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第13話「永遠の印と陽だまりの番」
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深い死の淵からルカが意識を取り戻したその夜から、ヴィオの屋敷はこれまでとは全く違う空気に包まれるようになった。
ルカの体温が以前の健康的な熱を取り戻すまでには数日を要したが、その間、ヴィオは特務機関の任務を全て部下に任せ、文字通りルカのベッドのそばから一歩も離れようとしなかった。食事を摂らせるのも、薬湯を飲ませるのも、全てヴィオ自身の手で行われた。その様子は、かつての冷酷なエリート官僚の姿を知る者からすれば、目を疑うような光景だった。
***
そして、ルカの体調がすっかり回復した、ある晴れた冬の午後のことだ。
屋敷の南側に位置するサンルームには、雲の隙間から差し込む柔らかい日差しがたっぷりと注ぎ込んでいた。室内の温度は心地よく、外で吹き荒れる寒風の音さえも、分厚いガラスの向こう側の遠い出来事のように感じられる。
ルカは長椅子に深く腰掛け、その上にヴィオが覆い被さるようにして体重を預けていた。ヴィオの銀色の長い髪がルカの胸元に散らばり、太陽の光を受けてキラキラと輝いている。ルカはヴィオの背中に腕を回し、その滑らかな筋肉の起伏を指先でゆっくりと辿っていた。
「ヴィオさん、もうすっかりお仕事はいいんですか? なんだか最近、ずっと一緒ですね」
ルカののんびりとした問いかけに、ヴィオはルカの首筋に顔を埋めたまま、低くくぐもった声で答えた。
「俺がいないと、お前がまた勝手に冷たくなるかもしれないだろう。それに、俺はお前の抱き枕の雇用主だ。所有物を常に視界に入れておくのは当然の権利だ」
相変わらずの毒舌だが、その声には以前のような棘はなく、むしろルカの温もりを一時も手放したくないという深い安堵と甘えが滲み出ていた。ヴィオの身体から微かに香るアルファのフェロモンも、かつての氷と刃のような鋭さは消え失せ、ルカの甘い干し草の匂いを優しく包み込むような、穏やかで静謐な冷気を漂わせている。
「ふふっ、僕はもう大丈夫ですよ。それに、ヴィオさんもすっかり温かくなりましたしね」
ルカは微笑みながら、ヴィオの頬を両手で包み込んだ。確かに、以前は極度の冷え性で氷のように冷たかったヴィオの肌は、今ではルカの高い体温に常時触れているおかげで、人間らしい心地よい微熱を帯びるようになっていた。
ヴィオはゆっくりと顔を上げ、ルカの瞳を真っすぐに見つめた。その金の瞳には、これまでに見せたことのないほどの真剣な光が宿っていた。
「ルカ。俺はあの日、お前が俺の中で冷たくなっていくのを感じた時……自分の命などどうでもいいと本気で思った。俺にとって、この世界でお前の熱以外に価値のあるものなど何一つない」
ヴィオの長い指が、ルカの首筋の柔らかな肌をなぞる。そこは、オメガにとって最も敏感で、そして番の印を刻まれるための神聖な場所だ。ヴィオの指先の感触に、ルカの身体がわずかに震え、甘い干し草のフェロモンが無意識のうちに濃密に溢れ出した。
「お前は無防備で、無神経で、ただの温かい毛玉だ。だが……俺の半身だ。誰にも渡さないし、二度と俺のそばから離れることは許さない」
ヴィオの言葉は傲慢で自分勝手だったが、ルカの胸の奥を激しく締め付けた。孤独に耐え続け、冷たい世界で戦い続けてきたこの不器用なアルファが、今、自分という存在に完全に依存し、魂の底から必要としてくれている。それがどれほど嬉しく、愛おしいことか。
「はい。僕はずっと、ヴィオさんの抱き枕でいますよ。だから……」
ルカは自ら首を少し傾け、ヴィオの前にその無防備なうなじを差し出した。
「僕を、ヴィオさんのものにしてください」
その言葉が引き金となった。ヴィオの金の瞳がアルファの本能で細められ、鋭い牙が微かに覗く。ヴィオはルカの肩を強く掴むと、その柔らかなうなじに深く顔を沈め、躊躇うことなく鋭い牙を立てた。
「ひぅっ……」
ルカの口から小さく甘い声が漏れる。鋭い痛みと同時に、ヴィオのアルファとしての強烈なフェロモンがルカの体内に直接流れ込んでくる。それはルカの魂の奥深くまで浸透し、二人の存在を不可分の一つのものとして焼き付けていくような、圧倒的で濃密な感覚だった。ルカの干し草の匂いと、ヴィオの静かな氷の匂いが完全に溶け合い、新しい、完璧な調和の香りがサンルームを満たしていく。
ヴィオはルカのうなじからゆっくりと唇を離し、刻まれたばかりの赤い番の印を満足げになぞった。その印は、彼らが永遠に結ばれたことの絶対的な証だった。
「……これで、お前は本当に俺のものだ。文句は言わせない」
「文句なんて言いませんよ。だって、これでずっと一緒に温め合えますからね」
ルカは涙ぐんだ瞳で微笑み、ヴィオを力の限り抱きしめ返した。互いの心音と体温が、皮膚越しに完全に同期していくのを感じる。
かつて氷のようだったヴィオの屋敷は、今や陽だまりのような温かさに包まれていた。冬の寒さはまだ外の世界を支配しているが、二人の間にある共依存という名の深い絆と熱は、どんな猛吹雪であっても決して冷ますことはできない。永遠に交わり続ける体温とフェロモンの中で、彼らはただ静かに、絶対的な幸福に満たされていた。
