追放された聖騎士は、辺境の森で謎の男に溺愛される~俺を陥れた聖女と王子は、国が滅ぶ寸前になって戻ってこいと言い出したがもう遅い~

水凪しおん

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第9話「王子の来訪と暴かれる真実」

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 翌朝、俺が目を覚ました時、隣にカイの姿はなかった。
 けれど、身体に残る心地よい疲労感と、シーツに残された彼の匂いが、昨夜の出来事が夢ではなかったことを告げていた。
 身体を起こすと、全身の節々が甘く痛んだ。特に腰のあたりは、気だるさが抜けきらない。
 昨夜の情事を思い出し、顔に熱が集まる。

『俺は、カイと……』

 ただの同居人では、なくなった。それ以上の、特別な関係に。
 その事実が、くすぐったいような、嬉しいような、複雑な気持ちを胸に広げる。
 着替えを済ませて部屋を出ると、カイが台所でスープを温めていた。その背中に、何と声をかければいいのか分からない。

「……おはよう」
「ああ、おはよう」

 振り返ったカイの顔は、いつもと変わらない無表情だった。けれど、その耳がほんのり赤いことに気づき、俺の心臓が小さく跳ねる。彼も、意識している。
 気まずさと嬉しさが入り混じった、奇妙な朝食の時間。
 それでも、昨日までとは明らかに違う、甘い空気が俺たちの間に流れていた。

 その穏やかな時間を壊したのは、唐突な訪問者だった。
 小屋の扉が、乱暴に叩かれる。
 俺とカイは顔を見合わせ、同時に立ち上がった。カイが腰の剣に手をやり、俺もいつでも動けるように身構える。
「誰だ」
 カイの低い声に、扉の外から聞き覚えのある、傲慢な声が返ってきた。
「開けろ! 私だ、第二王子アルフォンスだ!」

 アルフォンス。
 その名を聞いただけで、血の気が引いた。なぜ、彼がここに。
 カイが俺を制するように手で示すと、静かに扉を開けた。
 そこには、数人の近衛騎士を連れたアルフォンスが、不機嫌そうな顔で立っていた。その隣には、純白のドレスをまとった聖女イザベラの姿もある。
 彼女は俺の姿を認めると、一瞬だけ憎悪に顔を歪ませたが、すぐに悲しげな聖女の仮面を被り直した。

「リヒト・アーデルハイト! 貴様、こんな場所で生きていたとはな。しぶとい奴め」
 アルフォンスが、俺を蔑むように吐き捨てる。
「……何の御用でしょうか、王子」
 俺は感情を押し殺し、冷静に尋ねた。
「決まっているだろう。王都に戻るのだ。貴様の力が必要になった」
 あまりに身勝手な言葉に、怒りを通り越して呆れてしまう。
「お断りします。俺は追放された罪人です。お忘れですか」
「口答えをするな! これは王命だ!」
 アルフォンスが声を荒らげた、その時。

「その王命とやらは、陛下直々のものか? それとも、ただのあんたのわがままか、アルフォンス」

 静かだが、有無を言わさぬ威圧感を込めた声で、カイが言った。
 アルフォンスは、今までカイのことなど目に入っていなかったかのように、初めて彼に視線を向けた。そして、カイの顔をまじまじと見つめ、驚愕に目を見開いた。
「なっ……貴様、は……まさか……兄上……?」
 アルフォンスの言葉が理解できず、俺はカイとアルフォンスの顔を交互に見た。
 イザベラも信じられないという表情で、カイを見つめている。

 カイは、ふ、と自嘲するように笑うと、アルフォンスに向かって一歩、踏み出した。
「久しぶりだな、愚かな弟よ。王位継承権を放棄して国を出た俺を、もう忘れたかと思ったぞ」
 その言葉に、雷に打たれたような衝撃が走った。
 王位継承権。弟。兄上。
 目の前の、ぶっきらぼうで、不器用で、けれど誰より優しい男。
 カイの正体。
 それは――数年前に王宮の権力争いを嫌い、忽然と姿を消したとされていた、第一王子。
 カイン・フォン・エルグランド。

「なぜ……兄上が、こんな場所に……」
 呆然とつぶやくアルフォンスに、カイは冷たい視線を投げかける。
「お前のような愚か者に国を任せておけんと、様子を窺っていただけだ。案の定、聖女の言いなりになって国を傾かせるとはな」
「なっ……!」
 図星を突かれ、アルフォンスは言葉に詰まる。
 カイはそんな彼に見向きもせず、俺の方を振り返った。その瞳には、申し訳なさそうな色が浮かんでいた。
「……すまない、リヒト。黙っていた」
「カイ……いや、カイン殿下……」
「カイでいい。お前にとっては、ただのカイだ」
 彼はそう言うと、俺の肩にぽん、と手を置いた。その温かさは、いつもと何も変わらなかった。
 けれど、俺の頭は混乱していた。
 彼が、王子。
 では、俺たちの関係は、一体……。
 そんな俺の葛藤をよそに、アルフォンスが再び叫んだ。
「どちらでもいい! とにかく、リヒト! 貴様を連れて帰る! 貴様の一族に伝わる浄化の力がなければ、国が滅ぶのだ!」
 浄化の力。そういえば、カイもそんなことを言っていた。
「今さら、そんな勝手な……」
 俺が反論しようとすると、イザベラがアルフォンスの腕にすがりつき、涙ながらに訴えた。
「リヒト様、お願いです! 私の力だけでは、国を覆う瘴気を祓いきれないのです! どうか、この通り……!」
 そのわざとらしい演技に、吐き気がした。
 全ての元凶であるお前が、どの口で言うのか。
 俺が王都へ戻る義理など、どこにもない。
 だが――民に、罪はない。
 瘴気が国を覆っているというのなら、苦しんでいるのは罪のない人々だ。
 かつて騎士として、彼らを守ると誓った自分を、裏切ることになる。
 行きたくない。でも、行かなければ。
 二つの感情が、俺の中で激しくぶつかり合っていた。
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