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第12話「君と選ぶ未来」
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王都に帰還した兵士たちがもたらした報告と、辺境からの食料は、王宮に大きな衝撃を与えた。
アラン王子の愚行と、エリアスが持つ真の力の価値。そして、聖オメガとされたリオルの力が、完全な偽りであったこと。全ての真実が、国王の知るところとなった。
アランとリオルの罪は、厳しく断罪された。
アランは王位継承権を剥奪され、国境の修道院へと幽閉された。二度と、表舞台に立つことはないだろう。リオルもまた、王家を欺き、国を危機に陥れた大罪人として、その身分を剥奪され、王都から追放された。彼がその後どうなったのか、知る者はいない。僕を陥れた二人が、その行いに相応しい罰を受けたのだ。僕の心に、不思議と喜びや憎しみの感情は湧いてこなかった。ただ、全てが終わったのだという、静かな安堵があるだけだった。
やがて、国王からの正式な使者が、辺境領を訪れた。
使者は、国王からの謝罪の言葉と共に、僕に王都への帰還を要請してきた。
「エリアス様。国王陛下は、過去の過ちを深く悔いておられます。どうか、王都にお戻りいただき、その偉大なる力で、再びこの国を救ってはいただけないでしょうか。公爵家の地位も、以前以上の待遇でお迎えすることを、お約束いたします」
丁重な言葉だった。それは、かつての僕が喉から手が出るほど欲しかったものかもしれない。名誉の回復。そして、国を救う英雄という称号。
しかし、今の僕の心は、少しも揺れなかった。
僕は、隣に立つカイの手を、ぎゅっと握った。カイも、僕の手を強く握り返してくれる。
「お言葉ですが、お断りいたします」
僕は、使者に向かって、はっきりと告げた。
「私の居場所は、ここです。この土地と、ここに住む人々と、そして……私の番である、この人と共に生きると決めました」
僕の言葉に、使者は残念そうな顔をしたが、無理強いはしなかった。彼も、僕たちの揺るぎない決意を感じ取ったのだろう。
代わりに、僕たちは一つの提案をした。
「今後、辺境領から、王都へ定期的に食料を援助することをお約束します。その代わり、王家は、我々辺境領の完全な自治権を認め、一切の干渉を行わない、と誓約していただきたい」
それは、実質的な独立宣言だった。
使者は、その提案を国王に持ち帰り、後日、国王の名において、我々の要求は全面的に受け入れられた。こうして、北の辺境領は、レオンハルト王国の支配から完全に独立し、豊かな小国「グリューネヴァルト(緑の森)」として、新たな歴史を歩み始めることになった。
僕たちの未来は、僕たち自身の手で選び取ったのだ。
全てが落ち着き、季節は再び巡って、辺境に優しい春が訪れた。
雪解け水がきらきらと輝き、大地には新しい命が芽吹き始める。僕は、この国――グリューネヴァルトの「王の伴侶」として、カイの隣にいた。彼は領主から、小さな国の王になったけれど、やることは今までと何も変わらない。相変わらず民と共に畑を耕し、汗を流している。
僕も、毎日、大地に触れ、緑を育む。それが、僕の喜びであり、僕の生きる道だった。
「エリアス」
畑のそばの大きな樫の木の下で休んでいると、カイが僕の隣に腰を下ろした。彼は、僕の少し膨らみ始めたお腹を、大きな手で優しく撫でる。
「調子はどうだ?」
「ええ、とても。この子も、貴方に撫でられて、喜んでいるようです」
そう。僕のお腹の中には、新しい命が宿っていた。カイと僕の、愛の結晶。この豊かな大地が育んでくれた、大切な宝物だ。
「そうか」
カイは、本当に嬉しそうに、目を細めた。その表情を見ているだけで、僕の心は幸せで満たされていく。
「なあ、エリアス」
「はい、カイ」
「俺は、お前と出会えて、世界で一番の幸せ者だ」
「ふふ、奇遇ですね。私も、貴方と出会えて、世界で一番幸せです」
僕たちは、どちらからともなく、そっと唇を重ねた。
鳥のさえずりが聞こえる。花の甘い香りが、風に乗って運ばれてくる。僕たちの足元では、小さな若葉が、太陽の光に向かって懸命に手を伸ばしている。
追放されたあの日、僕は全てを失ったと思った。
けれど、僕は失ったのではなく、手に入れたのだ。
偽りの地位や名誉ではなく、本当の愛と、かけがえのない居場所を。
僕は、僕の愛する王様の隣で、これからもこの豊かな大地と共に生きていく。生まれてくる子供と、温かい民に囲まれて、穏やかで、幸せな毎日を。
