破滅フラグ回避のため冷酷公爵から逃げたい悪役令息(勘違い)ですが、実は運命の番らしくて過保護な溺愛から逃げられません

水凪しおん

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第2話:最初の標的、冷酷公爵

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 姉との関係改善(という名の断絶計画)が頓挫してから数年。俺は十五歳になり、ついに王立学園へ入学する日がやってきた。
 この数年間、俺は姉からの過剰なスキンシップから逃げ回りつつ、前世の知識を活かして目立たず、騒がず、平凡なベータの男子生徒として生きる術を模索してきた。
 そう、俺の性別はベータ。アルファでもオメガでもない、ごく普通の人間だ。それが唯一の救いだった。オメガだったら何をされるか分からないし、アルファだったら家督争いに巻き込まれていたかもしれない。
「アレン様、本日の入学パーティーでは、決してクラーヴァイン公爵様のお近くには寄られぬよう……」
 登校の馬車の中、執事のセバスが心配そうに言った。
「分かってるよ。あの人と関わったら、俺の人生は終わりだ」
 クラーヴァイン公爵。シリウス・フォン・クラーヴァイン。
『星屑のラプソディ』における、最強の攻略対象。国内随一の権力を持つ若き公爵にして、圧倒的なカリスマを持つアルファ。ゲームでは、その冷酷非情さから「氷の公爵」と呼ばれていた。彼こそ、ヴァイス家を断罪する中心人物。絶対に、絶対に関わってはいけない相手だ。
 パーティー会場である大ホールは、きらびやかなシャンデリアの光に満ち、着飾った貴族の子弟たちで溢れかえっていた。俺は壁の花ならぬ、壁のシミになることを決意し、ホールの隅でひたすら気配を消すことに集中する。
(いた……!)
 視線の先に、一際大きな人だかりの中心にいる人物を見つけた。夜空のような色の髪に、凍てつくような銀の瞳。間違いない、シリウス・フォン・クラーヴァインだ。ゲームのスチルよりも数百倍は美しいが、その分、威圧感も尋常じゃない。まるで、彼以外の人間はすべて石ころだとでも言いたげな傲岸不遜なオーラを放っている。
 関わらない、絶対に。俺はそっと人混みに紛れ、テラスへと続く扉を開けた。外の空気を吸って、少しだけ落ち着こう。
「ふぅ……」
 ひんやりとした夜風が頬を撫でる。これで一安心だ、と思っていた矢先だった。
「そこで何をしている」
 背後からかけられた、低く冷たい声に、心臓が凍りついた。まさか。いや、そんなはずはない。俺はただ運が悪かっただけだ。
 ゆっくりと振り返ると、そこには月明かりを背に、銀色の瞳をこちらに向ける、シリウス公爵その人が立っていた。
「こ、公爵閣下……」
 声が震える。なぜ、彼がここに? 人混みが嫌いなのはゲーム知識で知っていたが、よりにもよってこのタイミングでテラスに出てくるなんて。
「失礼いたしました! すぐに立ち去ります!」
 俺は慌ててその場を離れようとした。しかし、腕を強く掴まれ、それは叶わなかった。
「待て」
「ひっ……!」
 掴まれた腕が熱い。恐怖で体が動かない。終わった。俺の人生、ここでゲームオーバーだ。きっと、悪役令嬢の弟である俺を、早々に排除しに来たんだ。
「お前……名は」
「ア、アレン・フォン・ヴァイスです……」
 もうだめだ。終わった。そう思った俺に、シリウスは意外な言葉を口にした。
「ヴァイス……エリアーナ嬢の弟か。……いい匂いがするな」
「へ?」
 匂い? 俺はベータだぞ? フェロモンなんてないはずだ。きっと、テラスに咲いている花の香りのことだろう。
 シリウスは俺の腕を掴んだまま、その銀色の瞳でじっと俺を見つめている。何を考えているのか全く読めない。その視線に耐えきれず、俺が再び逃げ出そうとした、その時だった。
 彼の表情が、ほんの少しだけ和らいだように見えた。
「……面白い。アレン・フォン・ヴァイス。お前のことを、覚えた」
 そう言って彼は、ようやく俺の腕を解放した。
 俺は訳が分からないまま、一目散にその場から逃げ出した。
 なんだ、今の。なぜか分からないが、とんでもなく巨大な破滅フラグが、今、音を立てて建ってしまったような気がした。
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