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番外編「春の訪れと小さな嫉妬」
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王都に厳しい冬が終わりを告げ、ようやく暖かな春の兆しが見え始めた頃。
ヴィオの屋敷の中庭は、ルカの手によってすっかり生まれ変わっていた。かつては寒々しかった温室の跡地には色とりどりの春の花が咲き乱れ、甘い花の香りが風に乗って屋敷の中まで漂ってくるようになった。
その日の午後、ルカは庭師の青年と一緒に、新しく植える苗の配置について楽しそうに話し合っていた。カピバラ獣人であるルカは、持ち前の温厚さと人懐っこさで、屋敷の使用人たちから完全に奥様として慕われ、愛されている。ルカの周りには常に穏やかな空気が流れ、彼の放つ甘い干し草のフェロモンは、ヴィオのマーキングによって複雑で深みのある匂いに変化していたが、それでも周囲に安心感を与える力は健在だった。
「ルカ様、この青い花は日陰の方が育ちやすいそうです。こちらへ植えましょうか」
「本当ですか。じゃあ、そっちの木の陰にお願いします。わあ、咲くのが楽しみですね」
ルカが庭師に向かって無邪気に微笑んだ、その時だった。
二人の背後から、中庭の空気を一瞬にして凍りつかせるような、鋭く冷たい気配が急接近してきた。
「……楽しそうだな、ルカ」
地を這うような低い声に、庭師の青年はびくっと肩を震わせて直立不動の姿勢をとった。振り返ると、そこには特務機関の軍服を隙なく着こなし、腕を組んで不機嫌極まりない表情を浮かべているヴィオが立っていた。金の瞳は庭師を射殺さんばかりの鋭さで睨みつけている。
「あ、ヴィオさん。おかえりなさい。今日は早かったんですね」
ルカはヴィオの殺気に全く気づいていないかのように、泥のついた手をエプロンで拭いながらパタパタと駆け寄った。
「早めに片付けて戻ってきたというのに……俺の番が他の男とへらへら笑い合っているのを見せられるとは思わなかったな」
ヴィオはルカの腰を強引に引き寄せ、周囲に見せつけるようにそのうなじに顔を近づけた。アルファのフェロモンが威嚇するように放たれ、庭師は震え上がって脱兎のごとく逃げ出してしまった。
「もう、ヴィオさん。彼をいじめないでくださいよ。ただお花の話をしていただけなのに」
「俺はお前が俺以外の奴に向かってその笑顔を向けるのが気に入らないんだ。お前の全ては俺のものだと、あの時刻み込んだだろう」
ヴィオはルカの首筋にある番の印を指でなぞりながら、独占欲を隠そうともせずに不満げに眉を寄せた。ルカはその様子を見て、ふふっと吹き出してしまった。特務機関のエリート官僚として恐れられるヴィオが、自分にだけ見せるこの子供のような嫉妬深さが、たまらなく愛おしかったのだ。
「笑い事じゃない。罰として、今日は一日中俺の部屋から出すつもりはないからな」
ヴィオはルカをひょいと横抱きに持ち上げると、そのまま屋敷の奥へと歩き出した。ルカはヴィオの首に腕を回し、その微熱を帯びた肌の感触に満足げに目を細めた。
「はいはい。いっぱい温めてあげますから、機嫌直してくださいね」
春の陽光が差し込む廊下には、二人の甘いフェロモンが溶け合い、幸福な空気がどこまでも広がっていた。
ヴィオの屋敷の中庭は、ルカの手によってすっかり生まれ変わっていた。かつては寒々しかった温室の跡地には色とりどりの春の花が咲き乱れ、甘い花の香りが風に乗って屋敷の中まで漂ってくるようになった。
その日の午後、ルカは庭師の青年と一緒に、新しく植える苗の配置について楽しそうに話し合っていた。カピバラ獣人であるルカは、持ち前の温厚さと人懐っこさで、屋敷の使用人たちから完全に奥様として慕われ、愛されている。ルカの周りには常に穏やかな空気が流れ、彼の放つ甘い干し草のフェロモンは、ヴィオのマーキングによって複雑で深みのある匂いに変化していたが、それでも周囲に安心感を与える力は健在だった。
「ルカ様、この青い花は日陰の方が育ちやすいそうです。こちらへ植えましょうか」
「本当ですか。じゃあ、そっちの木の陰にお願いします。わあ、咲くのが楽しみですね」
ルカが庭師に向かって無邪気に微笑んだ、その時だった。
二人の背後から、中庭の空気を一瞬にして凍りつかせるような、鋭く冷たい気配が急接近してきた。
「……楽しそうだな、ルカ」
地を這うような低い声に、庭師の青年はびくっと肩を震わせて直立不動の姿勢をとった。振り返ると、そこには特務機関の軍服を隙なく着こなし、腕を組んで不機嫌極まりない表情を浮かべているヴィオが立っていた。金の瞳は庭師を射殺さんばかりの鋭さで睨みつけている。
「あ、ヴィオさん。おかえりなさい。今日は早かったんですね」
ルカはヴィオの殺気に全く気づいていないかのように、泥のついた手をエプロンで拭いながらパタパタと駆け寄った。
「早めに片付けて戻ってきたというのに……俺の番が他の男とへらへら笑い合っているのを見せられるとは思わなかったな」
ヴィオはルカの腰を強引に引き寄せ、周囲に見せつけるようにそのうなじに顔を近づけた。アルファのフェロモンが威嚇するように放たれ、庭師は震え上がって脱兎のごとく逃げ出してしまった。
「もう、ヴィオさん。彼をいじめないでくださいよ。ただお花の話をしていただけなのに」
「俺はお前が俺以外の奴に向かってその笑顔を向けるのが気に入らないんだ。お前の全ては俺のものだと、あの時刻み込んだだろう」
ヴィオはルカの首筋にある番の印を指でなぞりながら、独占欲を隠そうともせずに不満げに眉を寄せた。ルカはその様子を見て、ふふっと吹き出してしまった。特務機関のエリート官僚として恐れられるヴィオが、自分にだけ見せるこの子供のような嫉妬深さが、たまらなく愛おしかったのだ。
「笑い事じゃない。罰として、今日は一日中俺の部屋から出すつもりはないからな」
ヴィオはルカをひょいと横抱きに持ち上げると、そのまま屋敷の奥へと歩き出した。ルカはヴィオの首に腕を回し、その微熱を帯びた肌の感触に満足げに目を細めた。
「はいはい。いっぱい温めてあげますから、機嫌直してくださいね」
春の陽光が差し込む廊下には、二人の甘いフェロモンが溶け合い、幸福な空気がどこまでも広がっていた。
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