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第7話「真実を照らす光と断頭台の奇跡」
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カインとリンに下された判決は、あまりにも迅速かつ無慈悲なものだった。偽りの罪状による裁判は形式的に行われただけで、判決は「死刑」。カインの公開処刑は、三日後と決定された。見せしめとして英雄を処刑することで、民衆の反シルヴァニア感情を決定的なものにし、戦争を正当化しようというゲルハルトの策略だった。
地下牢でその知らせを聞いたレオは、怒りに身を震わせた。
「三日後だと……ふざけるな!」
残された時間は、あまりにも少ない。レオは、ゲルハルトの不正を暴く決定的な証拠を手に入れるため、文字通り命がけで奔走した。武器商人ロシュの屋敷から盗み出した帳簿だけでは、皇帝を完全に説得するには弱い。ゲルハルト本人とロシュが直接交わした、取引の瞬間を記録した物証が必要だった。レオは、かつてカインに命を救われたことのある密偵たちに協力を仰ぎ、帝都中を駆けずり回った。
一方、牢獄の中にいたリンも、決して諦めてはいなかった。お腹の小さな命が、彼に絶望している暇を与えてはくれなかったのだ。この子の父親を、罪人として死なせるわけにはいかない。
リンは、牢の番人たちを注意深く観察していた。ほとんどの看守は粗暴で威圧的だったが、一人だけ、ベータの若い看守が、時折苦しそうな表情でこちらを見ていることに気づいた。彼の弟は、かつて戦場で負傷し、シルヴァニアの医療団に命を救われたことがあるのだという。
リンは、その看守が食事を運んできた時、静かに、しかし切実に語りかけた。
「お願いします。この手紙を、ヘンドリック辺境伯に届けてはいただけませんか」
ヘンドリック辺境伯は、帝国の中でも数少ない良識派として知られ、ゲルハルトのやり方に公然と異を唱えている貴族だった。
「馬鹿なことを言うな。見つかれば俺の首が飛ぶ」
看守は一度は突っぱねた。しかし、リンは諦めずに続けた。
「あなたの弟さんの命を救ったのは、私の仲間かもしれません。命に、敵も味方もありません。今、帝都では大きな過ちが起ころうとしています。一人の罪なき男が、権力者の嘘によって殺されようとしているのです。どうか、あなたの良心を信じさせてください」
リンの真摯な瞳と、その言葉の重みに、若い看守は心を揺さぶられた。しばらくの葛藤の末、彼は誰にも見られないよう、固く封をされたリンの手紙をそっと受け取った。手紙には、カインが無実であること、ゲルハルトの陰謀、そして二つの国の和平を願うリンの切なる想いが、美しい文字で綴られていた。
そして、運命の処刑当日。帝都の中央広場は、黒山の人だかりで埋め尽くされていた。かつての英雄の変わり果てた姿を一目見ようと集まった民衆。その表情は、好奇心、怒り、そして悲しみが入り混じっていた。
手枷足枷を嵌められ、広場に引き出されるカイン。やつれてはいたが、その背筋はまっすぐに伸び、蒼い瞳は少しも光を失ってはいなかった。彼は、遥か遠くの牢獄にいるであろう愛する番と子のことを、ただ一心に想っていた。
やがて、カインは断頭台の前に立たされ、無理やり膝をつかされる。冷たい鉄の感触が、首筋にぞっとするような感覚を伝えた。執行人が、巨大な刃を振り上げる。民衆が固唾を飲んで見守る中、ゲルハルトが壇上で満足げな笑みを浮かべていた。
まさに、その刃が振り下ろされようとした、その時だった。
「お待ちください!」
広場に、馬の嘶きと共に、張り裂けんばかりの叫び声が響き渡った。群衆をかき分けるようにして広場へ駆け込んできたのは、髪を振り乱し、息を切らせたレオ・シュタイナーだった。その手には、一つの水晶が固く握られている。
「全ては、宰相ゲルハルト・フォン・ベルクが仕組んだ、卑劣な罠です!」
レオはそう叫ぶと、手に持っていた映像記録用の魔導水晶を高々と掲げた。それは、彼が命がけで手に入れた、ゲルハルトと武器商人ロシュが賄賂の受け渡しをしている現場を記録した、動かぬ証拠だった。
「何をしておる!そやつを捕らえよ!」
ゲルハルトが顔を真っ赤にして衛兵に命じるが、もう遅かった。レオが魔力を込めると、水晶は眩い光を放ち、広場の空中に鮮明な映像を映し出したのだ。
『これでシルヴァニアとの戦争は、あと十年は続くだろう』
『さすがは宰相閣下。これはほんの手付金でございます』
金貨の詰まった袋と、醜い欲望に歪んだゲルハルトの顔が、帝都の空に大写しになる。広場は、水を打ったように静まり返り、やがて、地鳴りのような怒りの声へと変わった。
「俺たちを騙していたのか!」
「戦争を長引かせていたのは宰相だったのか!」
さらに、そのタイミングを見計らったかのように、ヘンドリック辺境伯をはじめとする貴族の一団が、皇帝の観覧席へと詰め寄っていた。
「陛下!我々も、カイン卿の無実を訴えます!これは、リン医師から預かった手紙にございます!」
リンの手紙を読んだ貴族たちが、次々と皇帝に再審を求め、カインの潔白を証言する。
