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第7話「弱った魔王と芽生えた感情」
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戦いの疲労が出たのだろう。魔王城に帰還した翌日、ゼノンは高熱を出して倒れた。
永い時を生きる魔王といえども、数万の魔獣を相手に不眠不休で戦い続ければ、その身に大きな負担がかかるのは当然だった。
「魔王様は今、絶対安静です。誰も近づけてはなりません」
側近たちはそう言って、ゼノンの寝室の扉を固く閉ざした。
だが、俺は居ても立ってもいられなかった。昨日の今日で、彼が弱っていると聞いて、黙ってなどいられない。
俺は夜中、皆が寝静まったのを見計らって、こっそりと厨房へ向かった。そして、前世の知識を頼りに、滋養のある野菜をたっぷり使ったスープを作った。
それを盆に乗せて、ゼノンの寝室へと向かう。
扉の前で見張りをしていた衛兵は、俺の姿を見て少し戸惑っていたが、俺が「これを届けたいだけなんです」と静かに言うと、何も言わずに道を開けてくれた。
そっと部屋に入ると、大きな天蓋付きのベッドの上で、ゼノンが苦しそうな息を吐いていた。額には汗が滲み、普段は血色の良い頬も青白い。
俺がベッドサイドに近づくと、彼の瞼がかすかに震え、ゆっくりと開かれた。
「……ユキ?」
掠れた声。赤い瞳は熱で潤み、どこか頼りなげに見える。
「スープを作ってきました。食べられますか?」
俺が問いかけると、ゼノンは小さくうなずいた。
俺は彼の上体をゆっくりと起こしてやり、スプーンでスープをすくって、その口元へと運んだ。ふーふーと息をかけて冷ましてから、そっと差し出す。
ゼノンは、まるで子供のように素直に口を開け、こくりとスープを飲み込んだ。
「……温かい。美味いな」
「よかった」
無心で看病を続けているうちに、ふと気づく。
俺は今、何をやっているんだろう。
相手は魔王だ。世界を支配する、冷酷非情な王のはずだ。それなのに、俺はこうして、彼が心配で、少しでも元気になってほしくて、必死になっている。
もう、認めざるを得なかった。
俺は、ゼノンに惹かれているのだ。
彼の孤独を知ったからか、民を守る王としての姿を見たからか、それとも、ただひたすらに注がれる純粋な愛情に絆されたからか。理由は分からない。
でも、この感情は、もう無視できないほどに大きくなっていた。
スープを飲み干したゼノンは、少しだけ顔色が良くなったように見えた。彼はぼんやりとした瞳で俺を見つめると、そっと俺の手に自分の手を重ねた。
「……ここに、いてくれるか」
弱々しい声で、懇願するように言う。
「一人に、しないでくれ……ユキ」
永い、永い時を、たった一人で生きてきた王の、魂からの叫びのように聞こえた。彼の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。
その涙を見た瞬間、俺の中で何かが決壊した。
罠だとか、策略だとか、そんなものはどうでもよくなった。ただ、目の前で弱っているこの人を、独りにはできない。そう思った。
「はい。ここにいます。どこにも行きませんから」
俺は彼の手を、強く握り返した。
「だから、早く元気になってください、ゼノン」
初めて、敬称をつけずに彼の名を呼んだ。
ゼノンは驚いたように目を見開いた後、至上の宝物を見つけたかのように、幸せそうに微笑んだ。そして、そのまま安心したように、穏やかな寝息を立て始めた。
俺は彼の寝顔を見つめながら、静かに決意を固めていた。
この人が本当に俺の魂の半身だというのなら、俺はもう、その運命から逃げないと。
勇者としての使命がどうとか、世界の平和がどうとか、今は考えられない。
ただ、この人の隣にいたい。
それが、俺の偽らざる本心だった。
永い時を生きる魔王といえども、数万の魔獣を相手に不眠不休で戦い続ければ、その身に大きな負担がかかるのは当然だった。
「魔王様は今、絶対安静です。誰も近づけてはなりません」
側近たちはそう言って、ゼノンの寝室の扉を固く閉ざした。
だが、俺は居ても立ってもいられなかった。昨日の今日で、彼が弱っていると聞いて、黙ってなどいられない。
俺は夜中、皆が寝静まったのを見計らって、こっそりと厨房へ向かった。そして、前世の知識を頼りに、滋養のある野菜をたっぷり使ったスープを作った。
それを盆に乗せて、ゼノンの寝室へと向かう。
扉の前で見張りをしていた衛兵は、俺の姿を見て少し戸惑っていたが、俺が「これを届けたいだけなんです」と静かに言うと、何も言わずに道を開けてくれた。
そっと部屋に入ると、大きな天蓋付きのベッドの上で、ゼノンが苦しそうな息を吐いていた。額には汗が滲み、普段は血色の良い頬も青白い。
俺がベッドサイドに近づくと、彼の瞼がかすかに震え、ゆっくりと開かれた。
「……ユキ?」
掠れた声。赤い瞳は熱で潤み、どこか頼りなげに見える。
「スープを作ってきました。食べられますか?」
俺が問いかけると、ゼノンは小さくうなずいた。
俺は彼の上体をゆっくりと起こしてやり、スプーンでスープをすくって、その口元へと運んだ。ふーふーと息をかけて冷ましてから、そっと差し出す。
ゼノンは、まるで子供のように素直に口を開け、こくりとスープを飲み込んだ。
「……温かい。美味いな」
「よかった」
無心で看病を続けているうちに、ふと気づく。
俺は今、何をやっているんだろう。
相手は魔王だ。世界を支配する、冷酷非情な王のはずだ。それなのに、俺はこうして、彼が心配で、少しでも元気になってほしくて、必死になっている。
もう、認めざるを得なかった。
俺は、ゼノンに惹かれているのだ。
彼の孤独を知ったからか、民を守る王としての姿を見たからか、それとも、ただひたすらに注がれる純粋な愛情に絆されたからか。理由は分からない。
でも、この感情は、もう無視できないほどに大きくなっていた。
スープを飲み干したゼノンは、少しだけ顔色が良くなったように見えた。彼はぼんやりとした瞳で俺を見つめると、そっと俺の手に自分の手を重ねた。
「……ここに、いてくれるか」
弱々しい声で、懇願するように言う。
「一人に、しないでくれ……ユキ」
永い、永い時を、たった一人で生きてきた王の、魂からの叫びのように聞こえた。彼の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。
その涙を見た瞬間、俺の中で何かが決壊した。
罠だとか、策略だとか、そんなものはどうでもよくなった。ただ、目の前で弱っているこの人を、独りにはできない。そう思った。
「はい。ここにいます。どこにも行きませんから」
俺は彼の手を、強く握り返した。
「だから、早く元気になってください、ゼノン」
初めて、敬称をつけずに彼の名を呼んだ。
ゼノンは驚いたように目を見開いた後、至上の宝物を見つけたかのように、幸せそうに微笑んだ。そして、そのまま安心したように、穏やかな寝息を立て始めた。
俺は彼の寝顔を見つめながら、静かに決意を固めていた。
この人が本当に俺の魂の半身だというのなら、俺はもう、その運命から逃げないと。
勇者としての使命がどうとか、世界の平和がどうとか、今は考えられない。
ただ、この人の隣にいたい。
それが、俺の偽らざる本心だった。
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