追放された聖騎士は、辺境の森で謎の男に溺愛される~俺を陥れた聖女と王子は、国が滅ぶ寸前になって戻ってこいと言い出したがもう遅い~

水凪しおん

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第5話「忘れられた森の歩き方」

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 あの日以来、カイとの間に流れる空気が、少しだけ変わった気がする。
 相変わらず彼は無口だったが、時折こちらに向ける視線に、ほんのわずかながら、温かい色が混じるようになった。俺の方も、彼の前で不必要に身構えることがなくなった。

「リヒト、行くぞ」
 朝食を終えると、カイが立ち上がり、壁に掛けてあった剣を手に取った。
「え、どこへ?」
「森だ。お前も少しは身体を動かさないと、なまる一方だろう」
 確かに、ここに来てからまともに剣を振っていない。騎士としての自分が、どんどん遠くなっていくような感覚があった。カイの提案は、ありがたかった。

 カイの後について、初めて小屋の外を長く歩く。
 忘れられた森は、相変わらず不気味な雰囲気を漂わせていたが、カイと一緒だと思うと、不思議と恐怖は感じなかった。
 彼は、どの薬草にどんな効能があるか、どの木の実が食べられるか、魔物の痕跡の見つけ方などを、淡々と、しかし丁寧に教えてくれた。まるで、それが当たり前のことであるかのように。
 彼の知識は、そこらの学者よりもずっと深かった。この森で、たった一人で生き抜いてきた人間の、知恵と経験の重みが感じられた。

「お前の剣は、どうした」
 しばらく歩いた後、カイが唐突に尋ねてきた。
「……追放される時に、取り上げられた」
 聖騎士団から授けられた、俺の魂とも言える愛剣。それを失った時の喪失感は、今思い出しても胸が痛む。
「そうか」
 カイは短くそう言うと、歩みを止めた。目の前には、蔦に覆われた小さな祠のようなものがあった。
「これを使え」
 カイが祠の扉を開けると、中には一本の剣が静かに安置されていた。
 鞘も柄も漆黒で、何の飾りもない、シンプルな長剣。だが、ひと目見ただけで、それがただの鉄の塊ではないことが分かった。剣そのものが、禍々しいほどの魔力を放っている。

「これは……魔剣か?」
「ああ。昔拾ったものだ。俺には合わん」
 気軽に言うが、こんな強力な魔剣がそう簡単に落ちているはずがない。
「俺には扱えない。こんなものを使えば、心がのまれてしまう」
 俺は反射的に首を振った。聖騎士である自分が、不浄な魔剣を手にすることなど、考えられなかった。
 すると、カイはため息をつき、俺の目の前にずいと剣を突き出した。
「いいから、持て。お前なら、のまれたりはしない」
 有無を言わさぬ、強い口調だった。その黒い瞳が、まっすぐに俺を見つめている。その眼差しに、なぜか逆らうことができなかった。
 恐る恐る、剣の柄に手を伸ばす。
 指が触れた瞬間、脳内に直接、邪悪な声が響き渡った。

『血を……もっと血を寄越せ……!』

 ぞくりと背筋が凍る。しかし、それと同時に、身体の奥底から、自分のものではない、温かい光のような力が湧き上がってくるのを感じた。光が邪悪な声を打ち消し、魔剣の暴走を抑え込んでいく。

「……これが、俺の力?」
 自覚はなかったが、俺の中には、聖なる浄化の力が眠っているらしい。
 カイは、それを見越していたかのように、静かに頷いた。
「その剣は、聖なる力を持つ者が使えば、比類なき力を発揮する。だが、力を持たぬ者が使えば、魂を喰らうただの呪いの武器だ」
 つまり、カイは俺がこの剣の使い手として相応しいか、試したということか。
「今の気分はどうだ」
「……不思議と、しっくりくる」
 あれほど感じていた禍々しさは消え、まるで長年使い込んだ愛剣のように、手に馴染んでいた。
「なら、それがお前の新しい剣だ」
 カイはそう言うと、俺に背を向けて再び歩き始めた。
 俺は手の中の黒い剣をじっと見つめる。失ったものを取り戻すことはできない。だが、ここで新しいものを手に入れることはできるのかもしれない。
 カイがくれた、この新しい力。
 俺は黒い剣を鞘に納め、カイの大きな背中を、少しだけ速い足取りで追いかけた。
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