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第1話「勇者のための献身」
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最新型VRMMO「エデンズ・スフィア」がサービスを開始して、もうすぐ一年になる。
俺、ユキが所属しているのはプレイヤーの中でもトップクラスの実力を持つ勇者パーティー「光の剣」。
聞こえはいいが、俺の役割は戦闘にほとんど参加しない支援職だ。
主な仕事は仲間たちの装備の修繕、ポーションの補充、食事の準備に野営の設営。
要するに、ただの便利屋だった。
「ユキ、ポーションが切れそうだ。あとで補充しておいてくれ」
「ユキ、俺の剣、少し刃こぼれしてる。直しといて」
「ユキ君、お腹すいちゃったなー。何か作ってくれない?」
仲間たちからの指示はいつも一方的だ。
ドロップアイテムやクエスト報酬の分配も、俺にはほとんど回ってこない。
装備は初期のものから少しマシになった程度で、レベルだってパーティー内で一番低い。
理不尽な扱いだとわかっていても、このパーティーを抜けられないのには理由があった。
「ユキ、いつもありがとう。君がいてくれるから、僕たちは安心して戦えるよ」
そう言って太陽みたいに笑うリーダーのカイ。
勇者の称号を持つ彼はパーティーの顔であり、俺がこの世界にログインする理由そのものだった。
他のメンバーが俺を蔑ろにしても、カイだけは時々こうして優しい言葉をかけてくれる。
その笑顔を見るたびに胸の奥が甘く痛み、もっと彼の役に立ちたいと強く思うのだ。
『カイさんのためなら、なんでもできる』
淡い恋心と呼ぶには、あまりに不釣り合いな感情かもしれない。
でも、この気持ちが俺を支えていた。
いつかカイさんに「君こそが最高のパートナーだ」と言ってもらえる日を夢見て、俺はどんな雑用も文句一つ言わずにこなしてきた。
そして今日、俺たちはついに魔王城の最深部、玉座の間に続く最後の扉の前にたどり着いた。
重厚な黒曜石の扉には禍々しい紋様が刻まれ、隙間からは冷たい魔力が漏れ出している。
「ついにここまで来たな」
カイが緊張の滲む声でつぶやき、仲間たちもゴクリと息を呑んだ。
パーティーの盾役である大男のゴードン、魔法使いのエレナ、盗賊のジン。
誰もが歴戦の強者であることを示す最高ランクの装備に身を包んでいる。
俺だけが、場違いなほどみすぼらしい格好だった。
「ユキ、最終決戦だ。最後のサポートを頼む」
「はい、カイさん!」
俺は弾かれたように返事をし、インベントリから手作りの最高級ポーションとステータスを一時的に上昇させる料理を取り出した。
一つ一つ、カイさんやみんなの勝利を祈りながら作ったものだ。
「これを飲んでください。きっと、力になるはずです」
「ああ、いつも助かるよ」
カイは俺からポーションを受け取ると、優しく微笑んだ。
その視線に頬が熱くなるのを感じながら、俺は俯く。
この戦いが終わったら、俺たちの関係も何か変わるだろうか。
そんな期待が胸をよぎった。
仲間たちが最後の準備を整える中、カイが俺のそばにそっと寄ってきた。
「ユキ」
ひそやかな声で呼ばれ、顔を上げる。
彼の真剣な表情に、心臓が大きく跳ねた。
「この戦いが終わったら、君に伝えたいことがあるんだ」
「え……?」
「だから、必ず生きて戻ってきてほしい」
真摯な瞳で見つめられ、俺は言葉を失った。
伝えたいこと。それは俺がずっと待ち望んでいた言葉かもしれない。
全身の血が沸騰するような熱さを感じながら、俺は力強くうなずいた。
「はい! カイさんも、ご無事で……!」
「ありがとう」
