6 / 24
第5話「我が国の至宝」
しおりを挟む
突然、目の前に現れた男の存在感に、ノアは息を呑んだ。
日に焼けた肌、彫りの深い精悍な顔立ち。そして何より、視線を逸らせなくなるほど強く輝く瑠璃色の瞳。周囲の人間とは明らかに違う、王者の風格を纏っていた。
彼が誰なのか、ノアにはわからなかった。だが、彼がただ者ではないことだけは、痛いほど伝わってきた。
「私がこの国の王、ジャファルだ」
男が静かに告げた言葉に、周囲の人々が一斉にどよめき、その場に膝をついた。ノアも慌てて跪こうとしたが、その肩を力強い手がそっと掴んで止める。
「君はいい。顔を上げてくれ」
促されるままに顔を上げると、王と名乗った男――ジャファルは、驚くほど優しい眼差しでノアを見つめていた。
「君の名を聞かせてくれるか」
「ノ、ノア……です」
か細く答えると、ジャファルは「ノアか」と愛おしそうにその名を呟いた。
「ノア、君に頼みがある。どうか、私と共に王宮へ来てほしい」
「え……?」
突然の申し出に、ノアは目を瞬かせる。王宮へ?なぜ僕が?
「君のその素晴らしい力について、詳しく話が聞きたい。君は、我が国が長年待ち望んでいた奇跡そのものだ」
ジャファルの言葉には、一片の疑いも迷いもなかった。その真っ直ぐな視線と、熱のこもった言葉に、ノアはただ圧倒されるばかりだった。
商隊のガシムさんたちが心配そうにこちらを見ていたが、ジャファル王が丁寧に事情を説明し、ノアを客として丁重に招くことを約束すると、彼らも安堵したように送り出してくれた。
豪華な装飾が施された馬車に乗せられ、王宮へと向かう道中、ノアの心はずっと戸惑いでいっぱいだった。
(どうして、僕なんかが……)
不吉な力だと言われ、忌み嫌われてきた人生。追放され、ただ生きるためだけに彷徨っていた自分が、一国の王に招かれるなど、夢にも思わなかった。
王宮は、太陽の光をふんだんに取り入れた、白と金を基調とする壮麗な建物だった。案内された一室は、今まで暮らしていた屋根裏部屋とは比べ物にならないほど広く、豪華な調度品で満たされている。
呆然と部屋の中を見回していると、ジャファルが一人で入ってきた。
「驚かせたか。だが、これでもまだ君を迎えるには足りないくらいだ」
そう言って微笑むジャファルの瞳は、燃えるような熱を帯びていた。彼はノアの目の前に立つと、その両肩を掴む。
「ノア。君の力は、呪いなどでは決してない」
「え……」
「それは、我が国を、苦しむ民を、そして私を……この灼熱地獄から救うために天が遣わした、恵みの光だ」
恵みの、光。
その言葉は、雷のようにノアの心を撃ち抜いた。
影である僕が、光?
