破滅フラグ回避のため冷酷公爵から逃げたい悪役令息(勘違い)ですが、実は運命の番らしくて過保護な溺愛から逃げられません

水凪しおん

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第12話:崩れゆくシナリオ

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 俺の謝罪に、エリアーナはただ静かに首を横に振った。
「あなたが謝ることじゃないわ……。私が、至らない姉だったから……」
 弱々しく微笑む彼女の姿に、俺はますます自分が情けなくなった。この人は、どこまで優しいんだ。悪役令嬢なんかじゃない。ただの、弟思いの、ごく普通の姉さんじゃないか。
「違います。俺が、全部間違ってたんです」
 俺は正直に話すことに決めた。もちろん、転生者だとか、ゲームの世界だとか、そんな突拍子もないことは言えない。
「俺、少し……思い違いをしていたみたいで。姉さんが、俺のことなんてどうでもいいんだって、勝手に勘違いして……それで、わざと冷たい態度を取ったりして……本当に、ごめんなさい」
 俺の告白を、エリアーナは黙って聞いていた。そして、俺が話し終えると、彼女はそっと俺の頭を撫でた。
「そうだったのね。……よかった。嫌われていなかったのね」
 その声は、安堵に震えていた。
「当たり前じゃないですか! 俺が、姉さんのこと、嫌いなわけないでしょう!」
 気づけば、俺も涙を流していた。
 その日、俺は一日中姉のそばにいた。久しぶりに、二人で色々な話をした。子供の頃の思い出、学園での出来事、そして、俺がシリウス公爵と婚約したこと。
「まあ、あのアイス・プリンスと……! アレン、すごいわ!」
 姉は目を丸くして驚いていたが、すぐに「でも、あなたが選んだ人なら、きっと素敵な方に違いないわね」と優しく微笑んでくれた。その笑顔は、病にやつれる前と変わらない、太陽のような笑顔だった。
「姉さんは、悪役令嬢なんかじゃなかった……」
 公爵邸に戻る馬車の中、俺はぼんやりと考えていた。
 姉との和解は、俺の中で固く信じてきた「ゲームのシナリオ」という前提を、根底から揺るがす出来事だった。
 姉が悪役令嬢じゃないのなら、ヴァイス家が断罪されるという未来も、そもそも存在しないのではないか?
 だとしたら、シリウスが俺と婚約した理由は? 俺を監視するため、という俺の推測も、的外れだったことになる。
 では、彼の言った「運命の番」という言葉は?
 俺を甘やかすような溺愛も、嫉妬深い独占欲も、フェロモン過敏症の苦しみも……全部、本物だったというのか?
 頭がごちゃごちゃになって、何が真実で何が俺の思い込みなのか、分からなくなってきた。
(もしかして、俺は、何かとてつもなく大きな勘違いをしていたのかもしれない……)
 世界の輪郭が、少しずつ崩れていくような、そんな感覚。
 確固たるものだと思っていた「ゲームのシナリオ」という土台が、足元からガラガラと音を立てて崩れ始めている。
 俺は、この世界の真実について、もう一度向き合わなければならない。そう強く感じていた。
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