カイはそう言うと、俺の頭を一度だけ優しく撫でた。
その感触に、俺の心は完全に舞い上がってしまう。
『カイさんのために、世界のために、俺ができることならなんでも!』
この時の俺は、純粋にそう信じていた。
この先に待ち受ける絶望も知らずに。
やがて準備が整い、カイが厳かに告げる。
「よし、行こう。世界の運命は、我々『光の剣』にかかっている!」
カイの号令と共に、ゴードンが巨大な扉を押し開ける。
ぎりり、と重い音を立てて開いた扉の向こうには、広大な玉座の間が広がっていた。
天井は高く、ステンドグラスからは不気味な紫色の光が差し込んでいる。
そして、その広間の最も奥。
いくつもの階段を上った先にある巨大な玉座に、一人の男が静かに座っていた。
あれが、魔王アシュト。
漆黒の髪は月光を吸い込んだように艶やかで、肌は陶器のように白い。
顔立ちは神が作り上げた彫刻のように整っており、この世のものとは思えない美しさだった。
禍々しいオーラを放っているわけでもなく、ただ静かに、冷たい理性を宿した瞳でこちらを見つめている。
想像していた恐ろしい魔王の姿とは、あまりにもかけ離れていた。
だが、カイたちはそんな魔王の姿に臆することなく、一斉に武器を構える。
「魔王アシュト! 人々の平和を脅かす存在よ! 勇者カイの名において、お前を討伐する!」
カイの勇ましい声が玉座の間に響き渡る。
いよいよだ。最後の戦いが始まる。
俺はパーティーの後方で固唾をのんで戦況を見守る準備をした。
誰もが傷つかないように、最高のサポートをする。その一心だった。
しかし、カイは武器を構えたまま、なぜか魔王に向かって駆け出そうとしない。
それどころか、彼はゆっくりと振り返り、俺のことを見つめた。
その表情はどこか悲しげで、苦しそうに見えた。
「カイさん……?」
どうしたのだろう。何か作戦があるのか。
俺が戸惑っていると、カイは重々しく口を開いた。
その言葉は、俺の全ての期待と希望を、粉々に打ち砕くには十分すぎるものだった。
俺、ユキが所属しているのはプレイヤーの中でもトップクラスの実力を持つ勇者パーティー「光の剣」。
聞こえはいいが、俺の役割は戦闘にほとんど参加しない支援職だ。
主な仕事は仲間たちの装備の修繕、ポーションの補充、食事の準備に野営の設営。
要するに、ただの便利屋だった。
「ユキ、ポーションが切れそうだ。あとで補充しておいてくれ」
「ユキ、俺の剣、少し刃こぼれしてる。直しといて」
「ユキ君、お腹すいちゃったなー。何か作ってくれない?」
仲間たちからの指示はいつも一方的だ。
ドロップアイテムやクエスト報酬の分配も、俺にはほとんど回ってこない。
装備は初期のものから少しマシになった程度で、レベルだってパーティー内で一番低い。
理不尽な扱いだとわかっていても、このパーティーを抜けられないのには理由があった。
「ユキ、いつもありがとう。君がいてくれるから、僕たちは安心して戦えるよ」
そう言って太陽みたいに笑うリーダーのカイ。
勇者の称号を持つ彼はパーティーの顔であり、俺がこの世界にログインする理由そのものだった。
他のメンバーが俺を蔑ろにしても、カイだけは時々こうして優しい言葉をかけてくれる。
その笑顔を見るたびに胸の奥が甘く痛み、もっと彼の役に立ちたいと強く思うのだ。
『カイさんのためなら、なんでもできる』
淡い恋心と呼ぶには、あまりに不釣り合いな感情かもしれない。
でも、この気持ちが俺を支えていた。
いつかカイさんに「君こそが最高のパートナーだ」と言ってもらえる日を夢見て、俺はどんな雑用も文句一つ言わずにこなしてきた。
そして今日、俺たちはついに魔王城の最深部、玉座の間に続く最後の扉の前にたどり着いた。
