「地味すぎる」と暗殺ギルドをクビになった俺。夢だった喫茶店を開いたら、謎の銀髪美青年に毎日通われ口説かれ、気づけば溺愛される

水凪しおん

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第6話「見えない守護者」

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 クロードが俺の秘密に気づいている。その事実を突きつけられてからというもの俺は彼に対して以前にも増してぎこちなくなってしまった。しかしクロードの態度は全く変わらない。毎日店にやってきてはコーヒーを絶賛し、時折俺をからかうような甘い言葉を囁いてくる。その変わらなさが逆に俺の心をかき乱した。

 そんなある日の夕暮れ時、店に珍しく酔客がやってきた。大柄な男で見るからに柄が悪い。カウンターにどかりと腰を下ろし安酒をがぶ飲みしては、大声で管を巻き始めた。
 他にお客がいなかったのが不幸中の幸いだ。俺はなるべく刺激しないように黙々とグラスを拭いていた。カウンターの隅ではクロードがいつも通り静かに本を読んでいる。

「おい、店主! なんだその態度は! 客が話してやってるんだぞ!」

 酔客が突然テーブルを拳で叩きつけた。ガシャンと大きな音がしてグラスが揺れる。

「申し訳ありません。何か御用でしょうか」

「なんだその目は! 気に入らねえな!」

 男は椅子から立ち上がると俺の胸ぐらを掴もうと手を伸ばしてきた。その手が俺に触れる寸前、俺は【朧】で気配を消しさっと身をかわした。
 男は掴む相手を見失いたたらを踏んだ。その足元に俺はわざと水の入ったグラスを「うっかり」落とした。

 パリン、とグラスが割れる音。そしてどしんという鈍い音。
 男は水で滑って派手に転び、床に後頭部を強く打ちつけたようだった。一瞬呻き声を上げたがすぐに大きないびきをかき始める。どうやら酔いも手伝ってそのまま眠ってしまったらしい。
 やれやれ、と俺は小さくため息をつき、その酔客を店の外まで引きずっていき壁に寄りかからせておいた。衛兵が巡回に来れば保護してくれるだろう。

 店に戻るとクロードがいつの間にか本を閉じ、感心したような表情で俺を見ていた。

「見事な手際だね、レン。まるで流れる水のようだ」

「……たまたま、彼が自分で転んだだけですよ」

 俺は割れたグラスの破片を片付けながら素知らぬ顔で答えた。

「そうかな? 私の目には君が全てを計算して誰も傷つけずに事を収めたように見えたが」

 図星だった。だが俺はそれを認めるわけにはいかない。

「考えすぎですよ」

 クロードはそれ以上何も言わずただ楽しそうに笑うだけだった。その笑顔が今は少しだけ恐ろしかった。

 数日後、奇妙な噂を耳にした。
 先日俺の店で暴れた酔客。あの男はとある悪徳商会に雇われた用心棒で、この辺りの店に嫌がらせをしては法外な用心棒代を要求する常習犯だったらしい。
 ところがその悪徳商会が数日前に突然解体されたというのだ。理由は長年にわたる脱税の証拠が何者かによって密告されたからだとか。
 それだけではない。先日俺に絡んできたチンピラたちも翌日には王都から姿を消したという。まるで神隠しにでもあったかのように。

「最近なんだか王都の治安が良くなった気がするな」

 カウンターを拭きながら俺はぽつりとつぶやいた。
 すると目の前でコーヒーを飲んでいたクロードが意味深な笑みを浮かべた。

「そうかい? それは良かった。君のような善良な市民が安心して暮らせるのが一番だからね」

 その時俺の脳裏にある可能性がよぎった。
 もしかしてこれも全て彼が?
 俺に害をなそうとした者たちが都合よく消えていく。これは偶然なのだろうか。それともクロードが裏で何かをしているのだろうか。
 もしそうだとしたら彼は俺を守ってくれているということになる。だが一体何のために?

「クロードさん、あなたは……」

 俺が何かを言いかけると彼は人差し指をそっと自分の唇に当てた。

「レン。君は何も知らなくていい。ただ毎日美味しいコーヒーを淹れて穏やかに笑っていてくれれば、それでいいんだ」

 その声はいつもの軽やかさとは違う、静かで有無を言わせぬ響きを持っていた。
 彼の言葉は優しさのようでいて同時に俺を閉じ込める鳥籠のようにも感じられた。
 俺はこの美しい男の手のひらの上で知らず知らずのうちに踊らされているだけなのかもしれない。
 答えの出ない問いを抱えながら俺はただ彼の空になったカップに、黙って新しいコーヒーを注ぐことしかできなかった。
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