僕の頬を撫でる春の風は、どこまでも優しかった。もう、僕の心に、凍えるような冬が来ることはないだろう。
アラン王子の愚行と、エリアスが持つ真の力の価値。そして、聖オメガとされたリオルの力が、完全な偽りであったこと。全ての真実が、国王の知るところとなった。
アランとリオルの罪は、厳しく断罪された。
アランは王位継承権を剥奪され、国境の修道院へと幽閉された。二度と、表舞台に立つことはないだろう。リオルもまた、王家を欺き、国を危機に陥れた大罪人として、その身分を剥奪され、王都から追放された。彼がその後どうなったのか、知る者はいない。僕を陥れた二人が、その行いに相応しい罰を受けたのだ。僕の心に、不思議と喜びや憎しみの感情は湧いてこなかった。ただ、全てが終わったのだという、静かな安堵があるだけだった。
やがて、国王からの正式な使者が、辺境領を訪れた。
使者は、国王からの謝罪の言葉と共に、僕に王都への帰還を要請してきた。
「エリアス様。国王陛下は、過去の過ちを深く悔いておられます。どうか、王都にお戻りいただき、その偉大なる力で、再びこの国を救ってはいただけないでしょうか。公爵家の地位も、以前以上の待遇でお迎えすることを、お約束いたします」
丁重な言葉だった。それは、かつての僕が喉から手が出るほど欲しかったものかもしれない。名誉の回復。そして、国を救う英雄という称号。
しかし、今の僕の心は、少しも揺れなかった。
僕は、隣に立つカイの手を、ぎゅっと握った。カイも、僕の手を強く握り返してくれる。
「お言葉ですが、お断りいたします」
僕は、使者に向かって、はっきりと告げた。
「私の居場所は、ここです。この土地と、ここに住む人々と、そして……私の番である、この人と共に生きると決めました」
僕の言葉に、使者は残念そうな顔をしたが、無理強いはしなかった。彼も、僕たちの揺るぎない決意を感じ取ったのだろう。
代わりに、僕たちは一つの提案をした。
「今後、辺境領から、王都へ定期的に食料を援助することをお約束します。その代わり、王家は、我々辺境領の完全な自治権を認め、一切の干渉を行わない、と誓約していただきたい」
それは、実質的な独立宣言だった。
使者は、その提案を国王に持ち帰り、後日、国王の名において、我々の要求は全面的に受け入れられた。こうして、北の辺境領は、レオンハルト王国の支配から完全に独立し、豊かな小国「グリューネヴァルト(緑の森)」として、新たな歴史を歩み始めることになった。
僕たちの未来は、僕たち自身の手で選び取ったのだ。
全てが落ち着き、季節は再び巡って、辺境に優しい春が訪れた。
雪解け水がきらきらと輝き、大地には新しい命が芽吹き始める。僕は、この国――グリューネヴァルトの「王の伴侶」として、カイの隣にいた。彼は領主から、小さな国の王になったけれど、やることは今までと何も変わらない。相変わらず民と共に畑を耕し、汗を流している。
僕も、毎日、大地に触れ、緑を育む。それが、僕の喜びであり、僕の生きる道だった。
「エリアス」
畑のそばの大きな樫の木の下で休んでいると、カイが僕の隣に腰を下ろした。彼は、僕の少し膨らみ始めたお腹を、大きな手で優しく撫でる。
「調子はどうだ?」
「ええ、とても。この子も、貴方に撫でられて、喜んでいるようです」
そう。僕のお腹の中には、新しい命が宿っていた。カイと僕の、愛の結晶。この豊かな大地が育んでくれた、大切な宝物だ。
「そうか」
カイは、本当に嬉しそうに、目を細めた。その表情を見ているだけで、僕の心は幸せで満たされていく。
「なあ、エリアス」
「はい、カイ」
「俺は、お前と出会えて、世界で一番の幸せ者だ」
「ふふ、奇遇ですね。私も、貴方と出会えて、世界で一番幸せです」
僕たちは、どちらからともなく、そっと唇を重ねた。
鳥のさえずりが聞こえる。花の甘い香りが、風に乗って運ばれてくる。僕たちの足元では、小さな若葉が、太陽の光に向かって懸命に手を伸ばしている。
追放されたあの日、僕は全てを失ったと思った。
けれど、僕は失ったのではなく、手に入れたのだ。
偽りの地位や名誉ではなく、本当の愛と、かけがえのない居場所を。
僕は、僕の愛する王様の隣で、これからもこの豊かな大地と共に生きていく。生まれてくる子供と、温かい民に囲まれて、穏やかで、幸せな毎日を。
僕の頬を撫でる春の風は、どこまでも優しかった。もう、僕の心に、凍えるような冬が来ることはないだろう。
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