破滅フラグ回避のため冷酷公爵から逃げたい悪役令息(勘違い)ですが、実は運命の番らしくて過保護な溺愛から逃げられません

水凪しおん

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第6話:成り上がりスキルは前世の記憶

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 シリウスとの奇妙な同居生活が始まってから、俺の学園での立場は一変した。
「見ろよ、あいつがクラーヴァイン公爵を誑かしたっていう、ヴァイス家の……」
「男のオメガなんて、気味が悪いわ」
 廊下を歩けば、遠巻きにそんな囁き声が聞こえてくる。俺としては、むしろシリウスの監視から逃れたいぐらいなのだが、周囲の目にはそうは映らないらしい。
 しかし、俺はこんなことでへこたれるわけにはいかない。破滅フラグ回避のためには、悪評を覆し、味方を一人でも多く作っておく必要がある。
(俺にできること……そうだ、あれだ!)
 前世の俺は、平凡な会社員だったが、一つだけ特技があった。それは、料理や菓子作りだ。母親が料理教室を開いていた影響で、俺も一通りのことはできる。この世界の菓子は、やたらと甘ったるいか、ぱさぱさしているものが多い。俺の知る、繊細で美味しいお菓子なら、きっとみんなを驚かせられるはずだ。
 俺は公爵邸の厨房を借りると、早速ハーブクッキー作りに取り掛かった。生地には安眠効果のあるカモミールと、リラックス効果のあるラベンダーを細かく刻んで混ぜ込む。甘さも控えめにして、サクサクとした食感に仕上げる。
 翌日、俺は焼き上がったクッキーを小さな袋に小分けにして、学園に持っていった。
「あの、よかったらこれ……」
 まずは、隣の席の内気な女子生徒に、恐る恐る差し出してみる。
「え? わ、私に……?」
 彼女は戸惑いながらも、クッキーを受け取ってくれた。そして、一口食べた瞬間、ぱあっと顔を輝かせた。
「おいしい……! こんなにいい香りで、サクサクしたクッキー、初めて食べました!」
 その反応に、俺は心の中でガッツポーズをした。作戦は成功だ。
 この手作りクッキーは瞬く間に評判となった。最初は俺を遠巻きに見ていた生徒たちも、「あの美味しいクッキーをくれる人」として認識し始め、少しずつ話しかけてくれるようになった。
 さらに、前世の知識で作った、肌に優しいオリーブオイルの石鹸も、女子生徒たちの間で大人気となった。
 そして、そんな俺の活動が、思わぬ出会いを引き寄せる。
「あの、あなたがアレン様ですね! そのクッキーの作り方、ぜひ教えていただけませんか!?」
 昼休みの中庭で、一人の令嬢がキラキラした瞳で俺に話しかけてきた。柔らかな栗色の髪に、優しげな翠の瞳。どこかで見たことがあると思ったら、彼女こそ、この乙女ゲーム『星屑のラプソディ』の本来のヒロイン、リリア・アシュフィールド男爵令嬢だった。
「ヒロイン……!」
 俺は一瞬身構えた。悪役令嬢(の弟である俺)が、ヒロインと馴れ合うのはまずいのではないか?
 しかし、リリアはそんな俺の警戒心など意にも介さず、純粋な好奇心で俺のお菓子に興味を持ってくれているようだった。彼女には何の悪意もない。
「ええ、もちろんいいですよ」
 俺がそう答えると、リリアは花が咲くような笑顔を見せた。
 それからというもの、俺とリリアはすっかり友人になった。一緒にお菓子作りをしたり、お茶を飲んだり。心優しく、裏表のない彼女と一緒にいる時間は、破滅の恐怖を忘れさせてくれる、安らぎのひとときだった。
 こうして、俺は前世のスキルを武器に、少しずつ学園での居場所を築き始めていた。この調子でいけば、破滅エンドも回避できるかもしれない。そんな淡い希望が、俺の胸に芽生え始めていた。
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