鋼鉄の冷徹上司がテロ事件から僕を庇って豹変! 隠されていたのは狂おしいほどの独占欲でした

水凪しおん

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第6話「帝国の闇」

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 ミカエルがその重い秘密を打ち明けた夜、二人の関係は新たな局面を迎えた。もはや上司と部下ではない。互いの命と未来を預け合う、共闘関係の始まりだった。書斎の暖炉の火が、決意を新たにした二人の顔を赤く照らしている。

「あの襲撃事件のデータ改竄だが、おそらく犯人は宰相だろう」
 ミカエルはソファに深く腰掛け、厳しい表情で切り出した。
「彼は現皇帝派の重鎮であり、私が皇族の血を引くことを知っている数少ない人物の一人だ。そして、私のことを、ひどく敵視している」

「宰相が……。では、あのテロも、宰相が裏で糸を引いていたと?」
 リオンが問うと、ミカエルは静かに頷いた。
「襲撃は、二つの目的があったと見ている。一つは、情報部の失態を演出し、部長である私を失脚させること。そしてもう一つは……おそらく、君の能力を確かめ、その身柄を確保することだ」

 ミカエルの言葉に、リオンは背筋が寒くなるのを感じた。あの事件は、自分をおびき出すための罠でもあったというのか。
 そこへ、タイミングを見計らったかのように、ミカエルの端末にフィンから暗号化された通信が入った。

『部長、リオン。調べがついた』
 スピーカーから聞こえてくるフィンの声は、いつもより硬い。
『データ改竄を行ったのは、やはり内部の犯行だ。情報部第一課の課長が、外部組織と通じていた痕跡を掴んだ。
 奴は、君がミカエル部長に却下されたはずの完璧な報告書データを、裏で回収して敵に流していたんだ。
 そして、その外部組織だが……とんでもないものに繋がっている』

 フィンは一呼吸置くと、重々しくその組織の名を告げた。
『―――反体制派組織「暁光団」。帝国の転覆を企む、過激派グループだ』

「暁光団……!」
 ミカエルが忌々しげにその名をつぶやく。帝国において、その名はテロと破壊の象徴だった。しかし、彼らはもっと狡猾で、表舞台には決して姿を現さない、影の組織のはずだ。

 フィンは調査結果を続けた。
『彼らの目的は、単なる帝国転覆じゃない。どうやら、非人道的な研究を行っているらしい。捕らえた協力者の口から、断片的な情報を引き出した。「オメガから抽出した特殊なフェロモンを利用して、アルファを精神的に支配する」……そんな、悪魔のような研究だ』

 部屋の空気が、凍りついた。オメガのフェロモンで、アルファを操る。それは、この世界の秩序そのものを根底から覆しかねない、禁忌の技術だ。

『そして、その研究の最終段階として、彼らは最高の素材を探していた。強力で、特殊な資質を持つオメガを。……もう、分かるだろ?』
 フィンの言葉の先を、リオンは嫌でも理解してしまった。

「……僕だ。彼らが探していたのは、僕なんだ」
 声が、震えた。自分の類稀なる情報処理能力。それは、脳の特殊な働きによるもので、同時に、彼のオメガとしての資質にも、何らかの影響を与えているのかもしれない。
 暁光団は、リオンのその特異な才能と、オメガとしての資質の両方を狙っていたのだ。庁舎への襲撃事件は、リオンという存在を確認し、隙あらば攫うための、壮大な罠だったので。

「つまり、宰相は暁光団を利用して、私を失脚させようとし、暁光団は宰相の手引きで、リオンを狙っていた……。利害の一致というわけか」
 ミカエルは、全てのピースがはまったというように、静かに目を閉じた。敵の輪郭が、ようやくはっきりと見えてきた。帝国の宰相と、反体制派組織。あまりにも巨大で、根深い闇だ。

『どうする、ミカエル部長。このことは、すぐにでも陛下に報告すべきでは?』
 フィンの問いに、ミカエルは静かに首を振った。
「いや、まだだ。宰相は用心深い男だ。尻尾を掴ませる前に、我々を潰しにかかるだろう。それに、宮廷内のどこまで彼の息がかかっているか、分からない。下手に動けば、リオンが危険に晒される」

 ミカエルは立ち上がると、窓の外に広がる帝都の夜景を見つめた。その背中は、これから始まるであろう過酷な戦いを前に、静かな覚悟を固めているようだった。

「フィン、君には引き続き、暁光団のアジトの特定を頼む。絶対に無理はするな。情報は、私とリオンだけに」
『了解した』
「リオン」
 ミカエルが振り返り、リオンをまっすぐに見つめる。その瞳には、もはや以前のような甘い庇護の色だけではなく、共に戦うパートナーに向ける、絶対的な信頼の色が宿っていた。
「君には、敵の通信記録や、押収した資料の中から、宰相と暁光団が繋がっている決定的な証拠を見つけ出してほしい。君の能力だけが頼りだ」

「……はい!」
 リオンは力強く頷いた。もう、守られているだけの弱いオメガではない。ミカエルと共に戦うと、そう決めたのだ。恐怖よりも、使命感が勝っていた。彼の隣に立てることが、誇らしかった。

 その夜から、三人の秘密の戦いが始まった。
 昼間は普段通りに業務をこなし、夜になると、ミカエルの書斎が作戦司令室となった。フィンが外部から集めた情報を元に、リオンが膨大なデータを解析し、ミカエルが全体の指揮を執る。

 リオンは、その能力を最大限に発揮した。押収された何千ページにも及ぶ暗号化された文書を、驚異的なスピードで解読していく。そこには、暁光団の非人道的な研究の記録が、克明に記されていた。数えきれないほどのオメガたちが、彼らの犠牲になっている。その事実に、リオンは強い怒りを覚えた。

 そして、ついにリオンは、宰相と暁光団のリーダーが、極秘に交わしていた通信記録の断片を発見する。それは、宰相が暁光団に対し、情報部の内部情報と引き換えに、「最高のサンプル」、つまりリオンの身柄の引き渡しを約束する、動かぬ証拠だった。

「見つけました……!」
 リオンの報告に、ミカエルとフィン(通信越しだが)は息をのんだ。これで、宰相を断罪できる。
 だが、彼らが勝利を確信した、まさにその時だった。
 敵もまた、彼らの動きを察知していたのだ。
 帝国の闇は、彼らが思うよりも、ずっと深く、狡猾だった。
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