「味がしない」と追放された僕の料理は、聖獣の力を覚醒させるチート能力でした。もふもふ達に溺愛されながら、世界一幸せなレストランを開きます

水凪しおん

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第10話 王国の調査騎士団

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「辺境の『魔物の森』に、聖獣を手懐ける者がいる」

 その驚くべき噂は、村から町へ、町から貴族のサロンへと広がり、ついに王宮の耳にまで届いた。

 原因不明の病で国が揺らぐ中、飛び込んできたその報告は、藁にもすがりたい王宮の重臣たちにとって、一条の光だった。聖獣を手懐けるほどの力を持つ者なら、守護聖獣である神鳥を癒すことができるかもしれない。

 衰弱した国王に代わり、政務を執っていた宰相は、すぐさま国王直属の騎士団長、ギデオンに調査を命じた。

「騎士団長ギデオン。直ちに辺境へ向かい、噂の真偽を確かめよ。もし、その者が実在し、国に益をなす力を持つと判断したならば、いかなる手段を使っても王都へ連れてくるのだ」

「はっ!」

 ギデオンは、王国最強と謳われる騎士団の長だ。四十代半ばの、厳格で実直な男。その眉間には常に深い皺が刻まれ、一切の冗談が通じない堅物として知られていた。

 彼は、今回の任務をどこか冷めた目で見ていた。聖獣を手懐ける者など、おとぎ話の中だけの存在だ。おそらくは、森の薬草師か何かが、偶然珍しい魔獣を手懐けたのを、村人たちが大げさに吹聴しているに過ぎないだろう。

(王子が少し前に追放したという、見習い料理人の噂もあったな。確か、行き先はあの森だったはず……。まさか、そいつではあるまいが)

 ギデオンは、そんなことを考えながら、精鋭の騎士数名を引き連れて王都を発った。

 数日後、彼らは目的の森の麓にある村に到着した。村人たちに話を聞くと、誰もが口を揃えて「森の聖人様」を称賛する。どうやら、ただの噂ではないらしい。ギデオンはわずかに眉をひそめながら、村人の案内に従って森の奥へと足を踏み入れた。

 森の中は、想像していたような禍々しい気配はなく、むしろ清浄な空気に満ちていた。小鳥のさえずりが聞こえ、穏やかな木漏れ日が地面を照らしている。

 やがて、一行は開けた場所にたどり着いた。そして、ギデオンは己の目を疑った。

 そこに広がっていたのは、おとぎ話の一場面のような光景だった。

 一人の青年が、穏やかな笑みを浮かべて、動物たちに食事を与えている。その周りには、伝説に語られる聖獣たちが、まるで忠実な番犬のように控えていた。漆黒の毛並みを持つ巨大な狼。天を覆うほどの翼を持つグリフォン。木の陰からは、森の精霊であるドリアードが微笑みながらこちらを窺っている。きらきらと輝く宝石を生むというカーバンクルの群れが、青年の足元で戯れていた。

 その中心にいる青年は、あまりにも無防備で、あまりにも幸せそうだった。

 ギデオンは息をのんだ。彼がこれまで戦場で対峙してきた、どんな魔物よりも、どんな敵将よりも、目の前にいる聖獣たちの放つプレッシャーは圧倒的だった。もし彼らが本気になれば、自分たち騎士団など一瞬で殲滅されてしまうだろう。

 そして、その聖獣たちが、まるで親鳥を慕う雛のように、たった一人の青年に従っている。

(ありえん……。これが、現実だというのか……)

 ギデオンが高をくくっていた考えは、完全に打ち砕かれた。噂は真実だった。いや、噂以上の、常軌を逸した何かが、この森には存在している。

「あ……」

 その時、青年がこちらに気づいた。その顔を見て、ギデオンはハッとする。見覚えがあった。王宮の厨房の片隅で、いつもおどおどしていた、あの見習いの青年だ。王子に「味覚音痴」と罵られ、追放されていった、アルという名の青年。

 追放された無力な青年が、なぜ、伝説の聖獣たちを従えているのか。

 ギデオンの頭は、混乱の極みにあった。彼は、自分がとんでもない任務を引き受けてしまったことを、この時、初めて悟ったのである。
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