「味がしない」と追放された僕の料理は、聖獣の力を覚醒させるチート能力でした。もふもふ達に溺愛されながら、世界一幸せなレストランを開きます

水凪しおん

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第11話 騎士団長、料理に屈する

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「あなたが、王宮の……騎士団長様?」

 アルは、目の前に現れた重装備の騎士たちを見て、少し驚いたように目を丸くした。特に、中心に立つギデオンの放つ威圧感は、ただ者ではないことを示していた。

 ギデオンは、動揺を顔に出さぬよう努めながら、威厳のある声で告げた。

「いかにも。私は王国騎士団長ギデオン。……見習い料理人アル、だな。王命により、貴殿を王都へお連れする」

 その言葉が出た瞬間、場の空気が凍りついた。

 グルルルルッ!

 アルの隣にいたフェンが、人型から巨大な黒狼の姿へと瞬時に変わり、敵意をむき出しにして唸り声をあげる。上空ではグリフォンが翼を広げ、いつでも襲いかかれる体勢を取っていた。聖獣たちの放つ純粋な殺気に、歴戦の騎士たちでさえ顔色を変え、剣の柄に手をかける。

「待って、フェン!グリフォンも!」

 アルが慌てて二体を制止する。だが、フェンの敵意は収まらない。

『こいつらは、お前をまた不幸にする。王宮になど、帰すものか』

 テレパシーのようなもので、フェンの強い意志がアルに伝わってくる。

 一触即発の、張り詰めた空気。このままでは、戦闘は避けられない。

 その時、アルは意外な提案をした。

「あの、お話を聞く前に、まずはお食事にしませんか?皆さん、長い旅でお疲れでしょう?」

「……なに?」

 ギデオンは、拍子抜けして眉をひそめた。この状況で、食事だと?ふざけているのか。

「お腹が空いていると、話も上手くまとまらないって言いますから。大したものはお出しできませんけど、温かいものならありますよ」

 アルはそう言うと、屈託のない笑顔で騎士たちを自分たちの食卓へと招いた。あまりにも無防備なその態度に、ギデオンたちは毒気を抜かれてしまう。フェンは不満そうにしていたが、アルの決定には逆らえないようだった。

 騎士たちは、戸惑いながらも、勧められるままに丸太の椅子に腰を下ろした。やがて、アルが木の器によそって運んできたのは、見た目はごく素朴な、野菜と肉のシチュー、そして焼きたての黒パンだった。

「こんなもので我々が懐柔できるとでも思ったか」

 ギデオンの部下の一人が、侮るように呟く。ギデオン自身も、儀礼的に一口だけ口にして、話を本題に戻そうと考えていた。

 彼は、スプーンで無造作にシチューをすくい、期待せずに口に運んだ。

 その瞬間、ギデオンの全身に、雷が落ちたかのような衝撃が走った。

「なっ……!?」

 なんだ、この味は。

 濃厚なソースも、希少な香辛料も使われていない。それなのに、野菜の一つ一つ、肉の一片一片から、信じられないほどの深い旨味が溢れ出してくる。それは、ただ「美味しい」という言葉では表現しきれない、命そのものを味わっているかのような、温かく、優しい味だった。

 シチューが喉を通り過ぎると、温かい光が、体の内側からじんわりと広がっていく。王都からの長旅で蓄積した疲労が、まるで雪解け水のように消えていく。凝り固まっていた肩が軽くなり、長年の古傷の痛みが和らぐ。体中に、活力がみなぎってくるのがはっきりと分かった。

 ギデオンは我を忘れ、夢中でシチューをかき込んだ。隣の部下たちも同様だった。誰もが一言も発せず、ただひたすらに、目の前の料理に没頭している。焼きたてのパンをシチューに浸して食べれば、小麦の香ばしさが口いっぱいに広がり、幸福なため息が漏れた。

 あっという間に器を空にしたギデオンは、呆然としていた。たった一杯のシチューで、これほどの効果があるなど、信じがたい。薬師が作るどんな秘薬よりも、神殿の聖水よりも、この料理は明らかに、人の心と体を癒す力を持っていた。

 彼は、悟った。アルの力は、本物だ。これは、おとぎ話でも、誇張された噂でもない。この青年は、神に愛された、特別な存在なのだと。

「……参ったな」

 ギデオンは、空になった器を見つめながら、ぽつりと呟いた。それは、騎士団長としてのプライドも、王命の重圧も全てを忘れさせた、心からの降伏宣言だった。
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