ブラック企業で過労死した俺、チートスキル『神の農具』で辺境開拓していたら、追放された無愛想な元騎士団長の胃袋を掴み溺愛されることに

水凪しおん

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第6話「祭りの夜と、初めての熱」

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 僕たちがこの辺境の地で暮らし始めてから初めての秋が訪れた。
 畑は黄金色の恵みで溢れ木々は赤や黄色に色づき空はどこまでも高く澄み渡っている。
 実りの季節だ。
 近くに小さな村があるのだけれどそこの村人たちともいつの間にか交流が生まれていた。
 僕の作る珍しくて美味しい野菜やカイが分け与える獲物の評判が広まったからだ。
 最初は遠巻きに見ていただけだった彼らも今では気軽に声をかけてくれるし物々交換もするようになった。
 そんなある日村長さんが息を切らして僕たちの小屋にやってきた。

「ミナトさん、カイさん!今年も収穫祭を開くんじゃがぜひお二人にも参加してもらえんかのう!」

 収穫祭。
 それはこの土地の神様に収穫の感謝を捧げ村人みんなでご馳走を囲んで祝う年に一度の大事な祭りなのだという。

「僕たちもいいんですか?」

「もちろんだとも!お二人のおかげで今年の村はいつになく活気づいておる。ぜひ主賓として参加してくだされ!」

 村長さんの熱心な誘いに僕たちは顔を見合わせた。
 カイは少し面倒くさそうな顔をしていたけれど僕が「行きたいな」とつぶやくと仕方ないというように小さくうなずいてくれた。
 祭りの当日僕たちは村人たちから大歓迎を受けた。
 広場の中央には大きな焚火がたかれその周りには村で採れた作物や僕の畑の野菜を使った料理がずらりと並べられている。
 どれも心のこもったご馳走ばかりだ。
 村人たちは僕たちの周りに集まってきては口々にお礼を言ってくれた。

「ミナトさんの野菜のおかげで子供の野菜嫌いが治ったんだよ」

「カイさんが仕留めてくれた猪の肉最高にうまかったぜ!」

 そんな言葉に僕の胸は温かいもので満たされていく。
 ここで暮らすようになって本当によかった。
 やがて陽が落ち祭りはさらに盛り上がりを見せる。
 どこからか楽器の音が聞こえてきて村人たちは輪になって踊り始めた。
 陽気な音楽と楽しそうな笑い声。
 僕も村の女性に手を引かれ見よう見まねで踊りの輪に加わった。
 最初は恥ずかしかったけれど踊っているうちにだんだんと楽しくなってくる。
 ふとカイの方を見ると彼は輪から少し離れた場所で腕を組み僕のことを見ていた。
 その口元がほんの少しだけ笑っているように見えて僕の心臓がとくんと小さく跳ねた。
 踊りで火照った体を冷まそうと僕は村人から果実酒の入った杯を受け取った。
 甘くて口当たりが良くごくごくと飲んでしまう。

「ミナト、飲みすぎるな」

 いつの間にか隣に来ていたカイが僕の手から杯を取り上げた。
 その声はいつもより少しだけ低い気がする。

「えー、いいじゃないですか、今日くらい」

「ダメだ。お前は酒に弱いだろう」

 確かに前世ではお酒はあまり強い方ではなかった。
 でも今日のこの楽しい雰囲気についつい浮かれてしまっていたのだ。
 僕がむくれているとカイはふっと息を吐いて自分の杯を僕に差し出した。

「…少しだけなら」

 その不器用な優しさがなんだか嬉しくて僕はありがたくそれを受け取りちびちびと飲み始めた。
 祭りの喧騒から少し離れたくて僕たちは二人で広場の隅にある切り株に腰を下ろした。
 隣に座るカイの肩が僕の肩に触れるか触れないかの距離にある。
 焚火の熱とお酒のせいか顔がやけに熱い。

「カイさんは、踊らないんですか?」

「俺はいい」

「楽しいのに」

「…お前が楽しそうにしているのを見てる方が、俺はいい」

 ぽつりとつぶやかれた言葉に僕の心臓がまた大きく跳ねた。
 今のそれってどういう意味だろう。
 カイの横顔を見つめる。
 焚火の赤い光に照らされたその表情はいつもよりずっと大人びて見えてなんだか直視できなかった。
 僕たちの間に沈黙が流れる。
 でもそれは気まずいものじゃなくてどこか心地よい温かい沈黙だった。
 日頃の感謝を伝えたかった。
 カイがいてくれたから僕はこの世界でこんなに楽しく穏やかに暮らせている。

「カイさん」

「…なんだ」

「いつも、ありがとうございます」

 僕は精一杯の気持ちを込めて言った。
 そして自分でもどうしてそんなことをしたのか分からない。
 お酒の勢いと高揚した気分のままに僕はカイの頬にそっと唇を寄せた。
 チュッと小さな音がして唇が離れる。
 カイの体がぴしりと固まったのが分かった。
 僕も自分がしてしまったことの重大さに気づいて一気に酔いが醒めていく。

『な、な、何やってるんだ、僕!?』

 顔から火が出そうなくらい熱い。
 慌てて謝ろうと口を開きかけたその時。
 ぐいっと強く腕を引かれた。
 気づいた時には僕はカイの腕の中に閉じ込められていた。
 驚いて顔を上げるとそこには見たことのない表情をしたカイがいた。
 その瞳は暗い炎のようなものを宿してまっすぐに僕を射抜いている。
 それは怒りとは違うもっと激しくて熱い何か。

「…ミナト」

 かすれた声で僕の名前を呼ぶとカイは僕の顎に手を添え顔を近づけてきた。
 そしてさっき僕がしたのとは比べ物にならないくらい深くて熱い口づけを落としてきた。

「ん…!」

 突然のことに頭が真っ白になる。
 カイの唇は少しだけ荒れていてお酒の匂いがした。
 乱暴なようでいてどこか壊れ物を扱うような優しい手つき。
 僕の脳は完全に思考を停止してただ彼のされるがままになっていた。
 長い長いキス。
 唇が離れた時僕たちは二人ともぜいぜいと肩で息をしていた。
 カイは僕を抱きしめる腕にさらに力を込める。
 まるでどこにも行かせないとでも言うように。

「…お前が、先にやったんだからな」

 耳元で囁かれたその声は甘くて少しだけ掠れていて僕の心臓を鷲掴みにした。
 祭りの喧騒も楽器の音ももう僕の耳には届かない。
 僕の世界には僕を強く抱きしめるカイの腕とその熱い吐息だけが存在していた。
 この夜を境に僕たちの関係がもう元には戻れないくらい大きく変わってしまうことを僕はまだ知らなかった。
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