追放された聖騎士は、辺境の森で謎の男に溺愛される~俺を陥れた聖女と王子は、国が滅ぶ寸前になって戻ってこいと言い出したがもう遅い~

水凪しおん

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第4話「悪夢の先にある温もり」

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 穏やかな日々は、しかし、心の奥底に沈殿した澱を完全に消し去ってはくれなかった。
 夜になると、決まって悪夢を見る。

 玉座の間で、俺を蔑む騎士たちの冷たい視線。
 聖女イザベラの、嘲るような笑み。
『罪人め!』という罵声。
 額に叩きつけられる石の、鈍い痛み。

 はっと息をのんで、暗闇の中で身体を起こす。全身は汗でぐっしょりと濡れ、心臓が早鐘のように鳴っていた。また、あの日の夢だ。
「はぁっ、はぁっ……」
 浅い呼吸を繰り返す。現実に戻ってきても、夢の残滓がまとわりついて離れない。絶望と無力感が、暗闇の中から這い出してきて、俺の首を締め付けるようだった。

『俺は、何も悪くない……』

 そう言い聞かせても、一度貼られた罪人のレッテルは、心の深いところに棘のように突き刺さったままだった。
 膝を抱え、息を殺して震えていると、不意に部屋の扉が軋む音を立てて開いた。
 月明かりを背に、カイが立っていた。
「……うるさい」
 低い声で、彼はそう言った。
『ああ、やっぱり迷惑だったんだ』
 悪夢にうなされる声が、彼の眠りを妨げてしまったのだろう。罪悪感で胸が押しつぶされそうになる。
「すまない、起こしてしまっ――」
 謝罪の言葉は、最後まで続かなかった。
 カイが俺のベッドに近づき、無言で隣に腰を下ろしたからだ。そして、何も言わずに、震える俺の身体を大きな腕でぐっと引き寄せた。

「え……?」

 突然のことに、身体が硬直する。
 カイの胸の中に、すっぽりと閉じ込められる形になった。彼の服越しに、がっしりとした体温と、落ち着いた心臓の鼓動が伝わってくる。森の木々や土のような、不思議と安心する匂いがした。
「悪夢か」
 頭の上から、静かな声が降ってくる。
 俺は何も答えられず、ただこくりと頷いた。
 カイはそれ以上何も聞かず、ただ俺の背中を、子供をあやすように、ゆっくりと、優しく叩き始めた。
 一定のリズムで繰り返されるその温かい感触に、強張っていた身体の力が少しずつ抜けていく。

『どうして……』

 カイの行動が理解できなかった。
 彼はいつもぶっきらぼうで、俺と距離を置いているように見えた。それなのに、今、こうして俺を抱きしめ、なだめてくれている。
「眠れるまで、こうしている」
 まるで俺の心を見透かしたかのように、カイがつぶやいた。
「だから、安心しろ」
 その言葉は、どんな慰めよりも、俺の心に深く染み渡った。
 早鐘を打っていた心臓が、次第にカイの鼓動に同調していくように、落ち着きを取り戻していく。彼の腕の中は、驚くほど温かくて、安全な場所に思えた。
 追放されてからずっと、張り詰めていた緊張の糸が、ぷつりと切れる。
 俺はカイの胸に顔を埋め、声を殺して泣いた。悔しさも、悲しさも、孤独も、全部涙になって溢れ出てくるようだった。
 カイは何も言わず、ただ俺が泣き止むまで、ずっと背中をさすり続けてくれた。
 その温もりに包まれているうちに、いつの間にか俺は眠りに落ちていた。

 その夜、久しぶりに悪夢を見なかった。
 朝、目を覚ますと、隣にカイの姿はなかったけれど、彼の温もりだけが、まだ身体に残っているような気がした。
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