ルカの体温が以前の健康的な熱を取り戻すまでには数日を要したが、その間、ヴィオは特務機関の任務を全て部下に任せ、文字通りルカのベッドのそばから一歩も離れようとしなかった。食事を摂らせるのも、薬湯を飲ませるのも、全てヴィオ自身の手で行われた。その様子は、かつての冷酷なエリート官僚の姿を知る者からすれば、目を疑うような光景だった。
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そして、ルカの体調がすっかり回復した、ある晴れた冬の午後のことだ。
屋敷の南側に位置するサンルームには、雲の隙間から差し込む柔らかい日差しがたっぷりと注ぎ込んでいた。室内の温度は心地よく、外で吹き荒れる寒風の音さえも、分厚いガラスの向こう側の遠い出来事のように感じられる。
ルカは長椅子に深く腰掛け、その上にヴィオが覆い被さるようにして体重を預けていた。ヴィオの銀色の長い髪がルカの胸元に散らばり、太陽の光を受けてキラキラと輝いている。ルカはヴィオの背中に腕を回し、その滑らかな筋肉の起伏を指先でゆっくりと辿っていた。
「ヴィオさん、もうすっかりお仕事はいいんですか? なんだか最近、ずっと一緒ですね」
ルカののんびりとした問いかけに、ヴィオはルカの首筋に顔を埋めたまま、低くくぐもった声で答えた。
「俺がいないと、お前がまた勝手に冷たくなるかもしれないだろう。それに、俺はお前の抱き枕の雇用主だ。所有物を常に視界に入れておくのは当然の権利だ」
相変わらずの毒舌だが、その声には以前のような棘はなく、むしろルカの温もりを一時も手放したくないという深い安堵と甘えが滲み出ていた。ヴィオの身体から微かに香るアルファのフェロモンも、かつての氷と刃のような鋭さは消え失せ、ルカの甘い干し草の匂いを優しく包み込むような、穏やかで静謐な冷気を漂わせている。
「ふふっ、僕はもう大丈夫ですよ。それに、ヴィオさんもすっかり温かくなりましたしね」
ルカは微笑みながら、ヴィオの頬を両手で包み込んだ。確かに、以前は極度の冷え性で氷のように冷たかったヴィオの肌は、今ではルカの高い体温に常時触れているおかげで、人間らしい心地よい微熱を帯びるようになっていた。
ヴィオはゆっくりと顔を上げ、ルカの瞳を真っすぐに見つめた。その金の瞳には、これまでに見せたことのないほどの真剣な光が宿っていた。
「ルカ。俺はあの日、お前が俺の中で冷たくなっていくのを感じた時……自分の命などどうでもいいと本気で思った。俺にとって、この世界でお前の熱以外に価値のあるものなど何一つない」
ヴィオの長い指が、ルカの首筋の柔らかな肌をなぞる。そこは、オメガにとって最も敏感で、そして番の印を刻まれるための神聖な場所だ。ヴィオの指先の感触に、ルカの身体がわずかに震え、甘い干し草のフェロモンが無意識のうちに濃密に溢れ出した。
「お前は無防備で、無神経で、ただの温かい毛玉だ。だが……俺の半身だ。誰にも渡さないし、二度と俺のそばから離れることは許さない」
ヴィオの言葉は傲慢で自分勝手だったが、ルカの胸の奥を激しく締め付けた。孤独に耐え続け、冷たい世界で戦い続けてきたこの不器用なアルファが、今、自分という存在に完全に依存し、魂の底から必要としてくれている。それがどれほど嬉しく、愛おしいことか。
「はい。僕はずっと、ヴィオさんの抱き枕でいますよ。だから……」
ルカは自ら首を少し傾け、ヴィオの前にその無防備なうなじを差し出した。
「僕を、ヴィオさんのものにしてください」
その言葉が引き金となった。ヴィオの金の瞳がアルファの本能で細められ、鋭い牙が微かに覗く。ヴィオはルカの肩を強く掴むと、その柔らかなうなじに深く顔を沈め、躊躇うことなく鋭い牙を立てた。
「ひぅっ……」
ルカの口から小さく甘い声が漏れる。鋭い痛みと同時に、ヴィオのアルファとしての強烈なフェロモンがルカの体内に直接流れ込んでくる。それはルカの魂の奥深くまで浸透し、二人の存在を不可分の一つのものとして焼き付けていくような、圧倒的で濃密な感覚だった。ルカの干し草の匂いと、ヴィオの静かな氷の匂いが完全に溶け合い、新しい、完璧な調和の香りがサンルームを満たしていく。
ヴィオはルカのうなじからゆっくりと唇を離し、刻まれたばかりの赤い番の印を満足げになぞった。その印は、彼らが永遠に結ばれたことの絶対的な証だった。
「……これで、お前は本当に俺のものだ。文句は言わせない」
「文句なんて言いませんよ。だって、これでずっと一緒に温め合えますからね」
ルカは涙ぐんだ瞳で微笑み、ヴィオを力の限り抱きしめ返した。互いの心音と体温が、皮膚越しに完全に同期していくのを感じる。
かつて氷のようだったヴィオの屋敷は、今や陽だまりのような温かさに包まれていた。冬の寒さはまだ外の世界を支配しているが、二人の間にある共依存という名の深い絆と熱は、どんな猛吹雪であっても決して冷ますことはできない。永遠に交わり続ける体温とフェロモンの中で、彼らはただ静かに、絶対的な幸福に満たされていた。
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