破滅フラグ回避のため冷酷公爵から逃げたい悪役令息(勘違い)ですが、実は運命の番らしくて過保護な溺愛から逃げられません

水凪しおん

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第5話:甘すぎる毒は、溺愛の香り

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 クラーヴァイン公爵邸での同居生活は、俺の想像を絶するものだった。
 まず、俺に与えられた部屋が、城の一室かと思うほど広くて豪華だった。クローゼットには、俺のサイズにぴったりと仕立てられた最高級の服が、これでもかというほど並んでいる。
「アレン様、本日の朝食でございます」
 専属になったらしい執事のジェラルドが、銀のワゴンを押して入ってくる。テーブルに並べられたのは、黄金色のスープに、焼きたてのパン、色とりどりのフルーツ。どれもこれも、一口食べれば頬が落ちそうになるほど美味い。
「……何か、毒でも入ってるんじゃないだろうな」
「滅相もございません。すべて毒見は済ませております」
 真顔で答えるジェラルドに、俺はぐうの音も出なかった。
 学園への送り迎えは、クラーヴァイン家の紋章が入った最高級の馬車。学園で必要なものがあれば、ジェラルドに言えば次の日には完璧に用意されている。
 そして何より、シリウス公爵本人の態度だ。
 彼は公務で忙しいはずなのに、毎日の夕食は必ず俺と一緒に取る。そして、俺が何か話せば、相槌を打ちながら穏やかな表情で聞いているのだ。
「今日の授業はどうだった」
「はあ、まあ……普通でした」
「そうか。何か困ったことがあれば、すぐに私に言うんだ」
 そう言って俺の頭を優しく撫でるその手つきは、とてもじゃないが演技には見えなかった。
「何か裏がある……何か裏があるに違いない……!」
 夜、一人になった部屋で、俺は頭を抱えて唸った。
 この過剰なほどの優しさと甘やかし。これは一体、どういう作戦なんだ? 俺を贅沢に慣れさせて、骨抜きにした上で、地獄に突き落とすつもりなのか。それとも、これが噂に聞く「飴と鞭」の「飴」の部分で、これからとんでもない「鞭」が待っているのか。
 考えれば考えるほど、疑心暗鬼は深まるばかりだ。
 この邸の他の使用人たちも、俺に対して非常に丁重だった。だが、彼らの視線には、丁重さ以外に、驚きと戸惑いが含まれていることに俺は気づいていた。
「シリウス様が、あんなに穏やかなお顔をなさるなんて……」
「アレン様はいったい何者なんだ……?」
 廊下の隅で交わされるそんな会話を耳にするたび、俺は確信する。やはり、シリウスの俺に対する態度は、普段の彼とは違うのだ。つまり、あれは全て計算ずくの演技!
 ある日、俺はシリウスに大量の宝石が詰め込まれた小箱を渡された。
「お前に似合うと思ってな。好きなものを選ぶといい」
「こ、こんなもの、受け取れません!」
「なぜだ。お前は私の婚約者だろう」
「しかし……!」
「それとも、私が選んだものが気に入らないと?」
 銀色の瞳が、すっと細められる。出た、冷酷公爵モードだ。ここで断れば、何をされるか分からない。
「……い、いえ! ありがとうございます……!」
 俺は震えながら、一番小さくて目立たないサファイアのブローチを手に取った。
「それか。いいだろう」
 満足げに頷くシリウス。その姿を見て、俺は改めて決意を固めた。
(そうだ、この甘い毒に溺れてはいけない。俺は常に警戒を怠らず、いつか来る断罪の日に備えなければならないんだ……!)
 しかし、俺のそんな悲壮な決意とは裏腹に、公爵様からの溺愛は日に日にエスカレートしていく一方なのだった。
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