「君が生まれてから、どれほど辛い思いをしてきたか、私には想像もつかない。だが、一つだけ言える。君を虐げた者たちは、皆、揃いも揃って見る目のない愚か者だ」
ジャファルは、ノアの痩せた頬にそっと触れた。その手のひらは、日差しのように熱いのに、不思議と心地よかった。
「君は、君のその力は、何物にも代えがたい価値がある」
生まれて初めてだった。
自分の存在を、真正面から肯定されたのは。
自分の力を、価値あるものだと、必要だと、はっきり告げられたのは。
その瞬間、ノアの心の奥で、ずっと固く閉ざされていた何かが、音を立てて壊れた。青い瞳から、堰を切ったように大粒の涙が溢れ出す。声を殺して泣きじゃくるノアを、ジャファルはたまらないといった表情で、その華奢な体を力強く抱きしめた。
「よく、ここまで生きてきてくれた。よく、私の前に現れてくれた」
広い胸に抱かれ、力強い腕に包まれる。背中を優しく撫でる大きな手のひらから、温かい熱が伝わってくる。それは、ノアが生まれて初めて感じる、誰かからの無条件の肯定と庇護だった。
「ノア」
耳元で囁かれる、低く甘い声。
「お前は今日から、この国の至宝だ。私が必ず、お前を守り抜くと誓う」
その言葉は、追放の雨に凍えていたノアの心を、砂漠の太陽のように力強く、そして優しく溶かしていくのだった。
日に焼けた肌、彫りの深い精悍な顔立ち。そして何より、視線を逸らせなくなるほど強く輝く瑠璃色の瞳。周囲の人間とは明らかに違う、王者の風格を纏っていた。
彼が誰なのか、ノアにはわからなかった。だが、彼がただ者ではないことだけは、痛いほど伝わってきた。
「私がこの国の王、ジャファルだ」
男が静かに告げた言葉に、周囲の人々が一斉にどよめき、その場に膝をついた。ノアも慌てて跪こうとしたが、その肩を力強い手がそっと掴んで止める。
「君はいい。顔を上げてくれ」
促されるままに顔を上げると、王と名乗った男――ジャファルは、驚くほど優しい眼差しでノアを見つめていた。
「君の名を聞かせてくれるか」
「ノ、ノア……です」
か細く答えると、ジャファルは「ノアか」と愛おしそうにその名を呟いた。
「ノア、君に頼みがある。どうか、私と共に王宮へ来てほしい」
「え……?」
突然の申し出に、ノアは目を瞬かせる。王宮へ?なぜ僕が?
「君のその素晴らしい力について、詳しく話が聞きたい。君は、我が国が長年待ち望んでいた奇跡そのものだ」
ジャファルの言葉には、一片の疑いも迷いもなかった。その真っ直ぐな視線と、熱のこもった言葉に、ノアはただ圧倒されるばかりだった。
商隊のガシムさんたちが心配そうにこちらを見ていたが、ジャファル王が丁寧に事情を説明し、ノアを客として丁重に招くことを約束すると、彼らも安堵したように送り出してくれた。
豪華な装飾が施された馬車に乗せられ、王宮へと向かう道中、ノアの心はずっと戸惑いでいっぱいだった。
(どうして、僕なんかが……)
不吉な力だと言われ、忌み嫌われてきた人生。追放され、ただ生きるためだけに彷徨っていた自分が、一国の王に招かれるなど、夢にも思わなかった。
王宮は、太陽の光をふんだんに取り入れた、白と金を基調とする壮麗な建物だった。案内された一室は、今まで暮らしていた屋根裏部屋とは比べ物にならないほど広く、豪華な調度品で満たされている。
呆然と部屋の中を見回していると、ジャファルが一人で入ってきた。
「驚かせたか。だが、これでもまだ君を迎えるには足りないくらいだ」
そう言って微笑むジャファルの瞳は、燃えるような熱を帯びていた。彼はノアの目の前に立つと、その両肩を掴む。
「ノア。君の力は、呪いなどでは決してない」
「え……」
「それは、我が国を、苦しむ民を、そして私を……この灼熱地獄から救うために天が遣わした、恵みの光だ」
恵みの、光。
その言葉は、雷のようにノアの心を撃ち抜いた。
影である僕が、光?
