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第13話「月夜のオアシスで」
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故郷からの使者が去り、王宮に再び平穏が戻った日の夜。
ジャファルはノアを伴って、王宮の奥にある秘密の中庭へとやってきた。そこは、歴代の王だけが知るという、小さなオアシスだった。
月明かりが水面にきらきらと反射し、周囲に植えられた夜に咲く白い花々が甘い香りを放っている。まるで物語の中のような、幻想的な場所だった。
「ここは、私が子供の頃、一人になりたい時によく来ていた場所なんだ」
ジャファルは、水辺に腰を下ろしながら、懐かしそうに言った。ノアも、その隣にそっと座る。
「ユリウス殿とのこと、お前の中では整理はついたか?」
「はい。……弟も、苦しんでいたんだって、初めて知りました。もう、大丈夫です」
「そうか」
ジャファルは安堵したように微笑むと、ノアの髪に優しく触れた。
「ノア。お前と出会うまで、私の世界は、この国と同じで、どこか乾いていた」
静かな水音だけが響く中、ジャファルはゆっくりと語り始めた。
「王として民を愛し、国を守る責任に誇りを持っていた。だが、どうすることもできない灼熱の太陽を前に、無力感を覚える日も少なくなかった。私の世界は、責務と焦燥、そしてわずかな諦めで満たされていたんだ」
その瑠璃色の瞳が、真っ直ぐにノアを捉える。
「だが、お前が現れた。お前の作り出す優しい影は、ただ日差しを遮るだけじゃない。乾いていた私の心まで潤してくれた。民がお前の影の下で笑うのを見るたびに、私の世界は色鮮やかになっていった。お前は、私の世界に光をもたらしてくれたんだ」
それは、今まで聞いたことのない、ジャファルの弱さであり、本心だった。
「だから、もう手放せない。ノア、お前の影だけでなく、お前のその優しい心、傷つきやすい魂、その全てを……私は愛している」
熱烈な、愛の告白。
月の光を浴びて輝くジャファルの顔は、息を呑むほど美しく、真剣だった。
ノアの心臓が、大きく音を立てて跳ねる。頬が、耳が、熱い。
でも、もう自分の気持ちから目を逸らしたくなかった。
「俺も……」
か細い、けれど確かな声で、ノアは応えた。
「俺も、あなたの傍にいたいです。あなたがくれる温かい場所が、あなたの隣が、俺にとっての……光です」
その言葉は、ジャファルにとって最高の答えだった。
彼はノアの頬に手を添え、ゆっくりと顔を近づける。触れ合う吐息が熱い。やがて、二人の唇が、そっと重ねられた。
それは、花の蜜のように甘く、オアシスの水のように清らかな、初めての口づけだった。
月明かりが照らす幻想的な場所で、捨てられた影と、光を渇望した王は、固く、そして永遠に結ばれたのだった。
ジャファルはノアを伴って、王宮の奥にある秘密の中庭へとやってきた。そこは、歴代の王だけが知るという、小さなオアシスだった。
月明かりが水面にきらきらと反射し、周囲に植えられた夜に咲く白い花々が甘い香りを放っている。まるで物語の中のような、幻想的な場所だった。
「ここは、私が子供の頃、一人になりたい時によく来ていた場所なんだ」
ジャファルは、水辺に腰を下ろしながら、懐かしそうに言った。ノアも、その隣にそっと座る。
「ユリウス殿とのこと、お前の中では整理はついたか?」
「はい。……弟も、苦しんでいたんだって、初めて知りました。もう、大丈夫です」
「そうか」
ジャファルは安堵したように微笑むと、ノアの髪に優しく触れた。
「ノア。お前と出会うまで、私の世界は、この国と同じで、どこか乾いていた」
静かな水音だけが響く中、ジャファルはゆっくりと語り始めた。
「王として民を愛し、国を守る責任に誇りを持っていた。だが、どうすることもできない灼熱の太陽を前に、無力感を覚える日も少なくなかった。私の世界は、責務と焦燥、そしてわずかな諦めで満たされていたんだ」
その瑠璃色の瞳が、真っ直ぐにノアを捉える。
「だが、お前が現れた。お前の作り出す優しい影は、ただ日差しを遮るだけじゃない。乾いていた私の心まで潤してくれた。民がお前の影の下で笑うのを見るたびに、私の世界は色鮮やかになっていった。お前は、私の世界に光をもたらしてくれたんだ」
それは、今まで聞いたことのない、ジャファルの弱さであり、本心だった。
「だから、もう手放せない。ノア、お前の影だけでなく、お前のその優しい心、傷つきやすい魂、その全てを……私は愛している」
熱烈な、愛の告白。
月の光を浴びて輝くジャファルの顔は、息を呑むほど美しく、真剣だった。
ノアの心臓が、大きく音を立てて跳ねる。頬が、耳が、熱い。
でも、もう自分の気持ちから目を逸らしたくなかった。
「俺も……」
か細い、けれど確かな声で、ノアは応えた。
「俺も、あなたの傍にいたいです。あなたがくれる温かい場所が、あなたの隣が、俺にとっての……光です」
その言葉は、ジャファルにとって最高の答えだった。
彼はノアの頬に手を添え、ゆっくりと顔を近づける。触れ合う吐息が熱い。やがて、二人の唇が、そっと重ねられた。
それは、花の蜜のように甘く、オアシスの水のように清らかな、初めての口づけだった。
月明かりが照らす幻想的な場所で、捨てられた影と、光を渇望した王は、固く、そして永遠に結ばれたのだった。
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