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第13話 帰還の決意
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真実を知ったアルは、静かに俯いた。王宮を、国を、蝕む陰謀。その被害は、国王や神鳥だけでなく、多くの人々にも及んでいるのだろう。アルの脳裏に、自分を蔑み、嘲笑った貴族たちの顔が浮かんだ。そして、何より、何の罪もない自分を「味覚音痴」と断じ、死地へと追いやったクラウス王子の顔が。
自分を追放した国だ。自分を無能と切り捨てた王子だ。彼らがどうなろうと、知ったことではない。救う義理など、どこにもないはずだ。
ここで穏やかに、大切な家族と暮らしていく。それが、アルが見つけた幸せなのだから。
しかし、彼の心には、もう一つの感情が渦巻いていた。料理人としての、純粋な想いだ。
病に苦しむ人々がいる。毒に蝕まれ、弱っていく聖獣がいる。それを知ってしまった以上、見過ごすことなどできるだろうか。もし、自分の料理で救える命があるのなら――。
「……アル、行くな」
静寂を破ったのは、アルの隣にいたフェンの声だった。いつの間にか人型に戻った彼は、アルの肩を掴み、真剣な黄金の瞳でアルを見つめていた。
「お前の身が危ない。王宮は、お前を傷つけた場所だ。そんな場所に、お前を戻すわけにはいかない」
フェンの言葉には、アルを心から案じる響きがあった。彼にとって、国の未来などどうでもいい。ただ、アルが無事でいてくれることだけが、彼の全てだった。
「……ありがとう、フェン。心配してくれてるんだね」
アルは、フェンの手に自分の手を重ねた。
「でもね、僕は……料理人なんだ」
アルは顔を上げ、その瞳には強い決意の光が宿っていた。
「目の前に、お腹を空かせている人がいたら、ご飯を作ってあげたい。苦しんでいる人がいるなら、助けたい。僕の料理で、救える命があるかもしれないのに、何もしないでいるなんて、僕にはできないよ」
それは、彼の根源にある、料理人としての魂の叫びだった。誰かを傷つけるための力ではなく、誰かを幸せにするための力。それが、アルの料理の本質だ。
「だから、行かせてほしい」
アルの強い意志に、フェンはぐっと言葉を詰まらせた。彼は、アルのこういう頑固なところを、そして、どこまでも優しいところを、誰よりも知っていた。そして、そんな彼だからこそ、愛したのだ。
しばらくの沈黙の後、フェンは深く、長い溜息をついた。そして、アルの肩を掴んでいた手を、今度はその頬を包むように優しく添えた。
「……分かった。お前の意志は、固いようだな」
彼は、まるで言い聞かせるように、そして誓うように言った。
「だが、条件がある。お前が行くなら、俺も行く。お前のそばを、片時も離れない。王宮の奴らが、誰一人としてお前に指一本触れさせない。……俺が、お前を必ず守る」
「フェン……」
「お前は一人じゃない。忘れるな」
ぶっきらぼうな言葉の中に込められた、絶対的な愛情。アルは、胸が熱くなるのを感じた。
「うん。ありがとう、フェン」
アルが微笑むと、フェンもわずかに口元を緩めた。
彼らのやり取りを、ギデオンは息をのんで見守っていた。聖獣と人間が、これほどまでに深く、強く結びついている。その絆の美しさに、彼は心を打たれた。
「アル殿……」
ギデオンが感謝の言葉を述べようとすると、アルは彼に向き直り、力強く言った。
「ギデオン様、王都へ案内してください。僕が、僕の料理で、この国のすべてを浄化してみせます」
追放された一人の見習い料理人は、今、国を救う救世主として、自らが捨てられた場所へと帰還することを決意した。その隣には、最強の相棒が寄り添っている。彼らの前には、もはや何も恐れるものはなかった。
自分を追放した国だ。自分を無能と切り捨てた王子だ。彼らがどうなろうと、知ったことではない。救う義理など、どこにもないはずだ。
ここで穏やかに、大切な家族と暮らしていく。それが、アルが見つけた幸せなのだから。
しかし、彼の心には、もう一つの感情が渦巻いていた。料理人としての、純粋な想いだ。
病に苦しむ人々がいる。毒に蝕まれ、弱っていく聖獣がいる。それを知ってしまった以上、見過ごすことなどできるだろうか。もし、自分の料理で救える命があるのなら――。
「……アル、行くな」
静寂を破ったのは、アルの隣にいたフェンの声だった。いつの間にか人型に戻った彼は、アルの肩を掴み、真剣な黄金の瞳でアルを見つめていた。
「お前の身が危ない。王宮は、お前を傷つけた場所だ。そんな場所に、お前を戻すわけにはいかない」
フェンの言葉には、アルを心から案じる響きがあった。彼にとって、国の未来などどうでもいい。ただ、アルが無事でいてくれることだけが、彼の全てだった。
「……ありがとう、フェン。心配してくれてるんだね」
アルは、フェンの手に自分の手を重ねた。
「でもね、僕は……料理人なんだ」
アルは顔を上げ、その瞳には強い決意の光が宿っていた。
「目の前に、お腹を空かせている人がいたら、ご飯を作ってあげたい。苦しんでいる人がいるなら、助けたい。僕の料理で、救える命があるかもしれないのに、何もしないでいるなんて、僕にはできないよ」
それは、彼の根源にある、料理人としての魂の叫びだった。誰かを傷つけるための力ではなく、誰かを幸せにするための力。それが、アルの料理の本質だ。
「だから、行かせてほしい」
アルの強い意志に、フェンはぐっと言葉を詰まらせた。彼は、アルのこういう頑固なところを、そして、どこまでも優しいところを、誰よりも知っていた。そして、そんな彼だからこそ、愛したのだ。
しばらくの沈黙の後、フェンは深く、長い溜息をついた。そして、アルの肩を掴んでいた手を、今度はその頬を包むように優しく添えた。
「……分かった。お前の意志は、固いようだな」
彼は、まるで言い聞かせるように、そして誓うように言った。
「だが、条件がある。お前が行くなら、俺も行く。お前のそばを、片時も離れない。王宮の奴らが、誰一人としてお前に指一本触れさせない。……俺が、お前を必ず守る」
「フェン……」
「お前は一人じゃない。忘れるな」
ぶっきらぼうな言葉の中に込められた、絶対的な愛情。アルは、胸が熱くなるのを感じた。
「うん。ありがとう、フェン」
アルが微笑むと、フェンもわずかに口元を緩めた。
彼らのやり取りを、ギデオンは息をのんで見守っていた。聖獣と人間が、これほどまでに深く、強く結びついている。その絆の美しさに、彼は心を打たれた。
「アル殿……」
ギデオンが感謝の言葉を述べようとすると、アルは彼に向き直り、力強く言った。
「ギデオン様、王都へ案内してください。僕が、僕の料理で、この国のすべてを浄化してみせます」
追放された一人の見習い料理人は、今、国を救う救世主として、自らが捨てられた場所へと帰還することを決意した。その隣には、最強の相棒が寄り添っている。彼らの前には、もはや何も恐れるものはなかった。
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