕の支柱を切り裂く。巨大な天幕が、悲鳴を上げるエドガーの上に崩れ落ちた。
「敵襲! 本陣が襲われたぞ!」
敵陣が大混乱に陥るのを尻目に、俺たちは再び闇の中へと姿を消した。
翌朝、エドガーは全身を掻きむしって真っ赤になり、ボロボロになった天幕の下から這い出してきた。その威厳も何もあったものではない姿に、兵士たちの彼を見る目は、もはや侮蔑の色さえ含んでいた。
「もう……嫌だ……。こんな森、一刻も早く出たい……」
「王都に帰りたい……」
兵士たちの間から、そんな声が聞こえ始める。
エドガーの焦りは、頂点に達していた。彼は、このままでは自分の面目が丸潰れになると、苛立ちを募らせる。そして、ついに彼は、最も愚かな選択をすることになる。
「全軍、二手に分かれる! 挟み撃ちにして、奴らを一気に殲滅するぞ!」
兵力を分散させる。それは、この状況において、最悪の悪手だった。
「……食いついたな」
その報告を受けた俺の口元に、冷たい笑みが浮かんだ。反撃の時は、近い。
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