追放された聖騎士は、辺境の森で謎の男に溺愛される~俺を陥れた聖女と王子は、国が滅ぶ寸前になって戻ってこいと言い出したがもう遅い~

水凪しおん

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第6話「静寂を破る刃」

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 森での生活は、驚くほど平穏だった。
 新しい剣にも少しずつ慣れ、日中はカイと共に森を歩き、狩りをし、身体を鍛えた。夜は、カイが読んでいた古い本を借りて静かに過ごす。時折、悪夢を見ることはあったが、そんな時は決まってカイがそばにいてくれた。
 このまま、ここでカイと二人、静かに暮らしていけたら。
 そんな淡い期待を抱き始めていた。
 だが、その静寂は、ある日突然、破られることになる。

 その日、俺たちは少し遠出して、森の奥にある湖まで来ていた。水晶のように澄んだ湖面が、周囲の木々を鏡のように映している。
 カイが魚を獲っている間、俺は湖畔で火の準備をしていた。
 その時だった。
 背後の茂みが、ガサリと不自然な音を立てた。野生の動物ではない。人間の気配だ。それも、複数。
 俺はとっさに立ち上がり、腰の剣に手をかける。
「カイ!」
 俺の声に、水辺にいたカイが鋭い視線をこちらに向けた。
 ほぼ同時に、茂みの中から数人の黒装束の男たちが姿を現した。その手には、殺意をむき出しにした刃が握られている。

「見つけたぞ、リヒト・アーデルハイト」
 中心に立つ男が、下品な笑みを浮かべて言った。
「アルフォンス王子直々のご命令だ。大人しく我々と来てもらおうか」
 アルフォンス。その名を聞いただけで、腹の底が冷たくなるのを感じた。今さら、俺に何の用だ。
「断ると言ったら?」
「その場合は、力づくで、だ。まあ、死体になっても構わんとのことだがな」
 男たちが、じりじりと距離を詰めてくる。暗殺者。それも、かなりの手練れだ。
 一人、二人ならともかく、この人数を相手にするのは分が悪い。

『どうする……!』

 俺が覚悟を決めて剣を抜こうとした、その瞬間。
「俺の森で、好き勝手はさせん」
 背後から、地を這うような低い声が響いた。
 いつの間にか俺の隣に立っていたカイが、暗殺者たちを冷たい瞳で睨みつけていた。その身体から放たれる威圧感は、森の獣たちすら震え上がらせるほどに、冷たく、そして絶対的だった。
「なんだ、てめえは。そいつの仲間か? なら、まとめて消えろ!」
 暗殺者の一人が、カイに向かって斬りかかった。
 速い。騎士団の精鋭に匹敵するほどの剣速だ。
 だが、カイはそれを、まるで子供の遊びでもあしらうかのように、持っていた黒い剣で軽く受け流した。そして、一瞬の隙も与えず、カウンターの一閃を放つ。

「え……?」

 何が起きたのか、俺にも見えなかった。
 ただ、斬りかかった暗殺者が、悲鳴を上げる間もなくその場に崩れ落ち、黒い霧となって消えていった。
 あまりにも、あっけない幕切れだった。
 残りの暗殺者たちが、恐怖に目を見開いて後ずさる。

「化け物……」

 誰かがそうつぶやいた。
 カイは表情一つ変えず、ゆっくりと剣を構え直す。
「次。まとめてかかってこい。すぐに終わらせてやる」
 その姿は、俺が知っているカイではなかった。静かで、穏やかで、不器用な優しさを持った男ではない。
 それは、全てを蹂躙する、絶対的な捕食者の姿だった。
 カイは暗殺者たちの群れに飛び込むと、文字通り、舞うように剣を振るった。悲鳴と断末魔が森に響き渡る。血しぶきが上がる代わりに、斬られた者から黒い霧が噴き出し、森の闇に吸い込まれていく。
 わずか数分のうちに、あれだけいた暗殺者たちは、一人残らずカイの手によって葬り去られていた。

 静寂が戻った湖畔に、カイと俺だけが残される。
 カイは剣についた何かを振り払うように一閃すると、静かに鞘へと納めた。そして、いつもと変わらない様子で、こちらを振り返る。
「怪我は」
「……ない」
 俺は、彼の圧倒的な力を目の当たりにして、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
 彼は一体、何者なんだ。
 この森で静かに暮らす、ただの狩人などではない。あれは、数多の戦場を潜り抜けてきた者の動きだ。それも、常軌を逸したレベルの。

 俺の戸惑いを読み取ったのか、カイは少しだけ、気まずそうに目を伏せた。
「……話は、後だ。まずは戻るぞ」
 そう言って、俺に背を向けて歩き出す。
 その大きな背中が、今は少しだけ、遠いもののように感じられた。
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