料理の腕を奪われたΩの俺が、運命の番であるスパダリαな次期当主様に見初められ、国の運命を懸けた神聖な恵方巻を作って奇跡を起こす。

水凪しおん

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エピローグ「木漏れ日の食卓」

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 あれから、5年の月日が流れた。
 龍神の奇跡の後、玄は全ての地位を剥奪され、国を追われた。そして、暁は父から当主の座を受け継ぎ、名君として民から厚い信頼を寄せられるようになった。
 俺は、彼の唯一の番として、その隣で彼を支えている。

 俺がΩであることに対し、もう誰も何も言わない。あの日の奇跡は、人々の心にあった古い価値観を打ち破り、この国に新しい風を吹き込んだのだ。

 そして今、俺は懐かしい場所に立っている。
 かつての食事処「木漏れ日」だ。店は改装して少しだけ広くなったが、温かい雰囲気は昔のままだ。今日は月に一度、暁が全ての公務から解放される特別な日。俺が腕を振るい、ささやかな宴を開くのが習わしになっていた。

「父上、母上!見てください!」

 小さな子供が、たどたどしい足取りで俺たちの元へ駆けてくる。暁と同じ黒い髪に、俺によく似た丸い瞳を持つ、俺たちの愛しい息子、陽(はる)だ。その手には、彼が庭で摘んできたのであろう、小さな野の花が握られている。

「陽、走ると危ないぞ」

 暁はそう言いながらも、その表情はこれ以上ないほどに優しい。彼は陽をひょいと抱き上げると、その頬に自分の頬をすり寄せた。陽はきゃっきゃと嬉しそうに笑っている。

 その光景を見ているだけで、俺の胸は温かいもので満たされる。
 かつて、孤独の底で生きていた俺が、こんなにも満たされた日々を送れるなんて、誰が想像しただろうか。

「さあ、ご飯にしましょう。今日は陽の好きな、唐揚げですよ」

「わーい!からあげ!」

 食卓には、俺の作った料理がずらりと並んでいる。カレイの煮付け、里芋の煮物、そして陽の大好物の唐揚げ。特別なごちそうではない。けれど、一つ一つに愛情を込めて作った、俺たちのための料理だ。

「いただきます」

 三人の声が、温かい店内に響く。
 暁は「やはりお前の料理が一番だ」と言って幸せそうに目を細め、陽は小さな口いっぱいに唐揚げを頬張っている。
 その二人の笑顔が、俺にとって何よりの宝物だ。

 窓の外では、柔らかな木漏れ日がきらきらと輝いている。
 俺の人生は、あの日、この場所で始まった。
 そしてこれからも、この温かな木漏れ日の下で、愛する家族と共に続いていく。
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