「地味すぎる」と暗殺ギルドをクビになった俺。夢だった喫茶店を開いたら、謎の銀髪美青年に毎日通われ口説かれ、気づけば溺愛される

水凪しおん

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第11話「カウンター越しの死闘」

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 戦闘の火蓋はヴォルフの部下の一人が動いたことで切られた。
「やれ!」というヴォルフの号令よりも早く男は短剣を手に俺に襲いかかってくる。狭い店内では大振りの武器は役に立たない。小回りの利く短剣こそがこういう場所での最適解だ。
 だがそれは俺にとっても同じこと。

 俺は迫りくる刃をカウンターの上を滑るように移動してかわした。そのまま身を翻し敵の背後を取る。スキル【朧】は発動していない。だが長年体に染みついた動きはもはやスキルの一部と化している。

「ぐっ……!」

 俺は男の首筋にナイフの柄を叩き込んだ。急所は外してある。男は短い呻き声を上げて床に崩れ落ちた。
 一人目。

「こいつ……!」

 残りの二人が左右から同時に仕掛けてくる。見事な連携だ。だが甘い。
 俺はカウンターの上に置いてあったコーヒーサーバーを右手の男に向かって投げつけた。熱いお湯が入っていたわけではない。ただの目くらましだ。
 男がひるんだ一瞬の隙に俺は左手の男の懐に潜り込む。狙うは鳩尾。肘を的確に叩き込み男の呼吸を一時的に奪った。

「がはっ……!」

 崩れ落ちる男を盾にするようにしてサーバーを避けた男の斬撃を防ぐ。そして盾にした男の体を蹴り飛ばすようにして最後の敵との距離を取った。
 二人目、三人目。

「……ちっ、相変わらず無駄のない動きをしやがる」

 ヴォルフが忌々しげに舌打ちをするのが聞こえた。彼はまだ動かない。俺の体力を削いでからとどめを刺すつもりなのだろう。

 薄暗い店内は俺にとって有利な戦場だった。物陰が多く光が届かない場所も多い。
 俺は息を殺しスキル【朧】を発動させた。
 すう、と俺の気配がその場から完全に消え失せる。

「どこへ消えた!?」

 部下の一人が動揺した声を上げる。ヴォルフも警戒するように視線を巡らせていた。

 俺は音もなくカウンターの内側を移動しヴォルフの背後に迫る。
 だがさすがはギルドマスター。俺が攻撃を仕掛ける寸前、彼は振り向きざまに長剣を薙いだ。危ないところで身をかがめその一撃をかわす。頬を鋭い風圧が撫でていった。

「その地味なスキルは俺には通用せんぞ、レン!」

 ヴォルフは獰猛な笑みを浮かべた。彼は俺の戦い方を熟知している。気配が消えたとしても長年の経験と勘で俺の位置をおおよそ把握できるのだ。
 ここからは純粋な実力勝負になる。
 ヴォルフの剣戟は速くそして重い。派手好みではあるがその実力は伊達ではない。俺はナイフ一本でその猛攻を必死に捌いていく。
 キィンと甲高い金属音が店内に何度も響き渡った。カウンターが、テーブルがヴォルフの剣によって次々と破壊されていく。俺が大切にしていた空間が無惨に切り刻まれていく光景に胸が張り裂けそうだった。

「どうした、レン! 喫茶店ごっこで腕がなまったか!」

 ヴォルフの容赦ない追撃に俺は徐々に追い詰められていく。彼の剣が俺の左腕を浅く切り裂いた。じわりと血が滲み熱い痛みが走る。
 体勢を崩した俺の手にヴォルフの剣が叩きつけられた。
 ガンという鈍い音と共にナイフが手から滑り落ち、床に転がった。

「終わりだ、レン」

 ヴォルフは俺の喉元に剣の切っ先を突きつけた。冷たい鋼の感触が肌に伝わる。
 絶体絶命。
 万策尽きた。
 そう思った瞬間、俺の脳裏にあの穏やかな声がよみがえった。

『本当に困ったことがあったら、これを鳴らして』

 カウンターの隅に置かれた小さな銀のベル。
 俺は最後の力を振り絞り床を転がるようにしてカウンターの内側へ滑り込んだ。

「無駄な足掻きを!」

 ヴォルフが追撃の剣を振り下ろす。
 その刃が俺に届く寸前、俺の指は棚に置かれた銀のベルに触れていた。

 ためらう気持ちはもうなかった。
 俺は強くそのベルを握りしめ、振った。

 チリン――。

 場違いなほど澄んだ音が激しい雨音と破壊音の中に響き渡った。
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