18 / 24
第17話「民と共に」
しおりを挟む
サルディスとの開戦が決定的となり、バシラの王都は緊張感に包まれた。男たちは武器を手に取り、女や子供たちは、不安な面持ちで兵士として出ていく家族を見送っている。
ノアは、王宮のバルコニーからその光景を見て、再び胸を痛めていた。ジャファルに励まされ、一度は持ち直した心も、民の不安な顔を見るたびに、罪悪感で押しつぶされそうになる。
(僕さえいなければ……)
その考えが、頭から離れない。
自分一人がサルディスに行けば、この戦は終わるのではないか。そんな考えすら、ノアの頭をよぎった。
そんな思い詰めた様子のノアに、侍女の一人が心配そうに声をかけた。
「ノア様、お顔の色が優れませんわ」
「……僕のせいで、皆を危険な目に合わせてしまって……申し訳なくて……」
俯くノアに、その侍女は驚いたように目を丸くし、そして、ふわりと優しく微笑んだ。
「まあ、何を仰いますか。私たちが今、こうして日中に家の外で準備ができるのも、ノア様が『聖なる天蓋』で暑さを和らげてくださっているからですわ」
「え……?」
「みんな、知っております。ノア様が、この国と私たちのために、毎日お力を使い続けてくださっていることを。感謝こそすれ、ノア様を責める者など、この国には一人もおりません」
侍女だけではなかった。
市場へ行けば、商人たちが威勢のいい声をかけてくる。
「ノア様!あんたのことは俺たちが守ってやるから、心配すんな!」
「そうだそうだ!我らが至宝を、好きにはさせん!」
子供たちまでもが、小さな木切れを剣に見立てて、ノアの周りを囲んだ。
「ノア様は、ぼくたちがおまもりするんだ!」
民衆は、ノアを責めるどころか、自分たちの宝である彼を守るために、武器を手に立ち上がっていたのだ。彼らにとって、ノアはもはや戦争の原因などではなく、共に国を守るべき、大切な存在だった。
民の温かい想いが、冷え切っていたノアの心をじんわりと溶かしていく。
ああ、僕は、なんて愚かなことを考えていたんだろう。
この人たちを、見捨てることなんてできない。この人たちが愛するこの国を、僕も愛している。
そして何より、僕を信じ、命をかけて守ると言ってくれた、ジャファルがいる。
逃げるんじゃない。
自分を犠牲にするのでもない。
僕も、この国の一員として、愛する人々と、愛する王様のために、戦うんだ。
決意を固めたノアの目に、再び強い光が戻った。
彼は王宮に戻ると、出陣の準備を進めるジャファルの元へ向かった。
「ジャファル様」
声をかけると、見事な甲冑を身につけたジャファルが振り返った。その姿は、神々しいほどに勇ましかった。
「ノアか。どうした?」
「俺も、戦います」
「なに?」
「俺のこの力で、あなたと、バシラの民を守ります。だから、どうか俺を王宮に残し、ここからあなたを援護させてください」
その言葉を聞いたジャファルは、一瞬驚いたが、すぐに誇らしげな笑みを浮かべた。
「……ああ、わかった。信じているぞ、ノア」
ジャファルはノアの額に、そっと口づけを落とした。
「必ず、生きてお前の元へ帰る」
「はい……!お待ちしています」
ノアは、民の温かい想いと、自分を信じてくれるジャファルの存在に支えられ、ついに迷いを振り払った。愛する国と人々のために、自分の持つ力のすべてを懸けて戦うことを、固く心に誓ったのだった。
ノアは、王宮のバルコニーからその光景を見て、再び胸を痛めていた。ジャファルに励まされ、一度は持ち直した心も、民の不安な顔を見るたびに、罪悪感で押しつぶされそうになる。
(僕さえいなければ……)
その考えが、頭から離れない。
自分一人がサルディスに行けば、この戦は終わるのではないか。そんな考えすら、ノアの頭をよぎった。
そんな思い詰めた様子のノアに、侍女の一人が心配そうに声をかけた。
「ノア様、お顔の色が優れませんわ」
「……僕のせいで、皆を危険な目に合わせてしまって……申し訳なくて……」
俯くノアに、その侍女は驚いたように目を丸くし、そして、ふわりと優しく微笑んだ。
「まあ、何を仰いますか。私たちが今、こうして日中に家の外で準備ができるのも、ノア様が『聖なる天蓋』で暑さを和らげてくださっているからですわ」
「え……?」
「みんな、知っております。ノア様が、この国と私たちのために、毎日お力を使い続けてくださっていることを。感謝こそすれ、ノア様を責める者など、この国には一人もおりません」
侍女だけではなかった。
市場へ行けば、商人たちが威勢のいい声をかけてくる。
「ノア様!あんたのことは俺たちが守ってやるから、心配すんな!」
「そうだそうだ!我らが至宝を、好きにはさせん!」
子供たちまでもが、小さな木切れを剣に見立てて、ノアの周りを囲んだ。
「ノア様は、ぼくたちがおまもりするんだ!」
民衆は、ノアを責めるどころか、自分たちの宝である彼を守るために、武器を手に立ち上がっていたのだ。彼らにとって、ノアはもはや戦争の原因などではなく、共に国を守るべき、大切な存在だった。
民の温かい想いが、冷え切っていたノアの心をじんわりと溶かしていく。
ああ、僕は、なんて愚かなことを考えていたんだろう。