民衆の声、レオの証拠、そして良識派貴族たちの訴え。それらが大きなうねりとなり、広場全体を包み込んだ。
「カイン卿を解放しろ!」
「裏切り者は宰相だ!」
もはや、誰にもこの声は止められない。真実を照らす光が、ゲルハルトの作り上げた巨大な嘘の闇を、完全に打ち破った瞬間だった。
地下牢でその知らせを聞いたレオは、怒りに身を震わせた。
「三日後だと……ふざけるな!」
残された時間は、あまりにも少ない。レオは、ゲルハルトの不正を暴く決定的な証拠を手に入れるため、文字通り命がけで奔走した。武器商人ロシュの屋敷から盗み出した帳簿だけでは、皇帝を完全に説得するには弱い。ゲルハルト本人とロシュが直接交わした、取引の瞬間を記録した物証が必要だった。レオは、かつてカインに命を救われたことのある密偵たちに協力を仰ぎ、帝都中を駆けずり回った。
一方、牢獄の中にいたリンも、決して諦めてはいなかった。お腹の小さな命が、彼に絶望している暇を与えてはくれなかったのだ。この子の父親を、罪人として死なせるわけにはいかない。
リンは、牢の番人たちを注意深く観察していた。ほとんどの看守は粗暴で威圧的だったが、一人だけ、ベータの若い看守が、時折苦しそうな表情でこちらを見ていることに気づいた。彼の弟は、かつて戦場で負傷し、シルヴァニアの医療団に命を救われたことがあるのだという。
リンは、その看守が食事を運んできた時、静かに、しかし切実に語りかけた。
「お願いします。この手紙を、ヘンドリック辺境伯に届けてはいただけませんか」
ヘンドリック辺境伯は、帝国の中でも数少ない良識派として知られ、ゲルハルトのやり方に公然と異を唱えている貴族だった。
「馬鹿なことを言うな。見つかれば俺の首が飛ぶ」
看守は一度は突っぱねた。しかし、リンは諦めずに続けた。
「あなたの弟さんの命を救ったのは、私の仲間かもしれません。命に、敵も味方もありません。今、帝都では大きな過ちが起ころうとしています。一人の罪なき男が、権力者の嘘によって殺されようとしているのです。どうか、あなたの良心を信じさせてください」
リンの真摯な瞳と、その言葉の重みに、若い看守は心を揺さぶられた。しばらくの葛藤の末、彼は誰にも見られないよう、固く封をされたリンの手紙をそっと受け取った。手紙には、カインが無実であること、ゲルハルトの陰謀、そして二つの国の和平を願うリンの切なる想いが、美しい文字で綴られていた。
そして、運命の処刑当日。帝都の中央広場は、黒山の人だかりで埋め尽くされていた。かつての英雄の変わり果てた姿を一目見ようと集まった民衆。その表情は、好奇心、怒り、そして悲しみが入り混じっていた。
手枷足枷を嵌められ、広場に引き出されるカイン。やつれてはいたが、その背筋はまっすぐに伸び、蒼い瞳は少しも光を失ってはいなかった。彼は、遥か遠くの牢獄にいるであろう愛する番と子のことを、ただ一心に想っていた。
やがて、カインは断頭台の前に立たされ、無理やり膝をつかされる。冷たい鉄の感触が、首筋にぞっとするような感覚を伝えた。執行人が、巨大な刃を振り上げる。民衆が固唾を飲んで見守る中、ゲルハルトが壇上で満足げな笑みを浮かべていた。
まさに、その刃が振り下ろされようとした、その時だった。
「お待ちください!」
広場に、馬の嘶きと共に、張り裂けんばかりの叫び声が響き渡った。群衆をかき分けるようにして広場へ駆け込んできたのは、髪を振り乱し、息を切らせたレオ・シュタイナーだった。その手には、一つの水晶が固く握られている。
「全ては、宰相ゲルハルト・フォン・ベルクが仕組んだ、卑劣な罠です!」
レオはそう叫ぶと、手に持っていた映像記録用の魔導水晶を高々と掲げた。それは、彼が命がけで手に入れた、ゲルハルトと武器商人ロシュが賄賂の受け渡しをしている現場を記録した、動かぬ証拠だった。
「何をしておる!そやつを捕らえよ!」
ゲルハルトが顔を真っ赤にして衛兵に命じるが、もう遅かった。レオが魔力を込めると、水晶は眩い光を放ち、広場の空中に鮮明な映像を映し出したのだ。
『これでシルヴァニアとの戦争は、あと十年は続くだろう』
『さすがは宰相閣下。これはほんの手付金でございます』
金貨の詰まった袋と、醜い欲望に歪んだゲルハルトの顔が、帝都の空に大写しになる。広場は、水を打ったように静まり返り、やがて、地鳴りのような怒りの声へと変わった。
「俺たちを騙していたのか!」
「戦争を長引かせていたのは宰相だったのか!」
さらに、そのタイミングを見計らったかのように、ヘンドリック辺境伯をはじめとする貴族の一団が、皇帝の観覧席へと詰め寄っていた。
「陛下!我々も、カイン卿の無実を訴えます!これは、リン医師から預かった手紙にございます!」
リンの手紙を読んだ貴族たちが、次々と皇帝に再審を求め、カインの潔白を証言する。
民衆の声、レオの証拠、そして良識派貴族たちの訴え。それらが大きなうねりとなり、広場全体を包み込んだ。
「カイン卿を解放しろ!」
「裏切り者は宰相だ!」
もはや、誰にもこの声は止められない。真実を照らす光が、ゲルハルトの作り上げた巨大な嘘の闇を、完全に打ち破った瞬間だった。
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