重厚な黒曜石の扉には禍々しい紋様が刻まれ、隙間からは冷たい魔力が漏れ出している。
「ついにここまで来たな」
カイが緊張の滲む声でつぶやき、仲間たちもゴクリと息を呑んだ。
パーティーの盾役である大男のゴードン、魔法使いのエレナ、盗賊のジン。
誰もが歴戦の強者であることを示す最高ランクの装備に身を包んでいる。
俺だけが、場違いなほどみすぼらしい格好だった。
「ユキ、最終決戦だ。最後のサポートを頼む」
「はい、カイさん!」
俺は弾かれたように返事をし、インベントリから手作りの最高級ポーションとステータスを一時的に上昇させる料理を取り出した。
一つ一つ、カイさんやみんなの勝利を祈りながら作ったものだ。
「これを飲んでください。きっと、力になるはずです」
「ああ、いつも助かるよ」
カイは俺からポーションを受け取ると、優しく微笑んだ。
その視線に頬が熱くなるのを感じながら、俺は俯く。
この戦いが終わったら、俺たちの関係も何か変わるだろうか。
そんな期待が胸をよぎった。
仲間たちが最後の準備を整える中、カイが俺のそばにそっと寄ってきた。
「ユキ」
ひそやかな声で呼ばれ、顔を上げる。
彼の真剣な表情に、心臓が大きく跳ねた。
「この戦いが終わったら、君に伝えたいことがあるんだ」
「え……?」
「だから、必ず生きて戻ってきてほしい」
真摯な瞳で見つめられ、俺は言葉を失った。
伝えたいこと。それは俺がずっと待ち望んでいた言葉かもしれない。
全身の血が沸騰するような熱さを感じながら、俺は力強くうなずいた。
「はい! カイさんも、ご無事で……!」
「ありがとう」
カイはそう言うと、俺の頭を一度だけ優しく撫でた。
その感触に、俺の心は完全に舞い上がってしまう。
『カイさんのために、世界のために、俺ができることならなんでも!』
この時の俺は、純粋にそう信じていた。
この先に待ち受ける絶望も知らずに。
やがて準備が整い、カイが厳かに告げる。
「よし、行こう。世界の運命は、我々『光の剣』にかかっている!」
カイの号令と共に、ゴードンが巨大な扉を押し開ける。
ぎりり、と重い音を立てて開いた扉の向こうには、広大な玉座の間が広がっていた。
天井は高く、ステンドグラスからは不気味な紫色の光が差し込んでいる。
そして、その広間の最も奥。
いくつもの階段を上った先にある巨大な玉座に、一人の男が静かに座っていた。
あれが、魔王アシュト。
漆黒の髪は月光を吸い込んだように艶やかで、肌は陶器のように白い。
顔立ちは神が作り上げた彫刻のように整っており、この世のものとは思えない美しさだった。
禍々しいオーラを放っているわけでもなく、ただ静かに、冷たい理性を宿した瞳でこちらを見つめている。
想像していた恐ろしい魔王の姿とは、あまりにもかけ離れていた。
だが、カイたちはそんな魔王の姿に臆することなく、一斉に武器を構える。
「魔王アシュト! 人々の平和を脅かす存在よ! 勇者カイの名において、お前を討伐する!」
カイの勇ましい声が玉座の間に響き渡る。
いよいよだ。最後の戦いが始まる。
俺はパーティーの後方で固唾をのんで戦況を見守る準備をした。
誰もが傷つかないように、最高のサポートをする。その一心だった。
しかし、カイは武器を構えたまま、なぜか魔王に向かって駆け出そうとしない。
それどころか、彼はゆっくりと振り返り、俺のことを見つめた。
その表情はどこか悲しげで、苦しそうに見えた。
「カイさん……?」
どうしたのだろう。何か作戦があるのか。
俺が戸惑っていると、カイは重々しく口を開いた。
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