この人たちを、見捨てることなんてできない。この人たちが愛するこの国を、僕も愛している。
そして何より、僕を信じ、命をかけて守ると言ってくれた、ジャファルがいる。
逃げるんじゃない。
自分を犠牲にするのでもない。
僕も、この国の一員として、愛する人々と、愛する王様のために、戦うんだ。
決意を固めたノアの目に、再び強い光が戻った。
彼は王宮に戻ると、出陣の準備を進めるジャファルの元へ向かった。
「ジャファル様」
声をかけると、見事な甲冑を身につけたジャファルが振り返った。その姿は、神々しいほどに勇ましかった。
「ノアか。どうした?」
「俺も、戦います」
「なに?」
「俺のこの力で、あなたと、バシラの民を守ります。だから、どうか俺を王宮に残し、ここからあなたを援護させてください」
その言葉を聞いたジャファルは、一瞬驚いたが、すぐに誇らしげな笑みを浮かべた。
「……ああ、わかった。信じているぞ、ノア」
ジャファルはノアの額に、そっと口づけを落とした。
「必ず、生きてお前の元へ帰る」
「はい……!お待ちしています」
ノアは、民の温かい想いと、自分を信じてくれるジャファルの存在に支えられ、ついに迷いを振り払った。愛する国と人々のために、自分の持つ力のすべてを懸けて戦うことを、固く心に誓ったのだった。
22
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
美人なのに醜いと虐げられる転生公爵令息は、婚約破棄と家を捨てて成り上がることを画策しています。
竜鳴躍
BL
ミスティ=エルフィードには前世の記憶がある。
男しかいないこの世界、横暴な王子の婚約者であることには絶望しかない。
家族も屑ばかりで、母親(男)は美しく生まれた息子に嫉妬して、徹底的にその美を隠し、『醜い』子として育てられた。
前世の記憶があるから、本当は自分が誰よりも美しいことは分かっている。
前世の記憶チートで優秀なことも。
だけど、こんな家も婚約者も捨てたいから、僕は知られないように自分を磨く。
愚かで醜い子として婚約破棄されたいから。
偽物勇者は愛を乞う
きっせつ
BL
ある日。異世界から本物の勇者が召喚された。
六年間、左目を失いながらも勇者として戦い続けたニルは偽物の烙印を押され、勇者パーティから追い出されてしまう。
偽物勇者として逃げるように人里離れた森の奥の小屋で隠遁生活をし始めたニル。悲嘆に暮れる…事はなく、勇者の重圧から解放された彼は没落人生を楽しもうとして居た矢先、何故か勇者パーティとして今も戦っている筈の騎士が彼の前に現れて……。
追放されたので路地裏で工房を開いたら、お忍びの皇帝陛下に懐かれてしまい、溺愛されています
水凪しおん
BL
「お前は役立たずだ」――。
王立錬金術師工房を理不尽に追放された青年フィオ。彼に残されたのは、物の真の価値を見抜くユニークスキル【神眼鑑定】と、前世で培ったアンティークの修復技術だけだった。
絶望の淵で、彼は王都の片隅に小さな修理屋『時の忘れもの』を開く。忘れられたガラクタに再び命を吹き込む穏やかな日々。そんな彼の前に、ある日、氷のように美しい一人の青年が現れる。
「これを、直してほしい」
レオと名乗る彼が持ち込む品は、なぜか歴史を揺るがすほどの“国宝級”のガラクタばかり。壊れた「物」を通して、少しずつ心を通わせていく二人。しかし、レオが隠し続けたその正体は、フィオの運命を、そして国をも揺るがす、あまりにも大きな秘密だった――。
悪役令嬢と呼ばれた侯爵家三男は、隣国皇子に愛される
木月月
BL
貴族学園に通う主人公、シリル。ある日、ローズピンクな髪が特徴的な令嬢にいきなりぶつかられ「悪役令嬢」と指を指されたが、シリルはれっきとした男。令嬢ではないため無視していたら、学園のエントランスの踊り場の階段から突き落とされる。骨折や打撲を覚悟してたシリルを抱き抱え助けたのは、隣国からの留学生で同じクラスに居る第2皇子殿下、ルシアン。シリルの家の侯爵家にホームステイしている友人でもある。シリルを突き落とした令嬢は「その人、悪役令嬢です!離れて殿下!」と叫び、ルシアンはシリルを「護るべきものだから、守った」といい始めーー
※この話は小説家になろうにも掲載しています。
前世が教師だった少年は辺境で愛される
結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。
ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。
雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
推しのために自分磨きしていたら、いつの間にか婚約者!
木月月
BL
異世界転生したモブが、前世の推し(アプリゲームの攻略対象者)の幼馴染な側近候補に同担拒否されたので、ファンとして自分磨きしたら推しの婚約者にされる話。
この話は小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる