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第10話「共にゆく、と決めた道」
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「帰れ」
俺が葛藤していると、カイが低い声で言い放った。
「リヒトを連れてなど行かせん。こいつは俺の……俺が守ると決めた人間だ」
カイは俺の前に立つようにして、アルフォンスたちから庇ってくれる。その広い背中が、ひどく頼もしかった。
「兄上! 国の一大事なのですぞ!」
「知るか。お前たちが招いたことだ。自分たちで解決しろ」
カイの態度は、氷のように冷たかった。
しかし、アルフォンスは諦めない。
「リヒト! 貴様さえ戻れば、罪は全て帳消しにしてやろう! 騎士団の副団長の地位も返す! だから――」
「黙れ」
地の底から響くような、カイの静かな怒りが、その場を支配した。アルフォンスも、近衛騎士たちも、その殺気にも似た覇気に気圧され、押し黙る。
「お前がこいつから奪ったものを、なかったことになどできると思うな。お前がつけた傷を、地位や名誉で埋められると思うな。二度と、その汚い手でリヒトに触れるな」
カイは、俺のために怒ってくれている。
その事実が、胸に熱く広がる。
「……リヒトの意思を、聞かせてもらおうか」
しばらくして、カイが静かに言った。
彼は俺の方を振り返り、まっすぐに目を見つめてくる。
「お前がどうしたいか、だ。行きたくないのなら、俺がこいつらを追い返す。誰にもお前を連れて行かせはしない。だが、もし……お前が民のために行きたいというのなら、俺はそれを止めない。お前が騎士である誇りを、俺は知っているからだ」
彼の言葉は、どこまでも俺の心を尊重してくれていた。
どうしたいか。
俺は、どうしたい?
あの場所には、戻りたくない。俺を裏切った者たちの顔など、二度と見たくない。
でも、脳裏に浮かぶのは、王都で暮らす人々の笑顔だった。市場で声をかけてくれたおばさん。剣の稽古を見てくれとせがんだ子供たち。彼らが今、瘴気に苦しんでいる。
騎士としての誓いを、ここで捨ててしまっていいのか。
『俺は、逃げているだけじゃないのか』
過去の傷から目を背け、この森の平穏に甘えているだけじゃないのか。
カイという存在を得て、俺は少し強くなれたはずだ。
俯く俺の頭に、カイの大きな手が、ぽん、と置かれた。
「一人で悩むな」
優しい声だった。
「もし、お前が行くと決めるなら、俺も一緒に行く。お前の隣で、俺が戦う。お前を傷つけるものは、王子だろうが聖女だろうが、俺が全て排除する」
だから、何も恐れるな、と。
その言葉に、俺の中で固まっていた何かが、すとんと落ちた。
そうだ。俺はもう、一人じゃない。
俺は顔を上げ、カイの目を見た。そして、力強く頷く。
「……行くよ、カイ」
そして、アルフォンスの方を睨みつけるように向き直った。
「ただし、条件がある。俺は罪人としてではなく、俺の意思で王都へ行く。誰の指図も受けない。そして、この件が解決した暁には、俺を陥れた者たちへの、正当な裁きを要求する」
俺の言葉に、アルフォンスの隣に立つイザベラの肩が、微かに震えた。
「そ、それは……」
口ごもるアルフォンスを、カイが鋭く睨みつける。
「それがのめないのなら、話は終わりだ。このまま国が滅ぶのを、高みの見物とさせてもらう」
「わ、分かった! 約束しよう!」
アルフォンスは、カイの圧力に屈するように、必死の形相で頷いた。
こうして、俺は王都へ戻ることが決まった。
アルフォンスたちが先に帰った後、俺たちは旅の支度を始めた。
「……本当に、いいのか」
カイが、心配そうに尋ねてくる。
「ああ。あんたが、一緒にいてくれるんだろう?」
俺が微笑むと、カイは少しだけ驚いたような顔をして、それから、ふっと口元を緩めた。彼が笑ったのを、初めて見たかもしれない。
「当たり前だ。お前は俺の……番なんだからな」
この世界のいくつかの種族――特に聖獣や竜種などが持つとされる、魂で結ばれた唯一無二の伴侶。それを意味する言葉だった。
当然のように言われ、今度は俺が顔を赤らめる番だった。
「つ、番って……!」
「違うのか?」
悪戯っぽく笑うカイに、何も言い返せない。
失ったものを取り戻しに行くんじゃない。過去を清算しにいくんだ。
そして、この手で、カイと共に新しい未来を掴むために。
俺は腰の黒い剣の柄を、強く握りしめた。
始まりの場所であるこの森の小屋に、必ず二人で帰ってくる。そう、心に誓って。
***
その頃、王都では。
アルフォンスからの報告を受けた国王は、苦渋の表情で玉座に座っていた。
「……カインが、生きていたか」
「はい、父上。しかも、あの罪人リヒトと共に……」
「アルフォンスよ。どちらが真の罪人か、もうお前にも分かっていよう」
国王の鋭い指摘に、アルフォンスは顔を青ざめさせる。
「イザベラ様の聖なる力は、確かに国を覆う瘴気を和らげてはくれます。ですが、祓うには至らない。むしろ、瘴気は日増しに濃くなっている。まるで、彼女の力が、瘴気を呼び寄せているかのようだ」
国王の側近である宰相が、懸念を口にする。
「リヒト・アーデルハイト。彼の一族に伝わるという浄化の力だけが、我らの希望。彼らが王都に着くまでに、国が持ちこたえればよいが……」
