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第16話「国王陛下は心配性」
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「君が弟のクロードが言っていたレン君だね。はじめまして、私はアラン。クロードの兄だ」
ある晴れた日の午後、店のドアベルが鳴り入ってきた人物を見て俺は息を呑んだ。
そこに立っていたのはクロードによく似た、しかし彼よりも少しだけ年上で柔和な雰囲気を持つ銀髪の男性だった。身にまとっている衣服は明らかに王族のそれだ。そしてその隣にはこれまた見覚えのある宰相閣下が控えている。
アラン・フォン・アルフレイム。この国の若き国王その人である。
俺は慌ててカウンターの内側から出て深々と頭を下げようとした。
「も、もったいのうございます、陛下! このような場末の店に……」
「ああ、やめてくれ。今日はただの兄として弟の想い人に会いに来ただけなのだから」
アラン陛下は柔らかな笑みで俺の動きを制した。その物腰は非常に穏やかで威圧感のようなものは全く感じさせない。
「いつもわがままな弟が世話になっているね」
「い、いえ、そんな……」
俺が緊張で固まっていると店の奥からクロードが不機嫌そうな顔で出てきた。彼は店の裏で豆の選別を手伝ってくれていたのだ。
「兄上、何の用です。アポなしで来るとは感心しませんな」
「お前にだけは言われたくない台詞だな、クロード。毎日国務を放り出してここに入り浸っていると聞いているぞ」
アラン陛下はやれやれと肩をすくめた。
「……それで、今日は一体何をしに?」
クロードの問いに陛下はにこりと微笑むとまっすぐに俺を見つめた。
「もちろん君の淹れるコーヒーを飲みに来たんだよ。弟が『天国の味だ』『神々の飲み物だ』と毎日毎日飽きもせず自慢してくるものだからね。一体どれほどのものかと興味があって」
そういうことらしい。俺は緊張で震える手で国王陛下と宰相閣下のために心を込めてコーヒーを淹れた。
二人はカウンター席に座り興味深そうに俺の手元を見つめている。特に国王陛下はクロードと全く同じ好奇心に満ちた紫の瞳で俺を観察していた。兄弟だな、と場違いにもそんなことを思う。
やがて淹れたてのコーヒーを二人の前に差し出す。
アラン陛下はまず香りを楽しみそしてゆっくりと一口、口に含んだ。
その瞬間、陛下の瞳が驚きに見開かれた。
「……これは……」
宰相閣下も同じように驚愕の表情を浮かべている。
「……なるほど。クロードが溺れるわけだ。これは確かに……言葉を失うほどの味だ」
陛下はそう言うととても幸せそうな柔らかな笑みを浮かべた。
「レン君。君は素晴らしい腕を持っているのだね」
その言葉に俺は心の底から安堵した。
クロードは満足げに腕を組んでうなずいている。
「でしょう、兄上。私の見込んだ男です」
「ああ、全くだ。……だが、クロード」
アラン陛下はふと真剣な表情になると弟であるクロードに向き直った。
「君は彼に自分の立場をきちんと話してあるのだろうな? 彼を我々の世界に巻き込むということの意味を、理解しているのか?」
その言葉に店の空気が少しだけ張り詰める。
クロードは兄の真剣な視線をまっすぐに受け止め静かに答えた。
「もちろんです。彼を不幸にするようなことは決してしません。この命に代えても彼を守り抜きます」
その声には微塵の揺らぎもなかった。
アラン陛下はその答えを聞いてふっと息をつくと、再び穏やかな表情に戻った。
「……そうか。君がそこまで言うのなら兄として、そして国王として二人のことを認めよう。……レン君」
陛下は俺に優しく語りかけた。
「弟は昔からああいう性格でね。一度気に入ったものは何が何でも手に入れようとするし独占欲も強い。君には苦労をかけるかもしれない。もし何か困ったことがあったらいつでも私に言ってくれ。兄として君の力になろう」
「もったいないお言葉です」
俺は深々と頭を下げた。
国王陛下は弟のことを本当に心配しているのだ。そしてその弟が選んだ俺のことも同じように気遣ってくれている。
その温かい心遣いがじんわりと胸に染みた。
この優しい国王と彼を支えるクロード。この兄弟がいる限りこの国はきっと安泰なのだろう。
そしてそんな彼らのすぐそばでコーヒーを淹れていられる自分の日常が改めてかけがえのないものに思えた。
