偽りの罪で追放された俺の【緑の手】は伝説級の力だった。不毛の地で運命の番に溺愛され、世界一の穀倉地帯を作って幸せになります

水凪しおん

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第11話「戦わぬ勝利、緑の奇策」

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 アランの軍勢は、僕たちの提供した豊かな食事と酒の前に、完全に戦意を喪失していた。
 兵士たちは、もはやアランの命令を聞くどころか、辺境の領民たちと肩を組んで歌い、笑い合っている。それは、戦場ではなく、まるで盛大な祝宴のようだった。
 アランは、その光景を前に、わなわなと震えていた。プライドも、権威も、全てを踏みにじられた思いだったのだろう。

「き、貴様ら!それでも王国の兵士か!敵の施しを受けるとは、恥を知れ!」

 必死の叫びも、満腹になった兵士たちの耳には届かない。一人の年配の兵士が、アランに向かって言った。

「王子殿下。我々は、もう戦えません。……いや、戦う理由がありません」

「何だと?」

「我々が守るべき民は、王都で飢えに苦しんでいます。しかし、ここには、有り余るほどの食料がある。そして、それを我々に惜しげもなく分け与えてくれる人々がいる。エリアス様は、我々を癒しさえしてくださった。……一体、どちらが我々の『敵』なのですか」

 その言葉は、全ての兵士の思いを代弁していた。彼らは、もうアランのためには戦わない。彼らの忠誠は、今や、この豊かな土地と、慈悲深い『豊穣のオメガ』へと向けられつつあった。

「裏切り者め……!」

 アランは、ついに自ら剣を抜いた。そして、僕に向かって、一直線に突進してきた。

「エリアス!お前さえいなければ!お前が私を惑わすからだ!」

 完全に理性を失っている。その凶刃が僕に届く前に、しかし、アランの体は大きな影によって阻まれた。
 カイだった。
 彼は、アランの剣を、自らが持っていた農作業用の大きなクワで、いとも簡単に受け止めていた。キィン、と甲高い金属音が響き渡る。

「王子殿下ともあろう方が、丸腰の相手に剣を向けるとはな。見下げ果てたものだ」

 カイの低い声には、軽蔑の色が滲んでいた。

「どけ、蛮族め!そいつは私のものだ!」

「エリアスは、物じゃない。俺の、たった一人の番だ。誰にも渡さん」

 力で敵わないと悟ったアランは、今度は情に訴えようとした。

「エリアス!私を覚えているだろう!私たちは、婚約していた仲ではないか!私を捨てて、こんな男を選ぶというのか!」

 その見苦しい叫びに、僕は静かに首を横に振った。

「アラン殿下。私を捨てたのは、貴方の方です。貴方は、私の家柄と見目しか見ていなかった。私の内面も、この力も、何も見ようとはしなかった」

 僕は、カイの隣に並び立ち、真っ直ぐにアランを見つめた。

「今の私には、この人がいます。私を理解し、愛し、守ってくれる人が。そして、私を家族だと言ってくれる、温かい領民たちがいます。ここが、私の還る場所です。王都に、貴方の元に、戻る気は一切ありません」

 僕のきっぱりとした言葉に、アランは絶望に顔を歪ませた。
 その時だった。
 アランの背後から近づいてきた彼自身の側近騎士が、その手に持っていた剣の柄で、アランの首筋を強く打ちつけた。

「ぐっ……!」

 アランは、白目をむいて、その場に崩れ落ちた。

「も、もはや、王子に軍を率いる資格はなし、と判断いたしました」

 騎士は、剣を収め、カイと僕に向かって深々と頭を下げた。

「我々は、降伏いたします。どうか、我々兵士の、王都に残した家族をお救いください。この通りです」

 騎士に続き、全ての兵士たちが、その場で膝をつき、頭を垂れた。彼らは、もはや侵略者ではなく、救済を求める嘆願者となっていた。
 こうして、僕たちの戦いは終わった。
 一滴の血も流れることなく、誰も死ぬことなく、僕たちは勝利したのだ。それは、僕の【緑の手】がもたらした、緑の奇策の勝利だった。
 僕とカイは、兵士たちの願いを聞き入れた。彼らを武装解除させ、捕虜とする代わりに、彼らに食料を分け与え、王都へ帰ることを許可した。

「この食料を、君たちの家族の元へ届けてあげてください。そして、国王陛下に伝えてほしい。北の辺境は、王家と争うつもりはない、と。しかし、我々の平穏を脅かすのなら、今後一切の援助はしない、と」

 僕の言葉に、兵士たちは涙を流して感謝した。
 彼らは、豊かな作物を満載した荷馬車と共に、王都への帰路についた。気絶したアラン王子と、もはや誰も見向きもしなくなったリオルの末路を案じる者は、誰一人いなかった。
 兵士たちが去った後、辺境領は再び静けさを取り戻した。
 領民たちは、僕とカイの元に集まり、歓声を上げた。

「エリアス様、万歳!」

「カイ様、ありがとう!」

 皆が、僕たちの戦わぬ勝利を、心から称えてくれた。僕は、その笑顔の輪の中心で、カイの大きな手を見つめていた。その手は、剣ではなく、民を守り、大地を耕すための手だ。
『この人の隣にいて、本当によかった』
 カイも、僕の視線に気づいたのか、その手で優しく僕の頬を包み込んだ。

「よく頑張ったな、エリアス」

「カイこそ。……怖くなかったですか?」

「お前が隣にいたからな。何も怖くなかった」

 僕たちは、見つめ合い、自然に微笑み合った。
 夕日が、僕たちの勝利を祝福するように、黄金色の小麦畑をきらきらと照らしていた。僕たちの未来も、この小麦畑のように、豊かで、輝かしいものになるだろう。僕には、そんな確信があった。
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