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第3話 懐かれたのは、もふもふの聖獣様でした
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立ち上る優しい香りに、フェンリルの唸り声がわずかに弱まった。その黄金の瞳は、目の前の青年と、彼が差し出す木皿のスープとを交互に見つめ、警戒と好奇心の間で揺れ動いているようだった。アルが差し出したスープからは、不思議と敵意や害意が感じられなかった。それどころか、温かく、心を落ち着かせるような気がした。
アルは膝をつき、できるだけ体を小さくして、フェンリルを刺激しないように静かに待った。その目は、ただ純粋に、相手を気遣っていた。
やがて、フェンリルはおそるおそるというように顔を近づけ、鼻先でスープの匂いをくんくんと嗅いだ。そして、意を決したように、ぺろりとスープを舐める。
その瞬間、信じられないことが起こった。
フェンリルの体が、淡い、柔らかな光にふわりと包まれたのだ。光は特に、血を流し続けていた脇腹の傷に集まっていく。すると、まるで早送りで見ているかのように、深くえぐれていた傷がみるみるうちに塞がっていくではないか。引きずっていた足も、痛みが引いたかのように、しっかりと地面を踏みしめている。
「え……?」
アルは我が目を疑った。自分の作ったただのスープに、こんな力があるはずがない。だが、目の前で起きていることは紛れもない現実だった。
フェンリル自身も、己の身に起きた変化に驚いているようだった。しかし、スープの持つ癒やしの力と優しい味に抗うことはできなかった。彼は夢中になるように、木皿に顔をうずめ、一滴残らずスープを飲み干した。
空になった皿から顔を上げたフェンリルの黄金の瞳は、先ほどまでの殺意や警戒心は消え失せ、穏やかで理知的な光を宿していた。そして、彼はアルの目の前に歩み寄ると、その大きな頭をアルの肩にすり、と擦りつけてきた。
「わっ……!」
突然のことに、アルは小さく声を上げる。黒狼の毛は、見た目のごつごつした印象とは違い、驚くほど柔らかく、ふかふかとしていた。まるで極上の絹のようで、触れているだけで心が安らぐ。いわゆる「もふもふ」というやつだ。
クゥン、と子犬のような甘えた鳴き声を漏らしながら、フェンリルはアルの隣にごろりと横たわった。そして、まるで宝物を守るように、その大きな体でアルを優しく囲い込む。その温もりは、冷え切っていたアルの体を芯から温めてくれた。
アルはようやく理解した。自分の料理には、何か特別な力が宿っているらしい。聖獣を癒し、力を与え、そして、心を通わせる不思議な力が。
(僕の料理が……役に立った……?)
王宮で「無能」「味覚音痴」と罵られ、誰にも必要とされないと絶望していた。だが、今、腕の中にあるこの温かい命が、彼の料理を肯定してくれている。その事実が、アルの凍りついた心をゆっくりと溶かしていく。目から、温かい涙がとめどなく溢れ出た。
「よかった……生きてて、よかった……」
アルは、もふもふの毛皮に顔をうずめて声を殺して泣いた。フェンリルはそんな彼を慰めるように、大きな舌で涙をぺろりと舐めとってくれる。
夜が明け、森に朝日が差し込む頃には、アルの心は決まっていた。
王都に戻る場所はない。ならば、ここで生きていこう。この優しくて、もふもふな聖獣様と一緒に。
「君のおかげで、僕は助かった。ありがとう」
アルは黒狼の首を優しく撫でながら言った。
「君の名前、まだ聞いてないや。そうだ……フェンリルだから、『フェン』っていうのはどうかな?」
アルがそう呼びかけると、黒狼――フェンは、嬉しそうに「ワン!」と一声鳴いた。どうやら、その名前を気に入ってくれたらしい。
失意の底で始まった辺境への追放。しかしそれは、アルにとって、かけがえのない相棒との出会い、そして新しい人生の始まりを意味していた。
アルは膝をつき、できるだけ体を小さくして、フェンリルを刺激しないように静かに待った。その目は、ただ純粋に、相手を気遣っていた。
やがて、フェンリルはおそるおそるというように顔を近づけ、鼻先でスープの匂いをくんくんと嗅いだ。そして、意を決したように、ぺろりとスープを舐める。
その瞬間、信じられないことが起こった。
フェンリルの体が、淡い、柔らかな光にふわりと包まれたのだ。光は特に、血を流し続けていた脇腹の傷に集まっていく。すると、まるで早送りで見ているかのように、深くえぐれていた傷がみるみるうちに塞がっていくではないか。引きずっていた足も、痛みが引いたかのように、しっかりと地面を踏みしめている。
「え……?」
アルは我が目を疑った。自分の作ったただのスープに、こんな力があるはずがない。だが、目の前で起きていることは紛れもない現実だった。
フェンリル自身も、己の身に起きた変化に驚いているようだった。しかし、スープの持つ癒やしの力と優しい味に抗うことはできなかった。彼は夢中になるように、木皿に顔をうずめ、一滴残らずスープを飲み干した。
空になった皿から顔を上げたフェンリルの黄金の瞳は、先ほどまでの殺意や警戒心は消え失せ、穏やかで理知的な光を宿していた。そして、彼はアルの目の前に歩み寄ると、その大きな頭をアルの肩にすり、と擦りつけてきた。
「わっ……!」
突然のことに、アルは小さく声を上げる。黒狼の毛は、見た目のごつごつした印象とは違い、驚くほど柔らかく、ふかふかとしていた。まるで極上の絹のようで、触れているだけで心が安らぐ。いわゆる「もふもふ」というやつだ。
クゥン、と子犬のような甘えた鳴き声を漏らしながら、フェンリルはアルの隣にごろりと横たわった。そして、まるで宝物を守るように、その大きな体でアルを優しく囲い込む。その温もりは、冷え切っていたアルの体を芯から温めてくれた。
アルはようやく理解した。自分の料理には、何か特別な力が宿っているらしい。聖獣を癒し、力を与え、そして、心を通わせる不思議な力が。
(僕の料理が……役に立った……?)
王宮で「無能」「味覚音痴」と罵られ、誰にも必要とされないと絶望していた。だが、今、腕の中にあるこの温かい命が、彼の料理を肯定してくれている。その事実が、アルの凍りついた心をゆっくりと溶かしていく。目から、温かい涙がとめどなく溢れ出た。
「よかった……生きてて、よかった……」
アルは、もふもふの毛皮に顔をうずめて声を殺して泣いた。フェンリルはそんな彼を慰めるように、大きな舌で涙をぺろりと舐めとってくれる。
夜が明け、森に朝日が差し込む頃には、アルの心は決まっていた。
王都に戻る場所はない。ならば、ここで生きていこう。この優しくて、もふもふな聖獣様と一緒に。
「君のおかげで、僕は助かった。ありがとう」
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「君の名前、まだ聞いてないや。そうだ……フェンリルだから、『フェン』っていうのはどうかな?」
アルがそう呼びかけると、黒狼――フェンは、嬉しそうに「ワン!」と一声鳴いた。どうやら、その名前を気に入ってくれたらしい。
失意の底で始まった辺境への追放。しかしそれは、アルにとって、かけがえのない相棒との出会い、そして新しい人生の始まりを意味していた。
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