心を閉ざした元天才ピアニストのルームメイトの氷を、寮長の僕が絶対溶かしてみせる。

水凪しおん

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第20話: 302号室の月だけが知っている

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 冬の気配がすぐそこまで近づいてきた、空気が澄んだ夜だった。
 窓から差し込む月明かりが、部屋の中を美しく照らし出している。
 晶と結は、どちらからともなくベランダに出て、並んで手すりに寄りかかり、静かに夜空を見上げていた。吐く息が、白く夜気に溶けていく。
 心地よい沈黙。だが、その沈黙は、今夜はいつもと少しだけ違っていた。何か、大切な言葉が生まれるのを待っているような、張り詰めた静けさだった。
 先にその沈黙を破ったのは、晶だった。
「……結」
「……ん」
「俺さ、お前のことが、好きだ」
 夜空を見上げたまま、晶は呟くように言った。けれど、その声は、真っ直ぐで、少しも震えていなかった。
「ルームメイトとか、寮長とか、そういうの全部関係なく、一人の人間として、雪村結がいい。お前の隣に、ずっといたい」
 結の肩が、微かに震える。
 ゆっくりと、晶の方に顔を向ける。そのガラス玉のようだった瞳には、今はっきりと晶の姿が映り込み、美しい月光を反射して、きらきらと潤んでいた。
 やがて、その瞳から、一筋の涙が静かにこぼれ落ちた。
「……俺も」
 か細い、けれど、確かな声。
「俺も、晶がいい……。晶の、隣がいい……」
 どちらからともなく、そっと手が伸ばされる。冷えた指先が触れ合った瞬間、まるで電流が走ったかのように、互いの温もりが全身を駆け巡った。
 晶は、結の手を優しく握りしめると、もう片方の手で、彼の涙をそっと拭った。
 そして、ゆっくりと顔を近づけ、彼の冷たい唇に、自分の唇を優しく重ねた。
 それは、壊れ物に触れるような、とてもとても優しいキスだった。
 二人の恋の始まりを、告白の言葉を聞いていた302号室の月だけが、静かに、そして祝福するように、優しく照らしていた。
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