自己肯定感ゼロの駄菓子屋オメガですが、なぜか執着系スパダリαにロックオンされました

水凪しおん

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第7話「夜明けのきなこ棒」

 窓の外が白み始めていた。
 雨はいつの間にか上がり、雀の鳴き声が聞こえる。
 僕は気怠い身体を起こそうとして、腰に回された重い腕に気づいた。

「……ん」

 すぐ隣に、蓮さんの寝顔がある。
 整った顔立ちは眠っていても変わらないが、起きているときのような緊張感はなく、どこか幼く見える。
 昨夜の記憶が蘇り、顔から火が出そうになった。

 結局、朝まで何度も求め合った。
 彼は獣のように激しかったけれど、決して僕を傷つけることはしなかった。
 何度も愛を囁き、キスを落とし、僕が快楽に泣くまで優しく愛してくれた。

『番に、なっちゃったんだ……』

 首筋に触れる。
 そこには彼に噛まれた痕、うなじに残るマーキングの感触があった。
 もう後戻りはできない。僕は西園寺蓮のオメガになったのだ。

 不思議と後悔はなかった。
 むしろ、胸の奥が満たされて、ふわふわと温かい。
 これが、番になるということなのだろうか。

 そっとベッド(というか、居間の布団)を抜け出し、台所へ向かう。
 喉が渇いていた。
 冷蔵庫を開けると、彼が昨日買ってきてくれた水のボトルがある。
 それを飲み干し、ふと店のほうを見た。

 薄暗い店内に、きなこ棒の容器が見える。
 なんとなく一本取り出し、口に運んだ。
 素朴な甘さが広がる。
 いつもの味だ。でも、今日は特別美味しく感じる。

「……一本、俺にもくれないか」

 後ろから声がして、ビクリと肩が跳ねた。
 振り返ると、スウェット姿の蓮さんが柱に寄りかかって立っていた。
 髪は少し乱れ、眠たげな目をしているが、その色気は朝から致死量だ。

「起きたんですか?」

「君がいないから、目が覚めた」

 彼は近づいてくると、後ろから僕を抱きすくめた。
 背中に彼の体温を感じる。

「逃げたのかと思った」

「逃げませんよ。……だって、噛まれたんですから」

「そうだな。もう逃がさない」

 蓮さんは嬉しそうに喉を鳴らし、僕の手からきなこ棒を奪って一口かじった。

「甘いな」

「きなこ棒ですから」

「いや、君との朝が、だ」

 さらりと恥ずかしいことを言う。
 この人は、スパダリでありながら、天然のタラシなのかもしれない。

「ねえ、湊」

「はい」

「店は今日、休みにしろ。腰が痛いだろう」

「えっ、でも……」

「俺が一日中、君を甘やかす日にする。文句あるか?」

 耳元で囁かれ、腰を撫でられる。
 確かに、腰は砕けそうに痛いし、足もガクガクだ。
 何より、この幸せな時間をもう少しだけ味わっていたかった。

「……文句、ありません」

「よし」

 蓮さんは満足げに笑うと、僕を抱き上げた。

「じゃあ、二回戦といくか」

「ええっ!? ちょっと、蓮さん!?」

 抵抗も虚しく、僕は再び寝室へと連れ戻される。
 朝日が差し込む古い駄菓子屋の奥で、僕たちの新しい生活が始まろうとしていた。

 前途多難かもしれない。
 身分差も、世間の目もあるだろう。
 でも、このきなこ棒みたいに甘くて、少し粉っぽいけれど温かい彼となら、きっと大丈夫だと思えた。

 ……まあ、まずはこの絶倫スパダリ様をどうにかしないと、僕の腰が保たないんだけれど。

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