国王陛下が帰った後クロードは少しだけ拗ねたように言った。
「レンは私のものだ。兄上にも指一本触れさせん」
その子供のような独占欲に俺は思わず苦笑してしまったのだった。
ある晴れた日の午後、店のドアベルが鳴り入ってきた人物を見て俺は息を呑んだ。
そこに立っていたのはクロードによく似た、しかし彼よりも少しだけ年上で柔和な雰囲気を持つ銀髪の男性だった。身にまとっている衣服は明らかに王族のそれだ。そしてその隣にはこれまた見覚えのある宰相閣下が控えている。
アラン・フォン・アルフレイム。この国の若き国王その人である。
俺は慌ててカウンターの内側から出て深々と頭を下げようとした。
「も、もったいのうございます、陛下! このような場末の店に……」
「ああ、やめてくれ。今日はただの兄として弟の想い人に会いに来ただけなのだから」
アラン陛下は柔らかな笑みで俺の動きを制した。その物腰は非常に穏やかで威圧感のようなものは全く感じさせない。
「いつもわがままな弟が世話になっているね」
「い、いえ、そんな……」
俺が緊張で固まっていると店の奥からクロードが不機嫌そうな顔で出てきた。彼は店の裏で豆の選別を手伝ってくれていたのだ。
「兄上、何の用です。アポなしで来るとは感心しませんな」
「お前にだけは言われたくない台詞だな、クロード。毎日国務を放り出してここに入り浸っていると聞いているぞ」
アラン陛下はやれやれと肩をすくめた。
「……それで、今日は一体何をしに?」
クロードの問いに陛下はにこりと微笑むとまっすぐに俺を見つめた。
「もちろん君の淹れるコーヒーを飲みに来たんだよ。弟が『天国の味だ』『神々の飲み物だ』と毎日毎日飽きもせず自慢してくるものだからね。一体どれほどのものかと興味があって」
そういうことらしい。俺は緊張で震える手で国王陛下と宰相閣下のために心を込めてコーヒーを淹れた。
二人はカウンター席に座り興味深そうに俺の手元を見つめている。特に国王陛下はクロードと全く同じ好奇心に満ちた紫の瞳で俺を観察していた。兄弟だな、と場違いにもそんなことを思う。
やがて淹れたてのコーヒーを二人の前に差し出す。
アラン陛下はまず香りを楽しみそしてゆっくりと一口、口に含んだ。
その瞬間、陛下の瞳が驚きに見開かれた。
「……これは……」
宰相閣下も同じように驚愕の表情を浮かべている。
「……なるほど。クロードが溺れるわけだ。これは確かに……言葉を失うほどの味だ」
陛下はそう言うととても幸せそうな柔らかな笑みを浮かべた。
「レン君。君は素晴らしい腕を持っているのだね」
その言葉に俺は心の底から安堵した。
クロードは満足げに腕を組んでうなずいている。
「でしょう、兄上。私の見込んだ男です」
「ああ、全くだ。……だが、クロード」
アラン陛下はふと真剣な表情になると弟であるクロードに向き直った。
「君は彼に自分の立場をきちんと話してあるのだろうな? 彼を我々の世界に巻き込むということの意味を、理解しているのか?」
その言葉に店の空気が少しだけ張り詰める。
クロードは兄の真剣な視線をまっすぐに受け止め静かに答えた。
「もちろんです。彼を不幸にするようなことは決してしません。この命に代えても彼を守り抜きます」
その声には微塵の揺らぎもなかった。
アラン陛下はその答えを聞いてふっと息をつくと、再び穏やかな表情に戻った。
「……そうか。君がそこまで言うのなら兄として、そして国王として二人のことを認めよう。……レン君」
陛下は俺に優しく語りかけた。
「弟は昔からああいう性格でね。一度気に入ったものは何が何でも手に入れようとするし独占欲も強い。君には苦労をかけるかもしれない。もし何か困ったことがあったらいつでも私に言ってくれ。兄として君の力になろう」
「もったいないお言葉です」
俺は深々と頭を下げた。
国王陛下は弟のことを本当に心配しているのだ。そしてその弟が選んだ俺のことも同じように気遣ってくれている。
その温かい心遣いがじんわりと胸に染みた。
この優しい国王と彼を支えるクロード。この兄弟がいる限りこの国はきっと安泰なのだろう。
そしてそんな彼らのすぐそばでコーヒーを淹れていられる自分の日常が改めてかけがえのないものに思えた。
国王陛下が帰った後クロードは少しだけ拗ねたように言った。
「レンは私のものだ。兄上にも指一本触れさせん」
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