玉座の間を、重く、暗い空気が支配していた。
偽りの聖女がもたらした災厄は、王国の根幹を、静かに、しかし確実に蝕み続けていた。
俺が葛藤していると、カイが低い声で言い放った。
「リヒトを連れてなど行かせん。こいつは俺の……俺が守ると決めた人間だ」
カイは俺の前に立つようにして、アルフォンスたちから庇ってくれる。その広い背中が、ひどく頼もしかった。
「兄上! 国の一大事なのですぞ!」
「知るか。お前たちが招いたことだ。自分たちで解決しろ」
カイの態度は、氷のように冷たかった。
しかし、アルフォンスは諦めない。
「リヒト! 貴様さえ戻れば、罪は全て帳消しにしてやろう! 騎士団の副団長の地位も返す! だから――」
「黙れ」
地の底から響くような、カイの静かな怒りが、その場を支配した。アルフォンスも、近衛騎士たちも、その殺気にも似た覇気に気圧され、押し黙る。
「お前がこいつから奪ったものを、なかったことになどできると思うな。お前がつけた傷を、地位や名誉で埋められると思うな。二度と、その汚い手でリヒトに触れるな」
カイは、俺のために怒ってくれている。
その事実が、胸に熱く広がる。
「……リヒトの意思を、聞かせてもらおうか」
しばらくして、カイが静かに言った。
彼は俺の方を振り返り、まっすぐに目を見つめてくる。
「お前がどうしたいか、だ。行きたくないのなら、俺がこいつらを追い返す。誰にもお前を連れて行かせはしない。だが、もし……お前が民のために行きたいというのなら、俺はそれを止めない。お前が騎士である誇りを、俺は知っているからだ」
彼の言葉は、どこまでも俺の心を尊重してくれていた。
どうしたいか。
俺は、どうしたい?
あの場所には、戻りたくない。俺を裏切った者たちの顔など、二度と見たくない。
でも、脳裏に浮かぶのは、王都で暮らす人々の笑顔だった。市場で声をかけてくれたおばさん。剣の稽古を見てくれとせがんだ子供たち。彼らが今、瘴気に苦しんでいる。
騎士としての誓いを、ここで捨ててしまっていいのか。
『俺は、逃げているだけじゃないのか』
過去の傷から目を背け、この森の平穏に甘えているだけじゃないのか。
カイという存在を得て、俺は少し強くなれたはずだ。
俯く俺の頭に、カイの大きな手が、ぽん、と置かれた。
「一人で悩むな」
優しい声だった。
「もし、お前が行くと決めるなら、俺も一緒に行く。お前の隣で、俺が戦う。お前を傷つけるものは、王子だろうが聖女だろうが、俺が全て排除する」
だから、何も恐れるな、と。
その言葉に、俺の中で固まっていた何かが、すとんと落ちた。
そうだ。俺はもう、一人じゃない。
俺は顔を上げ、カイの目を見た。そして、力強く頷く。
「……行くよ、カイ」
そして、アルフォンスの方を睨みつけるように向き直った。
「ただし、条件がある。俺は罪人としてではなく、俺の意思で王都へ行く。誰の指図も受けない。そして、この件が解決した暁には、俺を陥れた者たちへの、正当な裁きを要求する」
俺の言葉に、アルフォンスの隣に立つイザベラの肩が、微かに震えた。
「そ、それは……」
口ごもるアルフォンスを、カイが鋭く睨みつける。
「それがのめないのなら、話は終わりだ。このまま国が滅ぶのを、高みの見物とさせてもらう」
「わ、分かった! 約束しよう!」
アルフォンスは、カイの圧力に屈するように、必死の形相で頷いた。
こうして、俺は王都へ戻ることが決まった。
アルフォンスたちが先に帰った後、俺たちは旅の支度を始めた。
「……本当に、いいのか」
カイが、心配そうに尋ねてくる。
「ああ。あんたが、一緒にいてくれるんだろう?」
俺が微笑むと、カイは少しだけ驚いたような顔をして、それから、ふっと口元を緩めた。彼が笑ったのを、初めて見たかもしれない。
「当たり前だ。お前は俺の……番なんだからな」
この世界のいくつかの種族――特に聖獣や竜種などが持つとされる、魂で結ばれた唯一無二の伴侶。それを意味する言葉だった。
当然のように言われ、今度は俺が顔を赤らめる番だった。
「つ、番って……!」
「違うのか?」
悪戯っぽく笑うカイに、何も言い返せない。
失ったものを取り戻しに行くんじゃない。過去を清算しにいくんだ。
そして、この手で、カイと共に新しい未来を掴むために。
俺は腰の黒い剣の柄を、強く握りしめた。
始まりの場所であるこの森の小屋に、必ず二人で帰ってくる。そう、心に誓って。
***
その頃、王都では。
アルフォンスからの報告を受けた国王は、苦渋の表情で玉座に座っていた。
「……カインが、生きていたか」
「はい、父上。しかも、あの罪人リヒトと共に……」
「アルフォンスよ。どちらが真の罪人か、もうお前にも分かっていよう」
国王の鋭い指摘に、アルフォンスは顔を青ざめさせる。
「イザベラ様の聖なる力は、確かに国を覆う瘴気を和らげてはくれます。ですが、祓うには至らない。むしろ、瘴気は日増しに濃くなっている。まるで、彼女の力が、瘴気を呼び寄せているかのようだ」
国王の側近である宰相が、懸念を口にする。
「リヒト・アーデルハイト。彼の一族に伝わるという浄化の力だけが、我らの希望。彼らが王都に着くまでに、国が持ちこたえればよいが……」
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