地味なβのふりをする僕。ある日助けたのは憧れのαだった。記憶を失った彼は僕にだけ懐き甘えてくるが、その瞳の奥には強すぎる独占欲が宿っていて…

水凪しおん

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番外編 第3話「初めての喧嘩、そして、最高の仲直り」

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 陽向が生まれて、半年が経った頃。
 僕たちは初めて、大きな喧嘩をした。
 原因は、本当に些細なことだった。
 その日、僕は大学時代のサークルの集まりに顔を出すことになっていた。もちろん蓮には、事前に伝えてあった。
 けれど当日になって、蓮が急に「やっぱり、行くな」と言い出したのだ。

「なんで!? 昨日までは、いいって言ってたじゃないか!」

「そのサークルにはアルファの男も来るんだろう。お前をそんなところへ、一人で行かせられるか」

「一人じゃないよ。それに、僕にはもう君という番がいるんだ。他のアルファなんて、目に入るわけないだろ!」

「理屈じゃないんだ。嫌なものは、嫌なんだ」

 蓮の頑なな態度に、僕もだんだん意地になってきてしまった。
 陽向が生まれてから、僕はずっと家にこもりきりだった。
 たまには外に出て、息抜きがしたい。
 その気持ちを、どうして分かってくれないんだろう。

「蓮の、わからずや! もう、知らない!」

 僕はそう叫ぶと、蓮の制止を振り切って家を飛び出した。

 サークルの集まりは楽しかった。
 久しぶりに会う友人たちとの会話は弾んだ。
 けれど、僕の心はずっと晴れなかった。
 蓮と喧嘩してしまったという事実が、重くのしかかってくる。
 僕も、少し言い過ぎたかもしれない。
 蓮が僕のことを心配してくれているのは、分かっているのに。
 早めに会を切り上げて、家に帰ろう。
 そして、ちゃんと謝ろう。
 そう思って、僕は店を出た。

 マンションの部屋にそっと入ると、リビングの明かりは消えていた。
 もう寝てしまったのかな。
 寝室をのぞくと、ベッドの上で蓮が陽向を腕に抱いて眠っていた。
 その光景を見て、僕の胸がきゅっと締め付けられた。
 僕がいない間、二人で待っていてくれたんだ。
 僕がベッドに近づくと、蓮がゆっくりと目を開けた。

「…おかえり、湊」

 その声は、優しかった。

「…ただいま。ごめん、蓮。言い過ぎた」

「いや…。俺の方こそ悪かった。お前の気持ち、考えないで束縛しようとして」

 蓮は体を起こすと、僕の手を優しく取った。

「楽しかったか?」

「…うん。でも、ずっと君のこと、考えてた」

 僕が正直に言うと、蓮はふっと微笑んだ。
 そして僕を自分の隣に座らせると、ぎゅっと抱きしめてくれた。

「俺もだ。お前がいないと、やっぱりダメだ」

 彼の温かい胸の中で、僕は心から安心するのを感じた。
 これが、僕の帰る場所なんだ。

「仲直りの、印に」

 蓮はそう言うと、僕の唇に甘いキスをした。
 その時、僕たちの間ですやすやと眠っていた陽向が、ふにゃりと寝返りをうった。
 僕たちは顔を見合わせて、くすくすと笑った。
 初めての、大きな喧嘩。
 でもそのおかげで、僕たちの絆はまた一つ強くなったような気がする。
 雨降って、地固まる。
 僕たちはこれからもきっと何度も喧嘩をするだろう。
 でもその度に、こうしてちゃんと向き合って仲直りをしていくのだ。
 それが家族というものなんだと思う。
 最高の仲直りの後。
 僕たちは陽向を真ん中に挟んで、川の字になって眠った。
 愛する二人に挟まれて眠る夜。
 これ以上の幸せは、きっとどこにもない。
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