「地味すぎる」と暗殺ギルドをクビになった俺。夢だった喫茶店を開いたら、謎の銀髪美青年に毎日通われ口説かれ、気づけば溺愛される

水凪しおん

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第3話「毎日通う男の目的」

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 クロードはその言葉通り本当に毎日店にやってくるようになった。
 開店を告げるドアベルの音と同時に現れ、決まってカウンターの一番端の席に座る。そして閉店の時間までただ静かに俺がコーヒーを淹れる姿を眺めたり、本棚から抜き出した詩集を読んだりして過ごすのだ。

「今日のブレンドは昨日のものとは少し配合を変えたんだね。酸味の奥にほんのりとした甘みが感じられる。まるで初恋の味のようだ」

「……買いかぶりすぎです。豆の煎り方が少し深くなっただけですよ」

「謙遜するなよ、レン。君の手はまるで魔法使いの手だ。どんな豆も君が淹れると極上の秘薬に変わってしまう」

 クロードは臆面もなくそんな言葉を口にする。そのたびに俺の心臓はどきりとしてどう返事をすればいいのか分からなくなる。人付き合いが極端に苦手な俺にとって彼の存在はあまりに眩しく、そして少しだけ厄介だった。

「レン、君のその静かなところ、とても好みだよ」

 カップを磨いているとふいにそんなことを言われる。視線を上げるとカウンターに頬杖をついたクロードが、熱っぽい紫の瞳で俺をじっと見つめていた。その距離の近さに思わず一歩後ずさる。

「客のいない喫茶店で店主が騒がしい方が問題でしょう」

「それもそうだね。でも君の静けさは特別だ。まるで春の森の奥深くにある湖のよう……誰も知らない秘密をその底に隠しているみたいで暴いてみたくなる」

 その言葉は俺の胸に小さな棘のように刺さった。
 秘密。確かに俺には誰にも言えない秘密がある。元暗殺者だったという血塗られた過去。穏やかな日常を手に入れた今、決して知られてはならないことだ。
 クロードはどこまで分かって言っているのだろうか。彼の軽薄にも見える態度の裏には何か別の目的があるのではないか。そんな疑念が日に日に大きくなっていく。

「クロードさんはいつもお一人なんですか?」

 ある日俺は思い切って尋ねてみた。これだけ見目麗しい男だ。恋人や友人がいてもおかしくない。

「ああ。一人は気楽でいいからね」

 彼はこともなげに答える。

「でも君とこうして過ごす時間は一人でいるのとは少し違うな。心が満たされるようでとても温かい気持ちになるんだ」

「……そうですか」

 結局会話はいつもこうだ。俺が彼のことを探ろうとするといつの間にか巧みにかわされ、逆にこちらの内側に入り込まれてしまう。まるで熟練の剣士と打ち合っているような気分だった。俺は守るだけで精一杯で一太刀も浴びせることができない。

 ただ彼の存在は決して不快なだけではなかった。
 客が一人も来ない静寂の中、一人きりでカウンターの中にいると時々自分がこの世界から消えてしまったようなひどい孤独感に襲われることがあった。そんな時カウンターの端で静かに本を読んでいるクロードの姿が視界に入ると不思議と心が安らいだ。
 彼がそこにいる。それだけでこの「木漏れ日」という空間が確かな現実として俺の前に存在していることを証明してくれているような気がしたのだ。

 きっとただコーヒーが好きなだけだろう。
 俺は自分にそう言い聞かせた。そうだ、そうに違いない。彼は最高のコーヒーを求めてここにたどり着き、そして俺の淹れる一杯を気に入ってくれた。それ以上でもそれ以下でもない。
 あくまで店主と客として適切な距離を保とう。そう心に決めながらも明日彼がどんな言葉をかけてくるのか、ほんの少しだけ期待している自分がいることに俺はまだ気づかないふりをしていた。
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