「君が生まれてから、どれほど辛い思いをしてきたか、私には想像もつかない。だが、一つだけ言える。君を虐げた者たちは、皆、揃いも揃って見る目のない愚か者だ」
ジャファルは、ノアの痩せた頬にそっと触れた。その手のひらは、日差しのように熱いのに、不思議と心地よかった。
「君は、君のその力は、何物にも代えがたい価値がある」
生まれて初めてだった。
自分の存在を、真正面から肯定されたのは。
自分の力を、価値あるものだと、必要だと、はっきり告げられたのは。
その瞬間、ノアの心の奥で、ずっと固く閉ざされていた何かが、音を立てて壊れた。青い瞳から、堰を切ったように大粒の涙が溢れ出す。声を殺して泣きじゃくるノアを、ジャファルはたまらないといった表情で、その華奢な体を力強く抱きしめた。
「よく、ここまで生きてきてくれた。よく、私の前に現れてくれた」
広い胸に抱かれ、力強い腕に包まれる。背中を優しく撫でる大きな手のひらから、温かい熱が伝わってくる。それは、ノアが生まれて初めて感じる、誰かからの無条件の肯定と庇護だった。
「ノア」
耳元で囁かれる、低く甘い声。
「お前は今日から、この国の至宝だ。私が必ず、お前を守り抜くと誓う」
その言葉は、追放の雨に凍えていたノアの心を、砂漠の太陽のように力強く、そして優しく溶かしていくのだった。
77
あなたにおすすめの小説
『偽物の番』だと捨てられた不憫な第三王子、隣国の冷徹皇帝に拾われて真実の愛を教え込まれる
レイ
BL
「出来損ない」と捨てられた場所は、私の居場所ではありませんでした。
ラングリス王国の第三王子・フィオーレは、王族の証である『聖種の紋様』が現れなかったことで「偽物の番」と罵られ、雪降る国境へと追放される。
死を覚悟した彼の前に現れたのは、隣国アイゼン帝国の「冷徹皇帝」ヴォルフラムだった。
婚約破棄されてヤケになって戦に乱入したら、英雄にされた上に美人で可愛い嫁ができました。
零壱
BL
自己肯定感ゼロ×圧倒的王太子───美形スパダリ同士の成長と恋のファンタジーBL。
鎖国国家クルシュの第三王子アースィムは、結婚式目前にして長年の婚約を一方的に破棄される。
ヤケになり、賑やかな幼馴染み達を引き連れ無関係の戦場に乗り込んだ結果───何故か英雄に祭り上げられ、なぜか嫁(男)まで手に入れてしまう。
「自分なんかがこんなどちゃくそ美人(男)を……」と悩むアースィム(攻)と、
「この私に不満があるのか」と詰め寄る王太子セオドア(受)。
互いを想い合う二人が紡ぐ、恋と成長の物語。
※諸事情により、本編、番外編「嫁溺愛大将と幼馴染み達」「イザームさんとルーカスくん」のみ再掲します。
「羽化」
「案外、短気」
「飴と鞭」
は未公開のままで失礼いたします。
追放オメガ聖帝の幸せな結婚〜クールなスパダリ騎士に拾われて溺愛されるまで〜
あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
ノルディーナ王国の聖帝サーナは、教皇のありもしない嘘のせいで聖宮から追放されてしまう。
行く当てがないサーナが国境に向かうと、そこで隣国ルミルカ王国の騎士であるムーシュと出会う。ムーシュから諸事情により偽装結婚を提案されて、サーナは期限付きの偽装結婚ならばよいと承諾し、一時的に保護してもらうことに。
異国暮らしに慣れていく中で、やがてムーシュから溺愛されるようになり……?
【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。
明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。
新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。
しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…?
冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。
【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる
ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。
この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。
ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。
禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り
結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。
そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。
冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。
愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。
禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。
追放された悪役令嬢、規格外魔力でもふもふ聖獣を手懐け隣国の王子に溺愛される
黒崎隼人
ファンタジー
「ようやく、この息苦しい生活から解放される!」
無実の罪で婚約破棄され、国外追放を言い渡された公爵令嬢エレオノーラ。しかし彼女は、悲しむどころか心の中で歓喜の声をあげていた。完璧な淑女の仮面の下に隠していたのは、国一番と謳われた祖母譲りの規格外な魔力。追放先の「魔の森」で力を解放した彼女の周りには、伝説の聖獣グリフォンをはじめ、可愛いもふもふ達が次々と集まってきて……!?
自由気ままなスローライフを満喫する元悪役令嬢と、彼女のありのままの姿に惹かれた「氷の王子」。二人の出会いが、やがて二つの国の運命を大きく動かすことになる。
窮屈な世界から解き放たれた少女が、本当の自分と最高の幸せを見つける、溺愛と逆転の異世界ファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる