14 / 23
第13話:仕組まれた罠
しおりを挟む
俺の心に迷いが生じ始めた、まさにその矢先。事件は起こった。
シリウスと俺の婚約は、王家の承認も得て、今や貴族社会の誰もが知る事実となっていた。若き公爵が、希少な男性オメガを番に迎える。このニュースは、多くの祝福と共に、一部の者たちの強い嫉妬と反感をも買っていた。
特に、シリウスが公爵の地位に就くことに反対していた保守派の貴族たちにとって、彼の婚約は格好の攻撃材料だった。
「号外だ! 号外!」
街角で配られていた新聞を何気なく手に取った俺は、そこに掲載された記事を見て、血の気が引くのを感じた。
一面に、俺とカイ王子が二人きりでいる写真が、大きく掲載されていたのだ。
それは、以前カイ王子に薔薇園へ連れて行かれた時のものだった。巧みな角度で撮影されたその写真は、まるで俺たちが密会し、親密な関係にあるかのように見えた。
『クラーヴァイン公爵の婚約者、隣国の王子と不貞か⁉︎』
下世話な見出しが、俺の目を焼く。記事には、俺が公爵を裏切り、隣国の王子と通じているのではないかという、悪意に満ちた憶測が書き連ねられていた。
「そ、そんな……」
手が震えて、新聞を落としそうになる。これは罠だ。俺とシリウスの仲を裂き、公爵を失脚させるために、誰かが仕組んだ罠に違いない。
(どうしよう……どうしよう……!)
俺はパニックに陥った。
俺個人の問題ならまだいい。だが、これは隣国の王子を巻き込んだスキャンダルだ。ヴァイス家が、王家との間に不和をもたらしたと非難され、今度こそ本当に断罪されてしまうかもしれない。
(俺のせいで……俺がカイ王子と親しくしたせいで、家族が、ヴァイス家が、破滅する……!)
かつての恐怖が、現実のものとなって俺に襲いかかる。
公爵邸に戻ると、邸内は不穏な空気に包まれていた。使用人たちが、不安そうな顔で俺を見ている。
俺は震える足で、シリウスの執務室へと向かった。
「シリウス様……!」
扉を開けると、そこには腕を組み、窓の外を眺めているシリウスの姿があった。彼はゆっくりと振り返ると、俺の顔を見るなり、穏やかな声で言った。
「心配するな。お前がそのようなことをする人間ではないと、私が一番よく分かっている」
「で、でも、この記事のせいで……!」
「くだらん。三流ゴシップ紙の戯言(ざれごと)だ。すぐに火は消える」
彼の態度は、驚くほど落ち着いていた。だが、今の俺には、それが強がりにしか見えなかった。きっと、内心では激怒しているに違いない。婚約者に裏切られた(と周囲に思われている)のだから。
「ごめんなさい……俺のせいで、あなたに迷惑を……」
「お前のせいではないと言っているだろう」
シリウスは俺のそばに来ると、震える俺の肩を強く抱いた。
「これは、私を快く思わない連中が仕掛けた罠だ。お前は何も悪くない。……だが、奴らがお前を傷つけようとしたことだけは、許しがたい」
その声には、静かだが、底知れない怒りが込められていた。
俺は彼の胸の中で、ただ自分の無力さを呪うことしかできなかった。
シリウスと俺の婚約は、王家の承認も得て、今や貴族社会の誰もが知る事実となっていた。若き公爵が、希少な男性オメガを番に迎える。このニュースは、多くの祝福と共に、一部の者たちの強い嫉妬と反感をも買っていた。
特に、シリウスが公爵の地位に就くことに反対していた保守派の貴族たちにとって、彼の婚約は格好の攻撃材料だった。
「号外だ! 号外!」
街角で配られていた新聞を何気なく手に取った俺は、そこに掲載された記事を見て、血の気が引くのを感じた。
一面に、俺とカイ王子が二人きりでいる写真が、大きく掲載されていたのだ。
それは、以前カイ王子に薔薇園へ連れて行かれた時のものだった。巧みな角度で撮影されたその写真は、まるで俺たちが密会し、親密な関係にあるかのように見えた。
『クラーヴァイン公爵の婚約者、隣国の王子と不貞か⁉︎』
下世話な見出しが、俺の目を焼く。記事には、俺が公爵を裏切り、隣国の王子と通じているのではないかという、悪意に満ちた憶測が書き連ねられていた。
「そ、そんな……」
手が震えて、新聞を落としそうになる。これは罠だ。俺とシリウスの仲を裂き、公爵を失脚させるために、誰かが仕組んだ罠に違いない。
(どうしよう……どうしよう……!)
俺はパニックに陥った。
俺個人の問題ならまだいい。だが、これは隣国の王子を巻き込んだスキャンダルだ。ヴァイス家が、王家との間に不和をもたらしたと非難され、今度こそ本当に断罪されてしまうかもしれない。
(俺のせいで……俺がカイ王子と親しくしたせいで、家族が、ヴァイス家が、破滅する……!)
かつての恐怖が、現実のものとなって俺に襲いかかる。
公爵邸に戻ると、邸内は不穏な空気に包まれていた。使用人たちが、不安そうな顔で俺を見ている。
俺は震える足で、シリウスの執務室へと向かった。
「シリウス様……!」
扉を開けると、そこには腕を組み、窓の外を眺めているシリウスの姿があった。彼はゆっくりと振り返ると、俺の顔を見るなり、穏やかな声で言った。
「心配するな。お前がそのようなことをする人間ではないと、私が一番よく分かっている」
「で、でも、この記事のせいで……!」
「くだらん。三流ゴシップ紙の戯言(ざれごと)だ。すぐに火は消える」
彼の態度は、驚くほど落ち着いていた。だが、今の俺には、それが強がりにしか見えなかった。きっと、内心では激怒しているに違いない。婚約者に裏切られた(と周囲に思われている)のだから。
「ごめんなさい……俺のせいで、あなたに迷惑を……」
「お前のせいではないと言っているだろう」
シリウスは俺のそばに来ると、震える俺の肩を強く抱いた。
「これは、私を快く思わない連中が仕掛けた罠だ。お前は何も悪くない。……だが、奴らがお前を傷つけようとしたことだけは、許しがたい」
その声には、静かだが、底知れない怒りが込められていた。
俺は彼の胸の中で、ただ自分の無力さを呪うことしかできなかった。
232
あなたにおすすめの小説
悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!
水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。
それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。
家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。
そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。
ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。
誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。
「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。
これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。
すべてはあなたを守るため
高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです
「嵐を呼ぶ」と一族を追放された人魚王子。でもその歌声は、他人の声が雑音に聞こえる呪いを持つ孤独な王子を癒す、世界で唯一の力だった
水凪しおん
BL
「嵐を呼ぶ」と忌み嫌われ、一族から追放された人魚の末王子シオン。
魔女の呪いにより「他人の声がすべて不快な雑音に聞こえる」大陸の王子レオニール。
光の届かない深海と、音のない静寂の世界。それぞれの孤独を抱えて生きてきた二人が、嵐の夜に出会う。
シオンの歌声だけが、レオニールの世界に色を与える唯一の美しい旋律だった。
「君の歌がなければ、私はもう生きていけない」
それは、やがて世界の運命さえも揺るがす、あまりにも切なく甘い愛の物語。
歌声がつなぐ、感動の異世界海洋ファンタジーBL、開幕。
冷酷なアルファ(氷の将軍)に嫁いだオメガ、実はめちゃくちゃ愛されていた。
水凪しおん
BL
これは、愛を知らなかった二人が、本当の愛を見つけるまでの物語。
国のための「生贄」として、敵国の将軍に嫁いだオメガの王子、ユアン。
彼を待っていたのは、「氷の将軍」と恐れられるアルファ、クロヴィスとの心ない日々だった。
世継ぎを産むための「道具」として扱われ、絶望に暮れるユアン。
しかし、冷たい仮面の下に隠された、不器用な優しさと孤独な瞳。
孤独な夜にかけられた一枚の外套が、凍てついた心を少しずつ溶かし始める。
これは、政略結婚という偽りから始まった、運命の恋。
帝国に渦巻く陰謀に立ち向かう中で、二人は互いを守り、支え合う「共犯者」となる。
偽りの夫婦が、唯一無二の「番」になるまでの軌跡を、どうぞ見届けてください。
オメガだと隠して魔王討伐隊に入ったら、最強アルファ達に溺愛されています
水凪しおん
BL
前世は、どこにでもいる普通の大学生だった。車に轢かれ、次に目覚めた時、俺はミルクティー色の髪を持つ少年『サナ』として、剣と魔法の異世界にいた。
そこで知らされたのは、衝撃の事実。この世界には男女の他に『アルファ』『ベータ』『オメガ』という第二の性が存在し、俺はその中で最も希少で、男性でありながら子を宿すことができる『オメガ』だという。
アルファに守られ、番になるのが幸せ? そんな決められた道は歩きたくない。俺は、俺自身の力で生きていく。そう決意し、平凡な『ベータ』と身分を偽った俺の前に現れたのは、太陽のように眩しい聖騎士カイル。彼は俺のささやかな機転を「稀代の戦術眼」と絶賛し、半ば強引に魔王討伐隊へと引き入れた。
しかし、そこは最強のアルファたちの巣窟だった!
リーダーのカイルに加え、皮肉屋の天才魔法使いリアム、寡黙な獣人暗殺者ジン。三人の強烈なアルファフェロモンに日々当てられ、俺の身体は甘く疼き始める。
隠し通したい秘密と、抗いがたい本能。偽りのベータとして、俺はこの英雄たちの中で生き残れるのか?
これは運命に抗う一人のオメガが、本当の居場所と愛を見つけるまでの物語。
「禍の刻印」で生贄にされた俺を、最強の銀狼王は「ようやく見つけた、俺の運命の番だ」と過保護なほど愛し尽くす
水凪しおん
BL
体に災いを呼ぶ「禍の刻印」を持つがゆえに、生まれた村で虐げられてきた青年アキ。彼はある日、不作に苦しむ村人たちの手によって、伝説の獣人「銀狼王」への贄として森の奥深くに置き去りにされてしまう。
死を覚悟したアキの前に現れたのは、人の姿でありながら圧倒的な威圧感を放つ、銀髪の美しい獣人・カイだった。カイはアキの「禍の刻印」が、実は強大な魔力を秘めた希少な「聖なる刻印」であることを見抜く。そして、自らの魂を安定させるための運命の「番(つがい)」として、アキを己の城へと迎え入れた。
贄としてではなく、唯一無二の存在として注がれる初めての優しさ、温もり、そして底知れぬ独占欲。これまで汚れた存在として扱われてきたアキは、戸惑いながらもその絶対的な愛情に少しずつ心を開いていく。
「お前は、俺だけのものだ」
孤独だった青年が、絶対的支配者に見出され、その身も魂も愛し尽くされる。これは、絶望の淵から始まった、二人の永遠の愛の物語。
VRMMOで追放された支援職、生贄にされた先で魔王様に拾われ世界一溺愛される
水凪しおん
BL
勇者パーティーに尽くしながらも、生贄として裏切られた支援職の少年ユキ。
絶望の底で出会ったのは、孤独な魔王アシュトだった。
帰る場所を失ったユキが見つけたのは、規格外の生産スキル【慈愛の手】と、魔王からの想定外な溺愛!?
「私の至宝に、指一本触れるな」
荒れた魔王領を豊かな楽園へと変えていく、心優しい青年の成り上がりと、永い孤独を生きた魔王の凍てついた心を溶かす純愛の物語。
裏切り者たちへの華麗なる復讐劇が、今、始まる。
美人なのに醜いと虐げられる転生公爵令息は、婚約破棄と家を捨てて成り上がることを画策しています。
竜鳴躍
BL
ミスティ=エルフィードには前世の記憶がある。
男しかいないこの世界、横暴な王子の婚約者であることには絶望しかない。
家族も屑ばかりで、母親(男)は美しく生まれた息子に嫉妬して、徹底的にその美を隠し、『醜い』子として育てられた。
前世の記憶があるから、本当は自分が誰よりも美しいことは分かっている。
前世の記憶チートで優秀なことも。
だけど、こんな家も婚約者も捨てたいから、僕は知られないように自分を磨く。
愚かで醜い子として婚約破棄されたいから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる